第31話 七塔4

 昼とは異なり人でごった返すということはない。しかし、繁栄する都であれば、それなりにはおった。


 そのような中を、惰眼の塔主コクウゾは指定された地へ向かっておった。住む人は時とともに変わっておるのだろうが、古い都ということもあり、主要建築物や通りの配置など基本となる造りは随分むかしに完成し、変わっておらぬ。長き寿命をここにて過ごして来た彼にしてみれば、まさに馴染みの地であり、月明かりのみが頼りとはいえ、迷うこともなかった。




 対して、考えの方はあらぬところをさまよっておった。それは、ただ――できうるなら親友の死を考えたくない。どうしても、そこに引き込まれそうにはなるが――そのゆえであるに他ならぬ。


 まずは身近におるが他愛もない連中――仕え人と自称する者たちである。彼らはいにしえより七塔に属しておったとのたまう。ただ、七塔は魔幻城とともにこの魔都にて最も古いと言われてさえおる。そんな昔からあるものに属しておったとは、どういうことなのか?


 恐らくは、その祖先がいずれかの時代に住み着いたのだろう。そして、時の経過と共にそれが忘れ去られ、彼らにとって都合の好い伝承に改変したのであろう。そう唱えておれば、追い出されずに済むようなものに。


 むしろ、塔主を名乗る我ら、その加護に預かる我らこそ、属しておるというにふさわしくなかろうか? ただ、親友の死を想えば、むしろ、呪いかとさえ想える。


 そして、この惰眼。これもまた呪いなのであろうか? 我と因縁浅からぬ者は、次の如く大法螺ぼらを吹いてみせた。それは『因果をほどく眼である。だから、決して起こしてはならぬ。ゆえに、その名を与えられたのだ』と。


 あてどのない想いを道連れに、彼は着実に目的地に近付いておった。

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