第28話 青鬼さんに相談
それから私ミアは急ぎ青鬼さんの下に向かった。青鬼さんには伝承の他にもう一つ大好きなものがあり、今はしゃがみこんで、それとにらめっこしておった。ちなみに私は大嫌いなのだが。虫である。青鬼さんいわく、ここにも伽藍がある。そう言って、飽きずに虫たちの挙動を眺めておるのだ。今日は葉の上を動き回るテントウムシがそのお相手らしい。
それはそれとして、私は本題に入る。天幕の内でのことのおおよそを話して、尋ねてみた。 十二行に先行して、アンブロウズ様に報告したく想うけど、どう想う?
意見を求めたのだ。青鬼さんは目をテントウムシから外さずに――珍しく私はそんな青鬼さんを半ば見下ろす格好である――しばらく黙っていたが、やがて、答えてくれた。
「正直、我はアンブロウズ殿についても、その派の内実についても、通じておらぬ。かの忍者についても、それは同じ。ただ、そうしたことを別にして、ことを外側のみから見るならば、忍者がなしたことというのは望ましきことなのではないのか?」
「どういうこと?」
「ネフェルタ王の帰還に際しては、首のみより、体付きの方が明らかに良かろう」
「言われてみれば、そうだわ。アンブロウズ様に言われたことと違っていたので、何か悪いことのように考えていたけれど。でも、それでは何で私には揺りかごに首を入れて運ぶように言ったのかしら?」
ここで再びしばらく黙考。やはり、その目はテントウムシを追っている。
「考えられることとしては、保険をうったということであろう。つまり、どちらかがうまく行かなくても、何とかなるようにと。恐らく首を体に付けるというのは、相当に難しい術なのではないか。それは今のネフェルタ王の様子を見ても、何となく推測できよう。とりあえず、付けることには成功したようだが、未だ体を自由に動かすことはできぬようだからな」
「そうね。そう言われれば、その通りだわ。青鬼さんてすごい。私ったら、アンブロウズ様に報告に行かなきゃと想いつめてて、もし青鬼さんがいなかったら、ここを離れてたところだわ」
「あくまで外部から見たらだがな。それに心配だったら、報告に戻ればよい。それが全く無用とも想えぬ。慎重を期すことは悪いことではないからな」
「ううん。いいの。私の早とちりというか考えすぎというか、それに過ぎないことが分かったから。そういえば、アンブロウズ様も忍者さんの指示に従えと言っていたわ。恐らく今の状況――私が戸惑う状況を予測してそう言ったのだわ。そこのところが分かれば、何の問題もないの」
「なるほど。そなた自身が納得しておるなら、それでよい」
「そういえば、六天は『はぐれ幻獣』と関わりがあるの? あの女の人がそんな風なことを言っていたけど」
「うむ。我らの館長たるエクストレ様ははぐれ幻獣ともその血脈とも言われておる」
「本当なの? 何か、すごそう。でも、幻獣と違うの?」
「正直、分からぬ。六天では誰に対しても、その出自は問わぬということが不問律であり礼儀であるとされておる。ゆえに、我自身もあれこれ問われることは無かったし、無論のこと、これは館長自身に対しても同じく当てはまる。ただ、魔道師か否かを問われるのみ」
「そう。知らないの。残念ね」
「今度、聞いてみるが良い」
「えっ。いいの?」
「正直、答えてくれるか? 否、そもそも会ってくれるかさえ、保証できぬが」
「ふーん。まあ、そんなものよね。でも、ものは試しね」
そこから話しはまた青鬼さんの大好きな伝承が話題となった。ただ、今回は青鬼さんが強引にそこに持ち込んだのではなく、不安が取り除かれ、気分が良くなった私の方から、誘い水を向けたのだった。
やがてテントウムシが青空へ飛び立っても、飽きること無く、青鬼さんは語り続けていた。
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