第6話

 乾いた風のを声がかき消す。


「やむを得ず、時の王の本拠たる七元多夜しちげんたやに侵攻した。ただ、このいくさ。そもそも、我らの望んだものでも図ったものでもない。

 一族の者が遊びのために造った道具。それが全ての原因であった。これが彼ら時の王の疑心暗鬼、ひいては、激怒を招いたのであった」


 準備は夕刻にまで及ぶこともあった。といって、俺にできることはそんなにない。この日も亀大老のじっちゃんの整備を見て、日がな一日過ごし、この時刻となっておった。


 退屈だなんて、とんでもない。むしろ知らないことばかりで、見ていて飽きない。そしてついつい俺が何でも尋ねるので、うっとうしがられはするも、亀大老のじっちゃんも旅への期待に胸がふくらむのか、ずっと上機嫌であった。


 そんな中で、くだんの声が聞こえて来たのだった。不意にその声のぬしのことが気になり、尋ねた。


「こいつも連れて行くのか?」


「当たり前だ。邪険に扱うなよ。そのかたに旅中の安全を願うことになるのだからな。我らの姫神ひめがみ様に他ならぬ」


 竜族では人族と呼ばれておった。奇妙奇天烈きてれつな奴らで、最前同様、不意にあらぬことを口走る。何か気に入ったものがあると、ずっとそれにへばりついておる。こいつの場合は、この乗り物らしい。そして、何かを飲み食いする必要は無いと来ている。少なくともそれの様を見た者はいないと聞かされておった。


 近づくなと、常々親やじっちゃんに言われていた。俺がすぐ好奇心のままに動くと知ってのことであろう。そんな俺も一度だけ竜泉郷で見かけたことがある。ある目的を果たすために、どうしてもそいつの側らを通り過ぎねばならなかったのだ。のちにその目的の方が俺の追放の原因となったこともあり、正直、いい印象はない。むしろ祟り神の方がふさわしいだろう。少なくとも何か加護や吉祥を祈る相手ではねえ。


 更に言えば、赤ん坊の姿も年老いた姿も見かけた者はいない。つまり、ずっとその姿なのである。それがどういうものかというと、全ての造りがかわいらしい。透けるような色白の肌に、小造りの目鼻立ち。風が吹けば、しっとりとした黒髪くろかみがなびき、つぶらな瞳ともどもにそのおもてを隠してしまう。それが不快じゃないのか、そうなったらそれで、そのままである。


 そして、手も足も細くてひょろりと長い。これだけは俺もいいなと想う。俺らは短すぎる。


 ただ、声のみが金属と金属をこすり合わせたようであり、恐ろしく耳障りであった。

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