第二十五話 『反撃前夜』


「【憶片】さん、お願いします。」


「あいよ、金を貰ったからにゃ全力でやらせていただきますよっと。」


地下2階、異能力者協会日本支部NINKの地下で窮奇と俺、そして一人の成人男性が佇んでいた。


普通の拷問では裏社会慣れしている窮奇に情報を吐かせることは不可能と判断した俺は、異能力者協会に属する記憶を操作する異能力者【憶片宗介】に3000万円を渡して窮奇の記憶を抜き取る依頼をお願いした。


「そんじゃ、行くぞ。【心奪】。」


未だ協会によって仮死状態で眠らされている窮奇の頭頂部に右手を当てて術を発動する宗介さん。


30秒ほでど右手から紫色のオーラが発せられるのが終わると、宗介さんは飄々とした態度を崩さずに俺の方へと振り向いた。


「抜き取った記憶をお前に渡す、さっさと頭貸しな。」


「わかりました。」


そんな会話をすると、俺の頭に右手を乗せる宗介さん。


(おお、直接魂に記憶が刻まれるような感覚だ。不思議すぎる。)


全身に響き渡る不思議な感覚に驚きつつ、少しの間じっとする。う〜ん、中々に極悪犯罪者だなぁコイツ。


「ほい、これで終わりだ。何かあったらまた贔屓にな〜」


「感謝します。」


全ての記憶を俺に渡し終えた宗介さんは、地下室の扉を開けて出ていく。


(渡された記憶は四凶のアジトとメンバーの大まかな異能力、それとどんな仕事をしていていつ何時にどこにメンバーがいるか、だな。)


中々に良い情報を手に入れた。これだけ情報が揃っているのならばすぐに作戦を立てて明後日には襲撃できそうだな。


「とりあえず、この情報を皆に共有しよう。作戦会議はそこからだな。」


そんな呟きを地下室に残して、もう会うことはないであろう窮奇の居る部屋を後にするのだった。




―――――――――――――――――――――





「神楽、どうだったんだ?」


「大分情報を手に入れられたな、これならばすぐに襲撃出来る。」


「違うな、すぐに襲撃しないと駄目なんだろ?」


「漣はやはり賢いな、その通りだよ。」


「え?」


夜の8時、寮の広間にて会合を行う1年生ズ。集まった途端雷兎が俺にそんな疑問を投げかけると、漣が自信満々に口を挟んできた。


「4人のメンバーの内1人である窮奇が帰ってこないということを、裏社会に生きる奴等は死んだと判断するはずだ。そして俺等が四凶を調べているのは既にバレている。」


「つまり、奴等の行動パターンが記憶と違くなる可能性があるってことね。」


「そうだ。だから遅くても明々後日には襲撃を仕掛けたい。」


正直明日にでも行きたいところだが、生憎と霊力がまだ完全回復していないためそれは駄目だ。純粋に準備もしたいしな。


「で、神楽。とりあえず手に入れた情報を教えてくれ。」


「分かった、まずはアジトだな。アジトは京都の○△廃工場で、メンバーは伝承通りに混沌、橈骨、饕餮の3人。」


「私達を襲ったのも、朱音を攫ったのも橈骨っていう大剣使いね。」


「各メンバーの異能力は大まかにしかわからなかったが、混沌は【混沌支配】、俺の使う乱して中和させる【混沌操術】の上位互換を扱う。橈骨は、、、」


こんな感じで窮奇から抜き取った記憶の説明をしていくと、奴等の化け物度を再確認させられた。 


(窮奇は4人の中でも最弱、、、それがよく分かるな。)


「そして今回の襲撃は、3人を同時に襲撃する。だから割り振りを伝えるぞ。」


そう、今回の難点はそこなのだ。四凶最弱の窮奇を矢高含めた五人全員で挑んでギリギリだったのに今回は、3人を五人で割り振って倒さないといけない。


まぁそんなこんなで食堂にも寄りつつ話を詰めていって、10分ほどがたった。


「前提条件として、合流されたら終わりだ。故に誰一人として負けることは許されない。」


「当然よ、負ける気なんて1ミリもないわ。」


「たりめぇよ、俺はこの為に強くなったんだ。」


「神楽こそ、油断したら許さんぞ。」


全員が頼もしい返事を返してくれて、俺は口元を謂わず緩ませる。はは、コイツ等は俺と同じで少しイカれてんだな。


「ならば、伝えるぞ。まず橈骨、パワータイプのコイツには速さで翻弄できる雷兎と、1点突破の火力がある漣。異能力特化の饕餮には異能力を破壊できる楓と、サポートに霜神。最後に四凶のリーダーであり最も強い混沌は俺と八咫烏が受け持つ。何か質問はあるか?」


全員が首を横に振る。よし、なさそうだな。それに今回は俺の方でも色々思い付いてるんだ。


「そんじゃ、悪だくみの始まりと行こうか?」


俺はニヤリと、アク薬よりも悪役らしい笑みを浮かべて窮奇討伐の報酬金5000万円の入ったキャリーケースを置くのだった。




―――――――――――――――――――――



『窮奇が来ない、アイツめ。またほっつき歩いているのか。』


『まったく、彼女はどうして時間すら守れないのでしょうか?』


『それでこそあのクソガキだろう!』


『はぁ、、、まぁ、殺されてるというのはないだろうから良しとしよう。』


『ですね、彼女が本気で戦闘すれば東京は津波に押し流されているはずですし。』


既に何年も前に廃業した工場にて、異様な雰囲気を放つ三人組は呆れたような会話を繰り広げていた。


1人は紫色の髪と赤色の瞳を持つ男、1人は長い銀髪と黄金の瞳を持つ女、1人は2メートルの体躯を持つ赤髪の大男である。


『まぁ良いだろう、だが我らを追っている羽虫共の調子はどうだ?』


『彼等を襲ったのは橈骨でしたよね?どうでしたか?襲ってきそうですか?』


『来るぜ、あの女。絶対殺すっていう眼をしてたからな。』


赤髪の大男は、ニヤリと笑って大剣を鈍く光らせる。


『はぁ、、、まったく。程々にしろよ。』


『お、久々にリーダーから遊びの許可が降りたぞ。珍しい。』


『混沌、私も動いてよろしいですか?』


『饕餮もか、まぁ良いだろう。』


喜ぶ様子を見せる橈骨と、少し驚いたような素振りを見せる混沌。 


悍ましく、深すぎる闇は静かに蠢き始めている。



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