第17話 むむむのむ

 りんりんりん。


 軽やかな虫の音を聞きつつも、『なぜ、こうなったと?』と『なるべくしてなった』との相反する想いが私の中で渦を巻く。


 むむむ。


 合流を済ませたあと、すぐに出発した私たちは、今、まばらな林の中を進んでおった。そして、後ろにぞろぞろと十二行の者たちが続いておった。忍者さんも――どうみても、あんたは先頭だろう、護衛の役回りはどうした?――青鬼さんも――貴方にはせめて隣を歩いて欲しい。これではまるで私がこの者たちを率いておる如くではないか。更に言えば、私がこの状況を望んでなしておる如くではないか。


 青鬼さんに教えてもらったところでは、この者たちはネフェルタ王の復活を期しておるとのことであった。


 聞いてないよー、である。


 私がアンブロウズ様に命じられたのは、首を運べということ。とすると、その首というのは、ネフェルタ王の、ということなのだろうか?


 むむむのむ。


 そして、私の手の平の上で鳴いておるのは『鈴鳴すずなり虫』。名は虫であれ、こしらえ物である。頭、腹、尻に至るまで、黒色のぎょくを削って、鈴虫に似せてある。さすがに足はなかったが、やはり鈴虫に似せた羽根があり、しかも、音を鳴らす度に、この羽が動くという凝った仕掛けとなっておる。


 意匠は凝っているが、魔具としては単純な部類に入る。特定の魔気石に反応して鳴くだけである。何と、私の『揺りかご』の方が、魔具としては、上等なのである。へへへ。


 魔気石とは、読んで字の如く魔気が凝集したもの。私が混ぜてもらった隊商の主要な交易品でもある。魔都でたくさん取れる。この魔気石を二つに割り、一方を鈴鳴り虫につけ、他方を近づけると、リンリンリンという訳である。


 鈴鳴り虫は恋人への贈り物としてよく用いられる。そうして自身が指輪なり首飾りなどに魔気石をつけて赴けば、まさに、その訪れを事前に報せるというロマンチックなもの。高価な玉を用いるはごくまれであり――これを造ったのがネフェルタ王であれ、アンブロウズ様であれ、さすがというべきか――通常は木などを用いる。

 

 私は残念ながらもらったことはない。ただ、そんなことは今はどうでも良い。最前、忍者さんが、アンブロウズ様からの託され物だとしてこれを渡して来た時、気になることを言っておった。


 「ネフェルタ王の墓を、これで探せるはず」と。恐らくは、王とともに魔気石かそれに類するものが埋められているのではないか。ただ、とりあえず、それもどうでも良い。


 問題は墓の中の首がどうなっておるかだ。膿み腐れておるのではないか? あるいは既に白骨となっておるのではないか? 生首なまくびよりはマシ、との考えさえ浮かぶ。もはや私は何が恐ろしいのかさえ、分からなくなっておるらしい。


 いずれにしろ、きびすを返して、逃げ帰りたいというのが正直なところ。それを何の因果か、私はその音の大きくなる方へと、歩を進めておるのであった。

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