魔都篇 第1章

第12話

「血、呑ませろや。いい加減」

 恨みがましき声が嗚咽にかぶさる。


 森の中のそこだけ開けた場所。夜を透かして周囲から聞こえて来るは、いずれも鳥や獣の声ばかり。街道筋からは外れており、あえて付けてでも来なければ、人が至る恐れはない


 月下に2人の男がおった。長身と小柄のいわば凸凹でこぼこコンビであるが、大人と子供というほどに差がある訳ではない。そして掘り返された地面の底には、空の棺桶が一つ。


 その嗚咽のぬし――小柄な方――は首を抱えておった。つい先ほどまで、斬りやすいようにと、頭を持ち上げておった。その結果としての、この状況である。


「下品ですまぬ。わしが時の王の加護を受けて以来、こいつは血にありつけておらぬ」


 長身の男がそう言い、こいつと呼んだところの剣をさやにおさめる。手は離れるも、その男の腕から伸びる幾本もの管は剣につながったままであった。


「魔都の王の無敵を誇った青きオーラにかかわらずなし得たのは、恐らくは魔剣の力というよりは、時の王の加護のゆえ」


 抱えもつ頭も、地に横たわる体も青き燐光につつまれておった。それは青白き月の光の下ゆえというには明るすぎる。


 言われた方は何ごとかを返さんとするが、嗚咽は止まらぬ。そればかりや、今や、その抱える頭の上に、あふれる涙を落とす状況となっておった。


「アンブロウズよ。既に話し合った如く、体の方は七元多夜にたずさえ行こう。そして時が至れば、わしは戻る」


 嗚咽の主は相変わらず返答できぬようであったが。見上げるその目に答えを見出したのであろう――長身の男は、体の方を抱え上げて、馬に乗せて鞍に縄で固定すると、自らはその手綱を引いて歩き去った。

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