第二十四話 『天月の支配者』


『さっきまでの威勢の割には、大した事ないわね!!』


「こっからだから期待しとけ!!!!」


次々と放たれる獄炎砲に水砲、そして時々この朽ち果てた大地を破壊する地震が発生する。


(さっきから攻撃の規模が段違いだ!まともに防御するだけで霊力をかなり持っていかれる!!)


1対5、この状況でも窮奇は相変わらず無傷でこちらの傷が増えていくだけ。こんな圧倒的な実力差がついているのに戦えているのはひとえに八咫烏のおかげである。


『【月光支配・千呑隠夜】』


『【災禍支配・暴雷之王帝】!』


上空で滞空している八咫烏は、その漆黒の翼を振って術を発動する。すると八咫烏から窮奇に向けて大量の黒腕が伸びていく。


月光支配、八咫烏の扱う異能の2つのうち1つであり、あらゆる物体・事象を飲み込む【夜】を出現させて操る異能である。


つまり、この異能によって展開された大量の黒腕に掴まれれば最後、存在ごと飲み込まれるのである。


しかし窮奇、この黒腕に攻撃しても無意味なことを勘で察知して追尾してくる黒腕を避けながら八咫烏本体に雷撃を放つ。だがそれは八咫烏の周りを漂う【夜】に吸収される。


『しゃらくさいわねぇ!一気に全滅させて上げる!!』


苛立ちを隠そうともしない窮奇の全身から、禍々しい霊力が吹き出す。それは大技の示唆であることは容易に理解できた。


「皆!!集まれ!!」


俺はその前兆を見た瞬間、集合の号令をかける。すると全員が素早く俺の地殻へと飛んできた。


『【災禍支配・絶雷暴風凛】!!!』


展開されるのは、暴風と雷雨。その全てにありえないほどの霊力が込められており喰らえば一撃で即死級の雷が大量に降り注ぐ。


(3つのかけ合わせ!!混沌と虚空、そして獄血!!)


「【混虚獄血・絶無禅血牢】!!」


瞬間、展開される血の牢獄。それは俺を含めた五人を覆って殺傷力抜群の雷雨と暴風から俺等を守り抜く。


(異能の完成度はあちらの方が数段上!!ならばそれ以外で勝負してみせる!!)


俺の強みは大量の異能力を所持しているからこその手札の多さ。その全てを使いこなせばたとえ支配を扱う異能力者相手でも戦える!!


「皆、、、私に、命を預けてくれない?」


「楓?」


「神楽がこの前教えてくれた性質変化、、、あれが出来れば、勝てる。」


血の牢獄にて、暴風雷雨を凌いでいる時に楓が意を決したように口を開いた。そこには迷いも不安も、介入する余地はないであろう眼差しがあった。


「神焼炎の性質変化を、この土壇場で、、、か。」


「えぇ、必ず成功させるわ。」


「なら、任せた。何秒稼げば良い?」


俺の即答に、少し驚いたような様子を見せると楓。だが少し経つと小さく微笑んでこう返した。


「《30秒》、それだけ稼いでちょうだい。」


「了解だ、八咫烏。お前と初めての《アレ》が出来そうだぞ。」


『それは楽しみだな、我が主よ。』


徐々に勢いが衰えていく暴風雷雨、その天変地異が収まりを見せると、災禍の姫君が均衡を崩した。


『【災禍支配・四束斬】!!』


土煙を突っ切って、血の牢獄を貫通して俺の首へと迫る短剣。それは虹色の光を纏っている。


(30秒、死んでも稼ぐぜ?)


「『【式神極操術最奥・心核同魂】!!』」


八咫烏と俺の声が二重に響き渡り、その全身が融合を果たす。


「『【天神月楽(ツクヨミ)】!!』」


別名、天月の支配者。今俺が考えたワードだが中々にカッコいいだろ?


霊力が爆ぜ、窮奇の短剣での一撃も辺りを破壊し尽くした暴風も全てが吹き飛ばされる。


土煙が晴れると、そこには少し冷や汗を垂らしながら先程までとは異なるオーラを出している窮奇と、背中に漆黒の翼と紫色の瞳と水色の瞳のオッドアイ、そして妖しいほどに美しい暗黒の髪を持つ俺の姿があった。


『これは、、、計算違いだわ。まさかあのカラスが【神似霊獣】だったとは、、、』


「『そんな考え事してる暇、あるのか?』」


突撃。


ブツブツと呟く窮奇の懐に一瞬で忍び込んだ俺は、奴の腹に向けて全回復して尚且つとんでもなく増えている霊力をふんだんに込めたパンチを放つ。


『ぐぅぅ、、、!!』


「『ようやく、まともなダメージが入ったなぁ!!』」


結果は、直撃。


腹にパンチを喰らった奴は派手に地面を転がりうめき声を上げながら立ち上がる。しかし、そこには明らかなダメージがはいっていた。


(身体強化に加えて、元の20倍近く霊力が増えている。それに、八咫烏の異能も使えるみたいだな。)


(我が主よ、我の記憶から使い方は分かってるはずだ。有効活用してくれ。)


(今回は私を使わないのだ、少しむかつくが死ぬんじゃないぞ、神楽よ。)


(分かってるよ霜神。)


しばしの余裕が生まれたこの一時に、ツクヨミ状態で何が出来るかの確認を行う。


やはり式神使いの最終奥義らしく、馬鹿げた性能を実感する。でも、恐らくこれでもまだ窮奇に一対一で勝つのは不可能だ。一対一ならば。


「【麻生家直伝槍術・蒼螺連突】!!」


『【災禍支配・王帝之紺碧】!!』


上空から乱れ突きを放つ漣の攻撃を、碧色の半円状の結界を展開することで無効化する窮奇。だがその精度は明らかに落ちていた。


「『背中がお留守だぜ?』」


『ッッッ!!??』


結界を展開して不敵な笑みを浮かべる窮奇の背後に、そこの馬鹿げた身体強化を活かして回り込む。そして、八咫烏の記憶を頼りに異能を発動する。


「『【月光支配・暴食之夜闇】!!』」


背後に回り込んだ体制から左手を窮奇の背中に押し当てて術を発動する。


瞬間、左手から放たれるのはあらゆる物を飲み込む【夜】。それは窮奇の背中の一部にぱっくりと風穴を開けた。


『触るんじゃないわよッ!!!!』


「『じゃあおさわり厳禁って書いとけよ!!』」


背中に生じた激痛と喪失感に激怒した窮奇は、右手に握る漆黒の短剣を振り抜いて俺の首を掻っ切ろうとしてくる。


もちろん、その反撃程度は予想済みであるため、皮一枚で避けて見せる。


だが、俺はここで最大の誤算をした。この激怒した女は俺を先に殺そうとしてくるだろう、そういう勘違いをしてしまった。


『アンタは後回し!!!』


「『なっ!?まさかお前!?』」


俺を漆黒の短剣を投擲して退かすと、窮奇は真っ先に楓の方へと全力疾走で走っていった。


(不味い!?楓は今極度の集中状態!!周りなんて一つも見えていない!!)


それが意味するのは、死。支配を扱う異能力者の前で隙を晒すというのはそういうことだ。


『【災禍支配・電轟絶撃】!!!』


「『辞めろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』」


目を閉じて完全な集中状態に入っている楓の岩面に、破壊を齎す電拳が放たれてしまった。


もう間に合わない、いくら今の身体能力があろうと40メートル近いこの距離を奴の拳より速く駆けるのは不可能だ。


(俺はまた失うのか!!!??)


『あはッッッ!!!死になさいッ!!!!』


漣が、俺が、八咫烏が、窮奇でさえ、殺ったと確信したその瞬間。



――――――――雷閃が奔った




「速いだけが俺の取り柄、ならば、、、」


『なにッ!?』


放たれた拳は、楓の顔面に到着せず、代わりにある一人の男の拳に受け止められていた。


「【速さ】を極めればいい!!!」


『うぐっ!?』


刹那。


強化状態の俺の動体視力ですら捉えることの出来なかった電拳が、窮奇の顎を打ち砕くアッパーを放つ。


(俺はもう!二度と友を見捨てない!!)


一度、たった数ヶ月であれど寝食を共にした同級生を奪われた兎は、決意を込めて拳を抜き放った。


歴戦の猛者である窮奇でさえ、この電拳には対応することが出来ずに吹き飛ばされる。


「『【天光支配・ジャッジメントプリズン】!』」


『ぐっ!?』


雷兎が創り上げた一瞬の隙。それは、俺達にとって勝利を呼び寄せる0.0001秒間であり、これを見逃すことは俺には出来ない。いや、見逃してはいけないのだ。


地面に転げ落ちる窮奇の全身を光の鎖が縛り上げる。それは、戦闘の火蓋が切られた時にも使用された対象の罪に応じて拘束力が強くなる鎖である。


そして、、、


『まだだ!!』


「『残念だったな、窮奇。』」


『はっ?、、、』


そんな絶体絶命の状況に陥った窮奇は未だ吠えて、異能を発動させようとする。しかし、、、


「『三十秒、経ったぜ?』」


光の鎖に囚われたとしても、未だ霊力を滾らせるその根性は認めるよ。だがな、お前は一人で、俺等は五人だ。


「【神護炎鎧】」


40メートル前方には、全身を金色の炎の鎧で包んだ楓の姿があった。


(神をも焼き尽くす炎ではなく、神をも護り抜く炎ってところか、、、)


性質変化、霊力技術の中でも俺が習得に最も長く時間を掛けた代物である。だが、そんな技術を楓はたった数ヶ月で身につけやがった。


「俺も師匠なんて名乗れねぇな、、、精々、自分の成長を噛み締めろ。」


俺が悪態混じりの言葉を吐き捨てると、次の瞬間には拘束されている窮奇の土手っ腹を楓の炎拳が貫いていた。


「【神焼炎・ドレトスフレイム】」


全身を包み込む炎鎧に加えて、楓の右手にいつもの神焼炎が付与される。そしてその状態で窮奇の顔面を打ち抜いた。


『がはッぁ、、、』 


ノックアウト。


楓の一撃によって、窮奇は完全に白目を向いて地面に倒れ、意識を失った。


「『かっ、、、た、、、?』」


「「「いよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」


俺の疑問混じりの言葉が沈黙を破ると、全員の狂喜乱舞した叫び声が上がった。


(勝った、、、俺達は勝った!!!)


窮奇は死んでおらず、当初の目的の通り生け捕りに成功した。それに死傷者はゼロ、漣や雷兎、楓には重症に近い火傷や切り傷があるが生きている。


完全勝利、準備と覚悟の賜物である。




























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