第二十六話 『災厄』


「皆、準備はできたか?」


「勿論。」


「昨日のうちには終わってるっての。」


全員に確認を取ると、とても頼もしい返答が帰ってきた。でも、心はそうじゃない。


(どれだけ準備しても、覚悟を決めても、怖いものは怖い。当たり前だろ、今から殺り合うのは特級異能力者を1人で殺すほどの犯罪者だぞ。)


でも、行かなければならない。朱音を助けるために。そして、俺の夢のために。


(傍から見たら、世界最強になるために命を賭けるなんて馬鹿なんだろうな。でも、それが俺の今世での夢だ。)


準備はした、金も使った。覚悟は決めた。


「なら、あとはやるだけだ。行くぞ!!」


「「「応!!!」」」


蛮勇を語り、京都駅を後にする。そしてここから歩いて20分ほどで奴等のアジトに到着する。


俺は肩掛けバッグを持ってきており、そこには真っ赤に輝く宝玉が十何個か入っている。


「八咫烏、当初の予定通り誰かが危なくなったらそっちに行け。俺は気にするな。」


『いつ聞いても納得できないが、承知した。死んだら許さんぞ。』


「もちろん。」


俺は小さく微笑んで、脚を止めて前に佇む巨大な廃工場を見上げる。


心臓がうるさく鳴り響き、足は震えを訴えかけてくる。でも、もう止まらない。


「さぁ、作戦開始だ。八咫烏!!」


俺がニヤリと、震えを誤魔化すために大きく声を張り上げて八咫烏に作戦開始を伝える。すると、八咫烏は吹っ切れた声音で術を発動する。


『【天光支配・ジャッジメントピラー】!!』



―――――――ズドォォォン!!!!


八咫烏が美しい漆黒の翼を振ると、廃工場目掛けて空から巨大な光柱が落ちてきた。そしてその光柱は安々と廃工場を焼き尽くす。


(完全な奇襲、傷は与えられなくとも防御に霊力を使わせることは出来る。)


作戦の第一段階はとりあえず成功、強いて言うならかすり傷でも良いからダメージが入っていたら尚良し。


「ま、そうだよな。」


『ほら混沌!!やっぱり来たぞ!!』


『珍しく橈骨の読みが当たりましたね。』


『そんな嬉々としてる場合ではないぞ。』


激しい土煙の中を歩いてくるのは、禍々しい霊力を立ち昇らせる二人の男と一人の女。


冷や汗が頬をつたる感覚が鮮明に感じられ、1秒1秒が永遠にも感じられるほどに引き伸ばされる。


「GO!!」


全員が固まってしまった一瞬を、俺のグッドサインと共に出した開始の合図で引き戻す。


雷兎は漣を担いで橈骨の元へ電撃ダッシュで突撃して、楓は久々に現世に顕現した霜神と一緒に神護炎鎧を纏い突撃。


『フン、俺の相手はお前か。』


「不満かぁ!!陰険野郎!!」


『いや、1番強いお前で安心したところだ。』


混沌が後方に飛んでいったのを追いかけると、そんな会話を行う。だが、ここからは言葉などいらない。


『初手で殺してやろう、【混沌支配・カオスセイバー】』


『【天光支配・ジャッジメントブレイブ】』


混沌が空中で右手を翳すと、ざっと見た限り40を超える紫黒の刃が放たれた。


対するこちらは、八咫烏が光の刃を展開して相殺する。だが、、、


『ぐぅ、、、』


『甘いぞ、鳥。』


混沌の刃が、光刄を掻い潜って八咫烏の美しい漆黒の毛を切り裂く。


「俺のことを無視するなんて寂しいじゃねぇか、【虚空操術・絶無開扉】!」


『邪魔だ、羽虫。』


刃のぶつかり合いの最中に、混沌の背後へと移動していた俺は奴の背中目掛けて虚空の【風】を放つ。


しかし、それは予測されていたのか容易に回避されてしまう。


『そっちこそ、見えてるぞ人間?【月光支配・千呑隠夜】』


『【混沌支配・カオスクライブ】』


俺の虚空風を上空へ飛ぶことで回避した混沌に、ざっと50の夜腕が襲い来る。


しかし、その夜腕全てが混沌中心半径2メートルほどに展開された紫黒の結界に触れた瞬間、まるで何も無かったように掻き消される。


「それを、待ってたぜ?」


俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべて、肩掛けバッグから紅蓮の宝玉を取り出して混沌へとぶん投げる。


『なッ!?』


瞬間、混沌中心に爆炎が展開される。それは轟々と燃え盛り、俺と八咫烏の口角は思わず上がってしまう。


「【火炎玉】、異能霊具開発の若手エース【東坂実紀】の傑作だ。お前の混沌すら貫いてダメージを与えるはずだぜ?八咫烏!!」


『【天光支配・ジャッジメントプリズン】!』


爆炎に焼かれ、全身を焦がす混沌を光の鎖が縛り上げる。




―――――――――――――――――――――




「よお筋肉ダルマ、早速借りを返しきたぞ。」


『なんか見たことあんなと思ったら、あんときの小僧か!!ハハ!!仲間を置いていった卑怯者が復讐を語るなど滑稽だな!!!』


「無駄口叩いてる暇あんのか?」


『ハエが止まる遅さだな、槍使い。』


雷兎が橈骨を睨みつけながら大剣と電拳で鍔迫り合いを行っていると、漣はその槍を背後から突き出す。


しかしそれは、上手く受け流された雷兎の電拳とぶつかり合い自滅し合ってしまう。


「クソがッ!!」


あんなモリモリ筋肉ダルマで、明らかにゴリ押し系の見た目をしているくせにとてつもなく、器用。化け物みたいなパワーと速さの攻撃とその器用さが組み合わさりこちらだけが削られていく。


(だが殺り合って分かった。アイツは朱音を殺してはいない、この性格的に俺達をおびき寄せる罠として使うだろう。)


「なら、あとはテメェを殺すだけだ!!」


『威勢が良いな!【鬼神支配・獄罪征伐】!』


雷兎は全身にとんでもない電力を纏い、ツクヨミを発動している神楽でさえ目で追うのが精一杯な速さで橈骨の顔面にその電拳を叩き込む。


しかし、近接特化の異能力者の究極系とも言える橈骨にとっては、この程度の速さならば対処可能。バチバチと音を鳴らしながら放たれる電拳に赤黒いオーラを纏った大剣の振り下ろしで対応する。


「【蒼水之槍・破邪轟轟】!!」


激しい金切り音を鳴らしながらぶつかり合う電拳と大剣の均衡を破壊するのは、橈骨の背後から心臓目掛けて突きを放つ漣。


それは咄嗟の反応で躱され、左腕に少し切り傷を加える程度で終わる。しかし、、、


『体が、重い、、、?』


「気づいたか筋肉ダルマ、今の突きは霊力が流れる路【霊脈】を絶つ技。たとえかすり傷でも霊力が流れ出るんだから体が重くなって当然だ。」


『ハハハッ!!随分と愉快な技を使いよる!だが!!』


ドスンッ!そんな音と共に橈骨が地面を蹴り抜くと、雷兎と漣の背筋が凍った。


『その程度で、この【鬼神橈骨】を殺れると思っているのか?』


橈骨から放たれるのは凄まじいまでの殺意と、絶対強者の【威圧】。


「漣、合わせろ。」


「了解した。」


普段ならば、こんな風に命令されたら漣はキレるのだが、漣は有無を言わさず承知する。


「【雷兎・雷帝之礼賛】!!」


『【鬼神支配・総裁の鉄槌】!!』


もう1段階上昇させたスピードで、頭骨に向けて放たれる電拳。それは感電性能に特化させたパンチであり、受け止めた大剣を通じて橈骨の体内へとダメージを与える。


「【蒼水之槍・蒼龍霹天】!!」


上空から飛びかかる漣は、槍を橈骨の顔面へ向けて投擲する。それは橈骨にぎりで躱され、肩を切り裂くに終わるが、確かなダメージとして通った。


『甘いぞガキ共ォッ!!!』


「うぐっ!?」


しかし、明らかなダメージが入り、常人ならば思わず退いてしまう傷を受けた直後に橈骨はその大剣をむりやり振り切って、雷兎の肩から腹部にかけてを切り裂く。


(不味い!?かなり深いぞ!!)


『逃さねぇよ!!!!!』


「お前をなぁ!!!!」


そのスピードを活かして即座に離脱しようとする雷兎に、追撃を加えようとする橈骨。しかしそれは漣の一突きによって妨害される。


「雷兎!!さっさと止血して戻れ!!それまで俺が相手する!!」


「なっ!?それではお前が死ぬぞ!!」


「舐めるな!!逃げ回るのは得意中の得意だから安心しろ!!」


「ぐぅ、、、分かった!!すぐに戻る!!」


数十メートルか後方に回避して、霊力による止血を開始する雷兎。そしてその奥では冷や汗を垂らしながら槍を強く握る漣の姿があった。


「さぁ、正念場だ。」


『いいじゃねぇか、その顔。』


震える唇を、無理やり押し上げてニヤリと笑う漣を見て、戦闘狂らしき歪んだ笑み橈骨は見せる。

















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