第25話 あわいを巡る断章その3
月のないその夜、真っ暗闇の中にその男は立っておった。
そこは古戦場。かつては雨が降り、ならば一日にして青き草原と化した。その優良な草を求め、騎馬勢が争った地である。
ただ、やがて雨がまったく降らなくなった。頼りとすべき枯れ川――雪山に水源を持ち、それが溶ける夏には水にありつける――も、地下水脈――井戸を掘れば水を得られる――もこの近辺を通らなければ、人馬は絶え、やがて全てを砂が埋め尽くした。
果たして、その男、何を想ってか、片膝を突くや、地に右の手の平をつける。
すると、まるで逆向きに地上が耕されたごとくに、ところ構わず、穴が開いた。
そうして、指が、首が、足が出た。人のやら馬のやらが一斉に。いずれも肉は腐れ落ち、骨だけとなっておる。ただ眼は燐光をたたえ、爛々としておる。
そうして、そのいずれもが鎧をまとう。人のみでなく馬までもが。そして、その鎧が赤き錆により彩られておれば、まるで骨のみとなっても血を流し続けておる。そのような奇妙な連想に囚われる。
その男は一言。
「あわいへ」
それを聞くや、まともに立てぬ人が、やはりまともに立てぬ馬に乗り、駆け出した。足を引きずり、手をひきずり、あげくは頭をひきずる。あるいは何を勘違いしてか、馬を背負ってもがく人の骸骨もおったが。
そして男は満足げな笑みを浮かべておった。
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