第十八話 『厨二病はゴリラになる』


『あらあら!!まだ私は無傷ですよ!!』


「黙ってろアバズレ!【蒼水之槍・塵】!!」


『微温いですよ!!!!!【灼陽・ボルトフレア】!!!』


放たれる激水流を、とてつもない高温の灼熱玉を放ち蒸発させる叢加斗。だがその瞬間には楓の炎が迫っていた。


「【神焼炎・ゼストスクスフレイム】!!!」


楓が両手を奴に向けて翳すと、まるで津波のような大きな神焼の波が放たれる。


『チッ!!面倒臭い女め!!!』


「あら、面倒臭い女は嫌い?【神焼炎・カプテリアルフレア】!!」


神焼炎の津波を、遥か上空へ退避することで回避する叢加斗。だが、それは楓にとって最も分かりやすい回避手段である。


上空に避難した叢加斗の脳天を襲うのは、神焼炎のハンマー。その炎槌は奴の脳天を焼き焦がして地面へと叩きつける。


「待ってました!【虚空操術・絶無回帰】!」


『邪魔よ!!』


地面に叩きつけられた奴の腹部に、空間ごと無に還す拳をぶち込もうとするが、それは陽光で作られた鏡のようなものに吸い込まれて当たらなかった。


「反射か!!!」


攻撃が吸い込まれたと視認した瞬間、鏡から絶無回帰を纏った俺の拳が反射して帰ってきた。それを喰らうとさすがに不味いため全力回避。


「俺を忘れんじゃねぇぇ!!!【雷兎・電轟一閃】!!!!!!」


『早いだけの兎にかまってる隙なんてありゃしないのよ!!!!』


俺が反射攻撃を避けるために後ろに飛び退くと、次の瞬間には雷兎の電拳が奴の顔面へと迫っていた。


だが、再び陽光の鏡が出現して攻撃を反射する。


(不味い!?雷兎は攻撃の硬直がある!?避けられない!?)


「【ファンネル】!!!!」


反射してきた電拳が雷兎の顔面を貫こうとするその時、毒クラゲの触手が雷兎を後ろへと引き戻した。


「サンキュ!朱音!!」


「私に出来るのは、、、これぐらいだから、、、」


緋嶋朱音の異能はファンネルと呼ばれる毒クラゲの式神を召喚して操るもの。そのためか朱音自身の身体能力はかなり低く、霊力量は多いため完全後衛特化である。


(一分経過、、、不味いな、あと二分もすれば俺は気絶してあいつはまた宇宙空間へと戻ってしまう。そうなれば全員の死亡は確定だ。)


「霊力も長くは持たない、、、ならゴリ押し以外ないか。」


そう呟くと、俺は霜神楽雪(ファヌエル)状態の特徴であるとんでもない身体能力と馬鹿げた霊力量を全力で解放した。


(やっぱり最後は近接物理だよな、虚空と混沌、そんでもって壊乱の3つを付与して殴れば相手は死ぬ。)


「パワーイズジャスティス!!!!!!!」


『黙りなさい!!!!』


俺は3つの攻撃特化の異能を全身に纏い、自らを鼓舞する意味合いも含めて啖呵を切って突撃する。


『反射するって言ってんでしょ!!!』


「反射される前に殴ればいいんだよクソがぁッッッ!!!!」


俺の右フックが奴の顔面へとせまると、案の定顔面の前に陽光鏡が展開される。だが、その右フックはあえて鏡に向けた。


そして返ってくる拳。俺はそれを首の皮一枚切らせて躱し、体制を崩した奴の腹部に思いっきり蹴りを叩き込む。


『ぐはッッッ!!???』


「痛えだろ!!腹を空間ごと抉ったからなぁ!!!!!」


蹴りによって数十メートル吹き飛ばされた奴の横っ腹には、不自然すぎる穴が出来ていた。


「ナイスです、師匠!!【神焼炎・フォールフレイム】!!!!」


蹴り飛ばされて白目を剥く奴に向けて放たれるのは、神焼炎の滝。津波と似た原理だがその威力は津波の比ではない。


『【灼陽・ベール】!!!!』


瞬間、叢加斗の全身を覆うように展開される金色の膜。それは神焼炎の滝を滑らせて無効化してしまった。


(技のレパートリーが多い上に強力!!その攻略も容易ではない!!)


「でもその膜は物理に弱いだろぉぉ!!!!」


『アンタみたいな脳筋のために鏡があるのよぉ!!!!』


膜を貼って神焼炎の滝を受け流した叢加斗の背中に向けて、殺意マシマシのパンチを放つもそれは鏡に吸い込まれてしまう。だが、それはもう対処できる。


『なんで鏡が!?』


拳を吸い込んだ瞬間、陽光鏡は粉々に砕け散り、パンチはやつの背中を消し炭へと変える。


「吸い込まれた瞬間、鏡の内側から虚空操術を発動して異能そのものを破壊したんだよ。タイミングが難しいすぐには出来なかったけどな。」


『そんなの、、、チートじゃない、、、』


先程まであれだけ鏡に信頼を置いていたのか、砕かれた瞬間奴は絶望の表情を浮かべた。だがそれで止まる俺等ではない。


「死ね、妖怪。【蒼水之槍・水雫突き】!!」


完全に気配を絶ち、叢加斗の後ろに立っていた漣の突きが叢加斗の心臓の真下を貫く。


『ぐぅぅ、、、』


槍で貫かれた叢加斗は苦悶の表情をするも、前進から太陽光線を放っことで漣を退かしてみせる。


『ならば、次は物量勝負よ!!!』


そんな奴の叫びと共に展開されるのは、数百、数千、数万にも及ぶであろう夥しい数の太陽光線。しかもその全てが先程漣に放たれた追尾式の太陽光線である。


「ハハ!物量勝負だと!舐めてんのか!!!」


「本当に、舐めてくれますわね。」


俺と楓は伊達にこの階級に位置しているわけじゃない。しかも、ファヌエルの状態の俺の霊力量は楓の数倍はあるだろう。


「【壊乱操術・腐壊槍】【混沌操術・カオスセイバー】【虚空操術・無帝乱】」


放たれる数万の太陽光線、それに対抗するべく放たれるのは現時点での太陽光線以上の威力を持つ技たちである。


そして楓と朱音の2人は遠距離攻撃手段を持つため迎撃。近距離特化の漣と雷兎は太陽光線から逃げ回っていた。


「どんどん威力とスピードが落ちてんなぁ!!苦しいんじゃねえのか!!!!」


『黙れ奴隷!!!!』


30秒ほど大量の弾幕がぶつかり合うと、その拮抗は徐々に崩れ去ろうとしていた。その原因は圧倒的な馬力の違いである。


(太陽光線!!本来ならば凶悪すぎる威力を誇るけどよぉ!!俺はお前と同じ1級妖怪の異能を3つ目使えるんだよ!!)


組み合わせれば威力はさらに増大し、そのまま使えば数が増える。いつも思うけど暴食は本当にチート性能だな。


『ぐぬぅぅぅ!!!!!』


「どうしたどうした!!!傷が増えてきてんぞぉぉぉ!!!!」


さらに時間が経つと、叢加斗の全身には火傷や腐敗の跡が増えてきた。もう霊力も大して残っていないだろうしそろそろ崩れるだろう。


(三分経つまで、残り1分!!これならアレを使ってもいいだろう!!)


「【制限操術】発動!!」


『なッッッ!?これ以上なにかするのか!?』


「【残り全霊力を代償に10秒間、対象の霊力使用を不可にせよ】」


刹那。


奴の放っていた幾万の太陽光線の全てが消え去り、俺の弾幕の全てが消え去る。


『は、、、?』


(この状況の変化によって起きる脳のフリーズ!!これを利用する!!)


奴の霊力の使用を、俺の全霊力を消費することで不可能にする。そうすれば俺と叢加斗は霊力をもう使えない。


こうなった時に、有利なのは俺の方である。なぜならば、ファヌエルの使用時の俺の身体能力はあのスーパー○○○人並みだからである。


「いい加減沈めェ!!!!!」


『ぐはッッッ!!!???』


霊力による身体強化を施さなくとも、俺のパンチは霊力を纏っていない叢加斗如き簡単に砕くのである。


そして、俺の放った右フックは奴の顔面を打ち砕き、完全に意識を消失させた。


「楓ぇぇ!!!!!やれぇ!!!!!」


「分かっていますとも!【神焼炎・メギストスフレア】!!!!」


だがこのパンチで奴の生命を刈り取る事は叶わない。故に確実に仕留めることが出来る楓にトドメを刺すよう指示する。


瞬間、神焼炎の弓矢が放たれる。それは奴のボロボロの肉体を超好熱で瞬時に溶解させる。


(すまん楓、フィニッシュは貰うぞ。)


「ドリャぁッ!!!!!」


叢加斗の命の残りカスを潰すように、俺の拳が奴の顔面を深く深く貫く。すると、奴は全身を灰へと変えてこの世から消失するのだった。


(ご馳走様でしたっと。)


最後にトドメを刺したのは、純粋にこいつの太陽光線の異能が欲しかったからだ。かなり使い道ありそうだしな。


「よし、これでかっt」


「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!お前すげえな神楽!!!!!!!!」


俺が皆の方を振り返って、安否を確認しようとすると俺より遥かに喜んでいる雷兎が抱きついてきた。


「はは、、、まぁ、全員死なずに勝てて良かったわ。」


俺も嬉しそうな雷兎を見てそう思い、静かに微笑んで大人しく気絶を迎えるのだった。

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