第4話 ようやく主人公の登場だったりする

 俺はえん。そして、ここは亀車きしゃ国。故郷の竜泉郷を追放されて、今、ここにいる。ここの土地も住民も随分、変わっている。

 

 土地は平っぺただ。ずっと先の先まで見える。ずっと先までそのままで、地平線という奴がその先に見える。ここに来て、初めて見た。


 そして、住民。亀にそっくりだ。俺たちが蛇に近いのと似ている。ただ、彼らと俺らで似たところが全く無い訳ではない。手足が短いところだ。ただ、彼らの場合、そこに車輪がついている。それで亀車族と呼ばれている。


 ところで、これはあくまで通称。本当の名があるとのことだが、族外の者には教えられぬとのこと。


 その車輪をくるくる回して、彼らはこの平坦な地を駆け抜ける。とてもでないが、追いつけない。まるで彼らのために造られた土地のようだ。


 更にびっくりしたことには、彼らは前輪を引っ込めると、俺たちと同じ腕――手がついた腕が出て来る。初めて見た時には、想わず「かっこいい」って口走っちまった。




亀大老きたいろうのじっちゃん。じっちゃんから手紙が来たぞ。帰って来いって」


 俺は居候しているそのあるじの仕事場へと急ぎ報告に赴いた。書や地図が足の踏み場もないほどに散らばった中に、その当の相手を見出す。


「おい。相棒。何度も言っているだろう。大老というのはじっちゃんの意味なんだよ。だから、じっちゃんはいらねえんだ。で、どこのじっちゃんから手紙が来たって? まったく、じっちゃんばかりだな」


「俺の本物のじっちゃん」


「ってすると、相棒。何かい。わしは偽物にせものとでも言いたいのかい?」


「だって、偽物だろう。俺は亀大老のじっちゃんの孫じゃないよ」


「じゃあ、何でわしをじっちゃんと呼ぶ?」


「だって、大老がじっちゃんの意味と教えてくれたのはじっちゃんだよ」


「ああ。もういい。偽物じっちゃんでいいよ」


「それで、何だって? 帰って来いって?」


「ああ。竜の試練に俺を参加させるんだって」


「竜の試練? 竜族の王を選ぶというあれかい?」


「じっちゃん。良く知ってるね」


「有名なものさね。何せ、その度に珠探しに来ていたらしいからね。それが記されたものもたくさんある。ところで、相棒よ。それなら、あんた竜王になるのかい?」


「いや、俺はならねえよ。らいがなる。雷も出るって、手紙に書いてあったからね。前から竜泉郷のみんなも、そう言ってたよ。次の王は雷だって」


「どんな奴なんだい? 雷って」


「俺の小さいときからの友達さ」


「いい奴なのかい?」


「ああ」


「なら、めでたし、めでたしだ。で? 何だっけ?」


「戻るときには、一緒に行くって言ってたろう。忘れたのかい」


「忘れる訳ない。むしろ、待ってたんだ。しかし、いきなりだね」


「じっちゃんは、いつも、いきなりさ」


「だから、そのじっちゃんは止めろって」


「いや、本物のじっちゃんの方なんだけど」


「まぎらわしいな」


 そんなこんなんで、俺たちは出立の準備に入った。

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