第15話

 私――ミア――は馬上の人となり、忍者さんと共に進む。一応、馬に乗れたりするのだ。一日で二つ目の宿駅に至る。荷を満載した隊商なら二日かける旅程なので、少しばかり急ぎ足だ。それができる私は、エヘン、上手なのである。


 そこの隊商宿キャラバン・サライで一泊。お供の人用の待機所がある部屋を借りる。私は奧の室を許され、忍者さんは待機所で眠る。まるで女主人にでもなった気分。


 次の日の朝早くに出発。しばらく進むと、私たちは街道を外れさびれた脇道に入る。行き交う人々はぐっと減る。まもなくして、脇道より少し離れた野原に、小さな天幕がちらほらと見える。人の姿もまばらに。


 私たちがそこへと登り、下馬すると、天幕の中から更に人が出て来た。この人たちか――そう想い、その面々を見る。こわそうな人もいるけど、普通の人もいる。


 ただ気になる方が一人。

 アレレ?

 もしかして?

 でも、ここにいるはずはない。

 だって、あの方は六天館・・・・・・。


 それでも恐る恐る近付く。何せ、体のいかつさは忍者さんを上回る。腕なんか、とんでもなく太い。私のゆったりした胴まわり並みにある。殴り合いでこの方に勝てる者って、そうそういないんじゃないのと想わせるほどである


 ただ際立つはそればかりではない。その体の色。何せ、この方は人外。青鬼さんだ。だから、見間違えるはずもないのだけど。それはもちろん、魔都であればの話。何せ、魔都の青鬼さんはこの方一人。でも、ここは魔都から遠い。


 同族の方かしら? 何とか目鼻立ちが分かるところまで近づき、恐る恐るその顔をのぞく。当然、相手の視界にも入る訳で、相手も気付く。私は小さく右手を振ってみる。すると、顔をほころばせ、

「久方振りだな」との声が遠くに聞こえる。実際、離れているというのもあるが、この方はボソボソとしかものを言わぬのだ。


 青鬼さん! やっぱり!


 気付いたときには、私は全力で右手を振っていた。おかげで、しばらく右肩が痛かった。私ってば、単純過ぎる。でも、それだけ嬉しかったのだ。


 私は自ら近付く。そしてすぐに尋ねた。だって、気になるのだ。


「どうして、ここに?」


「ふむ。これから起こることを見届け、それを館長に報告せねばならぬ。そして、そなたの護衛を、とも言われておる」


「私の?」


「ああ。そなたの領袖たるアンブロウズ殿から、我らの館長たるエクストレに直文じかぶみがあった。そのうちにて、六天の誰かを派遣して欲しいとのこと。加えて、そなたと仲が良いとの理由で、私が指名されておったのだ。これが、自らの目で見られるのも、そなたのおかげ」


「そうなの! 青鬼さんに喜んでもらえるのなら、私も嬉しい!」


 六天館とは魔都最大の学問所である。ただし魔道師立ち入り禁止。なら、私も・・・・・・とは良くも悪くもならぬようで。六天館の言う魔道師とは、相応の力を持った者のことであり、印さえまともに組めぬ私は問題外。


 それもあって、私のもう一つの仕事は――何せ、いつも赤ん坊の世話の仕事があるはずもなく――なので、むしろこちらが第一のと言うべきかもしれないけど――六天館との連絡係であった。とはいえ、直文などは託されたことはない。日々の用事に関してだ。そんななかで、青鬼さんと話すようになったのだ。


「でも、これから起こることって?」


「ここに集まった者たちをよく見てみろ。気付かぬか? 」

 見渡してみる。まさにバラバラ。色んな人がおった。ただ、分かることといえばそれくらいだ。


「なに? 分からない」


「ほれ。あの伝承歌に歌われる者たちがそろっておろう。水天女に、五色の魔道師、死人使い、踊り子など。そして我は学者、恐らく忍者は武士もののふ、そしてそなたは乳母だ。全部で十二行」


「十二行の伝承歌といえば、あのネフェルタ王の?」


「そうだ。かつての魔都の王の復活は十二行に見守られてなされる、と伝えるあれだ。我は、それが成功するか否かを見届けに来たのだ」


 雲一つ無い青空であり、そして日が中天に至るには、まだ、だいぶ時があった。

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