第29話  七塔2

 魔都名物の極彩色の魔雲のもたらす過剰な色の世界から、白と黒の世界へと移り変わるそのとき――それでも、物陰ものかげゆえの明暗がある刻――いわゆるがれどき。


 七塔の1――双子の塔――ゆえに、厳密には2なのだが――その一方の塔のなす暗き影にて、その塔主が亡くなっておった。 そして、その者に寄り添い、ひざまずく者が一人。その者もまた七塔の塔主の一人、惰眼だがんの塔主コクウゾであった。


 既に無益であるとはいえ、助け起こすが如くに、その上半身を両手にて抱え上げる。驚くほどに軽かった。やせ衰えたゆえであった。その原因が、魔都の魔気に群がる魔物に体を食い荒されたゆえであるは明らかであった。


 ただ、それも竜泉――魔都の地下にて魔気湧きいずるところ――に巣くうと言われる強力な魔物なら分からぬでもないが。空中にただよう有象無象のミジンコ魔物によってであった。まともに魔道を使えぬ人間たちにさえ害を与えぬやから。それが、このようなことをなし得るのは、むしろ、この者が七塔の塔主ゆえ。


 我らは塔より巨大な加護を受けておる反面、それゆえに失うものもある。その末路がこれであった。ただ、己もこうなるのか、との想いがコクウゾの心を占めることはなかった。


 その死体にはまったく別の大きな傷があり、あきらかにそちらが致命傷と想われた。魔道によるものであった。あげく、挑戦状の如くまで残されておった。


 この者は、衰えゆくままに、安らかに死ぬことさえ許されなかったのか。コクウゾの口元は血がにじむほどにきつくかみしめられておった。


 彼は死体を抱えたまま立ち上がり、双子の塔に入る。ただ、死んだ者の塔の方ではなく、己の塔の方に。


 その体を塔内に安置するため。そして戻って来たあとに、とむらうために。


 ただ、まず、なすべきことがあった。共に並び立つ双子の塔の塔主であり、加えて幼馴染みであり、なにより長き時をすごした親友のために。コクウゾは、その挑戦状に記された場所に単身、赴くことにした。

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