第14話

 朝夕であれば、柔らかな日射しが楽しめた。昼は木陰なり建物の影なりに憩えば、涼にありつけた。ザクロの赤い花が目を、すずなりになったブドウが舌をうるおしてくれた。私は客人扱いということで、なかなか良い日々を過ごすことができた。

 

 できるならば、この日々がずっと続けば良い。


 私は忍者さんに連れられ、自派の商館に案内され、そこに滞在しておった。アンブロウズ様は、大きな宿駅にはこれを建てて派の者を常駐させておった。それだけ、交易を重視しておったのである。隊商はといえば、その一部が私たちとともに訪れ、ここで売る品を下ろし、代わりに魔都で必要な荷をラクダに載せて、既に離れておった。


 こたびの合流地は、まだ宿駅にて二駅ほど先なのだが、そこには、共同利用の隊商宿キャラバン・サライしかなく、自ずと様々な者が利用するゆえ、安全が保てぬとしての、ここであった。


 私が待たねばならぬ理由については、忍者さんいわく、まだ人がそろっておらぬ、とのことであった。


 どんな人たちなんだろうと想うも、聞く気もなかった。


 恐らく何らかの理由で遅れて来ておる人たち。もちろん、私はその人たちに文句など言う気は無い。むしろ、来ないでと想っている。だって、そうしたら、運ばなくて済むじゃない。首を運ぶなんて、嫌だよう。お流れになるのを期待しておったのだ。




 ところが、20日ほどを経たときのお昼過ぎ。忍者さんが来たとのことであり、2階にある部屋でうつらうつらしておったところを、くだんの中庭に呼ばれた。


 そこは、ぐるりを囲む四壁沿いに椅子が並べられている。普段、商談などにも利用されており、今も、二組ほどがおった。


 その者たちより少し離れ、忍者さんは木陰にある椅子に腰掛け、そのいかつい体に似合わぬ可愛らしい小カップが手前のテーブルの上に置いてあった。


 むむ。そこは私のお気に入りの席。ただ、そんなことで怒る私ではない。気になるのは、別のこと。覆面からそこだけのぞく忍者さんの目が、いつになく嬉しそうなのだ。


 聞く前から、ため息が出た。嫌な予感に心が占められる。


 私に気付いた忍者さんは、さっそくそれを現実なものとした。ハチミツ茶でも飲んだのであろうか、声もまたいつになくなめらかであった。


「そろった。明朝、出発だ。用意を済ませておいてくれ」

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