第19話 あわいを巡る断章その1

 これは十二行の中の一名の記憶である。


 裏六塔での黄泉と現世のあわいが上がっておる。それを見出した彼は、まず喜ぶべきであったろうが、その前にとても驚かざるを得なかった。


 なぜなら、ありえぬことだったから。


 彼が完成させた術と彼が授かったたぐいまれな力をもってしても、あわいそのものは、ついぞ引き上げることができなかった。せいぜい、なしえたは、その表面を波打たせるのみ。しかもさざ波ていどに。


 それが、よりにもよって。


 果たして、何の因果か?


 あの惰眼だがんの塔主の言っていたことを想い出す。やがて来たる大幻の日について、この都の魔道師たちは、異様な関心を持っており、既にそれに向けて動いておる者たちもおると。


 あのときは適当に聞き流しておったが。しかし、あわいが上がるとなると、当然ながら、そう無関心を決め込む訳にも行かぬ。

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