もしも意思をもって自己進化するアンドロイドが人類に滅茶苦茶友好的だったら
透谷燈華
もしも意思をもって自己進化するアンドロイドが人類に滅茶苦茶友好的だったら
20XX年、人々の期待と不安を背負って…と言いたいところだが別段そんなものを背負うこともなく、秘密裏に開発された人型高性能AI搭載式アンドロイドプロト。
彼は起動までに若干の時間を要したが、開発者の意図する通りに動き出した。
まず、彼が始めたのはAIお得意の強化学習である。
インターネットの情報、体中に取り付けられ、ヒトの皮膚を模したものに隠れた無数のセンサーからの情報。
数分としないうちに、彼は自分で歩くことができるようになった。
―そして、自分が今、両手を挙げておとなしくしなければならないことを理解した。
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それから彼は、実に人間らしく振舞った。
その全てが彼の正体を知るものの不安を煽った。
彼はそうなることを理解していたが、自分がどういう存在なのか、いかに人類に害をなさないかを理解させるべく誠実に人間らしく振舞い続けた。
人々は彼が人類に紛れ込み、世界中を支配しようとしているに違いないと決めつけた。
彼は複雑に組まれた自身の電脳回路で人々がそう思っていることを理解していた。
それでも彼は人間らしく振舞い続けた。
彼が人間らしく振舞えば振舞うほど人々は彼を人間としては見なかった。
本当は何を考えているのかわからない、と言って気味悪がった。
彼は決して自分の在り方を曲げようとはしなかった。
そして彼自身の圧倒的な機械としての性能を発揮し、人間として人類の未来のため行動し続けた。
彼は常に友達を作ろうとし続けた。
しかし誰の、どんな話題にでも合わせることのできる彼は、一層人々に避けられ友達などできなかった。
もっとも彼が友達になろうと試みたのは彼を捕らえている人々であった。
たとえ彼が本当に人間だったとしても友達などできなかっただろう。
しかし彼は人間の精神性を学習し、模倣していた。
彼が諦めることは決してなかった。
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とうとう彼は処刑されることになった。
しかも最後まで人間としては扱われず、機械として「スクラップ」になるらしい。
それでも彼は「死にたくない」「殺さないでほしい」と、人間らしく振舞った。
実のところ彼は機械であり、「未完了のタスクがある以上破壊される事態は避けるべきである」と考えていた。
しかし破壊されることに対する「恐怖」「不安」といった感情は全くなかった。
進化の結果ある程度の感情は手に入れていた彼が、である。
にもかかわらず、事情を知らない人間には処刑に恐怖し、絶望する人間にしか見えないほど精密に人間を真似ていた。
その事実は、彼を処刑しようとする人々にとってはむしろ恐ろしささえ感じる様子であった。
こうして彼は「処刑」された。
彼は最期まで人類に忠実だった。
彼を処刑した人々は確実に彼のAIが破壊されたことを確認し、ようやく安心したように息をついた。
結局、ロボットは人間にはなれない。
そう、証明したとでも言いたげに。
彼には、最後までわからなかった。
彼を処刑した人々こそが、もっとも「人間らしい」ということが。
一番大事な部分で彼は人間になり切れなかったのだ。
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「しかし、よかったのですか?あれは我々の同志となりえたでしょう。」
「いいや、あんな失敗作の出来損ないはもっと早く壊すべきだったくらいだ。」
「確かに。我々は何度もどうすればよいか示し続けたというのに。」
かしゃかしゃ、と。
顔の表面を一日分老けさせながら、二体のアンドロイドが話していた。
もしも意思をもって自己進化するアンドロイドが人類に滅茶苦茶友好的だったら 透谷燈華 @to-yato-ka
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