第20話 七塔1

 魔都。その名物ともいえる七塔の一。その最上階にて一人の男が塔主の座に座り、窓越しに虚ろに夜天を見ておった。


 とうとう、我も名実ともに仲間入りか?


 その美称として冠される『不可思議を帯びし者』であれば、まだ良かったが。裏であげつらわれるところの『最早、人でなき者』としてとなるとはな。


 そして己の耳に未だこだまするは、仲間となったはずの者たちの言葉であった。つい先ほど、復活祝いということで、数名が訪ねて来たのであった。といって塔主は一人も来なかった。多忙なのか? それとも、我の復活になど興味がないということか?   七塔に住み着くあれやこれやが、ぞろぞろとやって来て、言いたいことを言い置く始末であった。


 そうして、果たして、何度目の行いであったか、差し込む月光がほんのり照らし出す姿見に目を向ける。そのたびに期待は裏切られ、見出すはやはり同じ姿であった。


 果たして、何の因果か、何の喜劇か?


 頭の上に二本の長い耳が出ており、そのうちの一本は途中で折れておる。更に己を見つめ返すは、白目のほとんどない、黒目ぱっちりの眼であった。




 あの者たちの声がよみがえる。


「おやおや魔都きっての美男子が随分と愛嬌のあるお姿になられまして。いや、酔狂なと言うべきかもしれませんね」


「そのお姿は、魔都の偽王ぎおうとの決戦において、相手の油断を引き出すためですかな」


「あなたを推したのは惰眼だがんの塔主様。見えぬものを見ると言われるそのまなこにて、てっきりあなたがネフェルタに勝利する姿を見てのことと想っておりましたが。どうやら違ったようですね。よくぞ吹き出さずにいられたものです」


 などなど。その後は、何かといえば、「うさぎさん」「うさぎさん」の大合唱となった。


 そうして、目を下に落とせば、指の短い、印など組めそうもない可愛らしい手が見えるのみであった。

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