第二十二話 『厨二病は強く在る』


「楓、、、もう一度、言ってくれ。」


「朱音が連れ攫われた、、、いえ、私が見殺しにしたわ。」


「そうか、、、そうか。」


調査から戻ってきて、全員で集まってご飯食べようとなった時に、朱音がいない時点でなんとなく察しはついていた。だが、面と向かって言われると辛い。


「本当に、ごめんなさい、、、師匠。」


「いや、楓が謝る必要はない。それにまだ殺されたと決まったわけでもないしな。」


「人質にされていると?」


「あぁ、物凄く希望的観測だが、奴らは確実に恐れている。俺等が調査を始めて初日に襲ってきたのが良い例だ。」


都合の良い解釈と呼ばれようが構わない、どちらにせよ俺等は奴らを殺す。なら希望的観測だろうがなんだろうが、生きてると思ったほうがいい。


(力のない正義は無意味だし、目的がない力も無意味。だから俺は、この力を護るために使って見せる。)


「これからの方針を発表する、よく聞いてくれ。」


全員がこくこくと頷いて、俺の方を向く。楓、漣、雷兎。皆やはりピリピリしているな。


「ここからは全員で行動する。目的は四凶の内一人を確保して情報を吐き出させる。ハッキリ言って、いつ誰が死んでもおかしくない。辞めるなら今だぞ。」


俺が全員に問いかける。正直、楓が本気で殺り合って逃げることで精一杯なら俺でも勝てるか怪しいし守りながらなんて不可能だ。故に、今は選択の時である。


「神楽、俺は行くぜ。ここで逃げたら俺は一生、朱音に顔向け出来ねぇ。」


雷兎は覚悟を決めた顔で、強く拳を握りしめながらそう言った。


「俺もだ、死なば諸共。俺だけ逃げるなんて出来るかよ。」


漣は少し飄々とした声音で、俺に優しく微笑みかける。


「朱音を取られたのは、私の責任。たとえ死体になっていたとしても取り返して見せるわ。」


楓は辺りの温度が少し上がったのが分かるほど、激情に呑まれていた。でも、その言葉は本物だ。


「決まりだな、目的は四凶の一人【窮奇】。こいつを全員で捉える、最悪殺しても構わん。全力で行くぞ!!」


「「「応!!!」」」


夕暮れ時の食堂で、仲間を一人失った者たちは力強く声を上げた。




―――――――――――――――――――――




「父さん!!!」


俺は少し息を切らしながら、懐かしの我が家の居間に滑り込む。その真ん中のテーブルの上には、数ヶ月以上前向きにライラ様から授かった【霊獣卵】がヒビを入れて佇んでいた。


「神楽、お前の霊力を卵に込めろ。それによって成長に補正がかかる。」


「分かった、父さん。」


(この圧倒的戦力不足の時に、とても強力とされる霊獣を迎えられるのはかなりでかい!!)


俺は父さんに言われた通り、卵に触れて思いっ切り霊力を込めた。それも、わざわざ霜神楽雪状態になって本気で。



――――――パキッ


そんな音と共に、完全に真っ二つに割れる卵。その中には、、、


「カラス、、、?」


『いかにも、我は【八咫烏】。よろしく頼むぞ、我が主。』


そこに居たのは、真っ黒で熊ぐらいのサイズのカラスだった。真っ黒な毛並みに紫色の瞳。もうメチャクチャカッコいい。


「こちらこそ、仲良くしような。八咫烏。」


正直強さはよく分からないけど、凄くカッコいいし父さんがさっきからずっとははー!って土下座してるから多分凄い霊獣なんだろう。


「八咫烏、、、ちなみにどれぐらい戦える?」


『少なくとも、我が主の中に住まう龍よりは戦えるだろう。それにその式神との融合という興味深いことも出来るだろう。』


「おぉ!!じゃあ契約したばっかりで悪いんだけど早速大仕事だ。」


『なんだ?』


「八咫烏、【四凶】というのを知ってるか?」


『ッッッ!!??』


八咫烏は、四凶という名を聞いた瞬間その美しい黒毛を逆立たせた。この反応からして知ってるみたいだな。


『あの【厄災】共か、、、まさか我が主、アイツ等に喧嘩を売るつもりか?』


「正確には、その四凶の加護を受けた奴らだけどな。」


『どちらにせよ、変わるまい。我に任せておくが良い。』


「頼もしくて助かるよ、次は新しい武具を手に入れよう。」

 

今の状態では、八咫烏を総動員しても四凶の面々を潰すことは叶うまい。故に新しい武具や異能を獲得しなくては。


「皆、今は準備の時だ。」


窓から見える月を見つめながら、今も頑張っているであろう友に思いを馳せるのであった。




―――――――――――――――――――――




「親父。」


「なんだ?」


「一族の秘宝、、、俺に貸してくれねぇか?」


一族から忌み嫌われ、階級上昇すら妨害を受けてきた槍使いの少年は、自らのトラウマを乗り越えんとしていた。


(楓や神楽に比べたら俺はあまりにも力不足、、、親父が嫌いだの言ってる場合じゃない。)



―――――――――――――――――――――



「ふぅー、、、、、」


雷を操る少年は、全身に超高圧電力を受け続けていた。


(俺には速さ以外何もない、、、なら、その速さを極めれば良い。)


雷との同化、異能力的にそれが出来れば自身の超強化へと繋がるのだ。だが、それには激しい痛みが伴う。


(待ってろよ、、、朱音、、、もう見殺しにはしない。)



―――――――――――――――――――――



「神焼炎の性質変化なんて、どうすれば良いのよ、、、」


自分より格下である少年に教えを請うてまで強さを求めた少女は、神楽に教えてもらった【性質変化】に苦戦していた。


そして思い返される追憶の欠片、思い浮かぶ少年の顔はとても優しい顔をしていた。


「強く、強くイメージを固める。数ヶ月といつ年月をかける覚悟で。」


そんな少年の言葉に、思わずこう返してしまった。「そんな時間はない」、と。


「イメージを定着、、、それは出来てるはず、、、なんで出来ないのよ、、、」


苦悶の表情をあらわにする少女は、小さな嘆きを空へと残すのだった。



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