第22話 むむむのむ2(前半)

 私たちは、まさにぞろぞろと連れだって魔都に向かい始めておった。ただ、ネフェルタ王の復活は完全ではないようで、一人では馬にも満足に乗れず、それもあってか、進みはゆったりとしたものであった。


 私はといえば、日一日と経つほどに、その体のことが気になりだしていた。首が何かの拍子に体付きになるなんてことがあるのだろうか。首から小っさい体が生えて来て、それが大きくなった。何とも嫌な連想が芽生え、それで勝手に気持ち悪くなっていては、世話がない。


 そこで、こうしたことを尋ねるのに最適な方がすぐ近くにいることに想い至る。そう物知りの青鬼さんだ。何せ、六天の学者さんである。魔道師でないということが気がかりではあるが。そもそも私の魔道で体付きになったという線はほぼほぼないのだ。


 月は徐々に欠けて来ておるが、相変わらず、毎夜の常で死人使いの声が聞こえる。どうやら、復活の時だけ術をかければ良いというものではないらしい。でも、ネフェルタ王は死者ではないはず。何で死人使いなの?と想うものの、まずは自分が最も気になること。ということで、尋ねてみる。


「そうか。確かにそれは納得しがたきこと。しかし残念ながら、何も教えてやれぬ。我はそうした存在に出くわしたことがない」


「何か聞いたことない? 六天の方々かたがたからとか?」


「あると想うぞ。しかとは憶えておらぬが。しかしミア殿。伝聞ほど当てにならぬものはないのだ。そなたにも我が五山の伝説を研究しておることは、話したろう。我が数十年、日々なしておることといえば、五山にまつわる伝承を一つ一つ調べ尽くすこと。残念ながら、八割方正しくない。否、ここには恐らく我の願望が強く入っておろう。はっきりいえば、嘘いつわりが明らかなのが八割、残り二割は真偽定かならぬというだけのこと。これまで正しいとの確証が得られたものは一つもないのだ。

 せっかくだ。これで何度目になるか分からぬが、何度聞いても面白く興味深かろう。何せ、我は物心つくかつかぬかの頃に初めて聞いて以来、これにとりつかれておるが、未だに一度たりとも飽きるということがない」


(ひぇー。五山の話、来ちゃー)


 私の内心の声である。こうなると、青鬼さんは止まらない。ずっと話し続けるのである。


 しかし、何で、こうなった。


 私は自分の知りたいことを尋ねただけなのに。何で青鬼さんが話したいことを聞かされるの!


 私はうつらうつらしながら、呪詛の如くの死人使いの感情なき声、小声ながらやけに熱が感じられる青鬼さん、それに小夜さよ鳴き鳥の美声の三重奏を聞くこととなった。

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