第十七話 『厨二病は努力の人』


「【雷兎・猛攻(エレクトリカルヴォーパル・ラッシュ)!!!!】」


「【混沌操術・禅虚】✕【氷現操術・霜花】!」


雷兎の拳から放たれるのは、電撃によって加速された拳の嵐。その一つ一つに感電性があり、霊力を貫通して肉体に損傷を与える。


だが、俺はその凶悪性を知っている。だからこそ異能そのものを中和する混沌操術と氷の花の壁を展開する氷現操術を組み合わせて、電撃を散らしながら拳をガードした。


「【虚空操術・絶無回帰】!!!」


俺は電拳の嵐をガードしたのとほぼ同時、俺は苦労の末に1級妖怪を討伐した際暴食で喰らった異能【虚空操術】を発動する。


(空間ごと【無】に返す攻撃特化の異能!とても同級生に向ける技じゃないが、こちとらあの地獄みたいな筋トレの後だ!構ってられん!)


俺は異能を発動して両手を前にかざす。すると手の先から黒と紫が混じったような色の斬撃が放たれた。


「遅いんだよ馬鹿野郎!!!」


「そういうお前は甘いなッ!!」


だが、俺が術を発動した時には既に後ろへ回り込んでいた雷兎は、その渾身の右フックを俺の顔面へと放つ。


ただし、甘い。俺が躱された後の事を考えて無いとでも思ったのか?


「ぐぅぅ、、、、!?なんだこれは!?」


「遠隔発動【混沌操術・乱霊鎖】。」


あらかじめ術の発動は済ませていたが、それを待機させておいていたのだ。そして、俺はそれを雷兎が後ろへ回り込んだ瞬間発動した。それだけのことだ。


「ようし、今回も俺の勝ちだな!」


「ぐぅぅ、、、また負けた、、、」


「わっはっはっ!!何回でも挑んでくるが良いぞ!!」


世羅先生から地獄の基礎トレのメニューを渡されてから1週間、最初の方はマジで地獄だった。失神したら世羅先生に蹴って起こされ、嘔吐したら世羅先生にけりとばされる。そして模擬戦で負けたらその状態で外周5周追加。改めて良く生き残ったな俺。


「お〜いお前ら、朗報だ。今日はトレーニングしなくていいぞ。むしろ、それを活かすときがきたぞ。」


「「「「「よっしゃぁ!!!!!」」」」」


「喜んでるようでなによりだな、んで今日やることだが、、、」


世羅先生が校庭に出てきていきなり話し始めると、俺等はもう狂喜乱舞だ。


「一年全員での【合同任務】だ。危険度は1級の討伐任務さ。」


「おぉ!!遂に来ましたか合同任務!!」


「お前らがこの一週間どれだけ頑張ってきたか、この任務で見させてもらうぞ。」


ついに渡されたのは、俺でもソロでは苦戦する1級任務だった。でも、今回は五人全員でしかも楓もいるんだ。正直油断しなければ余裕だろう。


「んじゃ、皆準備出来たら行こうか。」


「了解」


「分かりました、師匠。」


「うっす。」


「は、はい、、、」


我々一年に協調性というものは存在しないので、仕方なく俺がリーダーシップを取って行動している。まぁこれからいくのは1級、油断したら誰か死ぬ世界だ。嫌でも連携は必要となる。


「さて、俺も準備しよう。」


そんな呟きを校庭に残して、俺は寮の部屋へともどるのだった。



―――――――――――――――――――――



「楓、辺りに敵の反応はあるか?」


「無いですね、この周辺200メートルに妖怪は居ないです。」


「分かった、引き続き見つけたら教えてくれ。みんなはいつ妖怪に遭遇しても良いように臨戦態勢で構えておくように。」


「了解。」


「うす。」


いかにも幽霊が出そうな山を、我々一年ズにしては珍しく連携しながら進んでいく。


(確かに、この霊力反応は普通の妖怪ではないな。特級の中でも弱い鹿紫羅喪と同等レベルの強さだな。)


「川、、、あったな、、、」


「皆、構えろ。」


異能力において、川や海などの境界を隔てるものを渡る行為はかなりの意味を持つ。それはつまり、、、


「霊力反応!!!!!!」


川を全員で一気に渡ると、景色は一変する。先程までの妖しい雰囲気の山とは違い、太陽に照らされる草原のような空間へと変化した。


それは、俺等全員がとてつもなく焦りを抱いた最大の原因である。


(不味い!?【神域結界】を展開された!?)


異能力の極地、発動されたその時から結界内は最大の危険地帯と化す。


『死になさい、哀れな星の奴隷よ。』


「逃げろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


刹那。


全員に向けてもはや発狂にも等しい指示を与えると、天から極光の太陽光線が放たれる。


(熱すぎ!?それにとんでもない質量!?押しつぶされそうだ!?)


「【混沌操術・混喰】✕【虚空操術・無虚回廊】!!」


このままだと即死まったなしなので、俺は全力で術を展開する。すると混沌の結界を貼って太陽光線を中和して、虚空のレーザーで空間ごと太陽光線を相殺した。


「みんな!?無事か!?」


「問題なし。」


「私も無事ですよ、師匠。」


「俺はメッチャ熱いけど軽症だ。」


「少し、火傷しましたけど、平気です。」


太陽光線を相殺して、皆の安否を確認する。漣と楓は無傷で、雷兎と朱音は軽い火傷で済んでいるため全員大した怪我はしていない。


「んでもって、あいつがこの結界の主か。」


『いかにも、私は【叢加斗】。哀れな星の奴隷に死の救済を与える者である。』


「ハッ!星の奴隷だと?馬鹿にしてくれる。」


(霜神、あいつはどんぐらいヤバイ?)


(少なくとも鹿紫羅喪よりは強い。1級の中では最上位の強さだろうな。ファヌエルも使うことを視野に入れておいた方が良い。)


(了解、まぁ出来るだけ今の手札で頑張ってみるよ。)



すでに全員戦闘態勢、雷兎は全身に雷を纏っているし漣も槍と全身に水流を纏わせている。そして楓は神焼炎の弓矢を形どっているし朱音も式神である毒クラゲを召喚済みだ。


『朽ちよ、星の奴隷共。』


「行くぞぉぉぉぉ!!!!!!」


瞬間、激突。


奴は姿を現さないまま、再び天から太陽光線を落とし続ける。その数、ざっと見ただけで60。


「舐めてんじゃないわよ、【神焼炎・メギストスフレア】!!」


「【雷兎・猛攻(エレクトリカルヴォーパル・ラッシュ)】!!!」


「【蒼水之槍・流龍転】!!!!」


「【ファンネル】!!お願い!!」


各自が襲い来る太陽光線を相殺する。一人は神焼の炎矢で太陽光線をも焼き尽くし、一人は雷の速度で連撃を行って太陽光線を薙ぎ払い、一人は龍を模した水槍で太陽光線を蒸発させ、一人は式神を纏うことでダメージを無にした。


「2回目だぞ?それ。」


俺の対応力を舐めてもらっちゃ困るな。初見だったら喰らうがこれだけの手札を用意してるんだ。もう喰らわまい。


(神域の利点は攻撃の必中化と全ステータスの向上。だが、必中化は当たるだけで防御すること自体は可能!!)


「【適応操術・対象太陽光線】。」


術を発動すると、太陽光線が俺の全身を貫く。だがその全てはノーダメージになる。


「適応操術、適応する対象について深くチシキを知っていて尚且つ、大量の霊力を消費することで適応した攻撃全てを無効化する異能。さぁ、どうするどうする?」


『忌々しい星の奴隷め、、、調子に乗るなよ小童。私にはまだ手札が、、、』


「あと、お前の位置、大体分かったぜ。」


『なに!?』


こいつの神域は穏やかな草原、そして放たれる攻撃は超高熱の太陽光線。つまりこいつの異能は太陽熱を操る代物ってこった。


「擬似的な宇宙空間を作ってんだろ、でもそんな完璧に宇宙空間を再現することはできない。そうだな?」


『ぐぅぅ、、、だが、それが分かったところでなにが、、、』


「それがわかれば、俺にはお前を引きずり落とせる手段があるって言ってんだよ!!!」


俺はそう吐き捨ててみんなの方へと振り返る。正直言って今からやろうとしてることは承知しがたいことだと思うが、すまん、手伝ってくれ。


「皆、あいつを引きずり落として3分後に俺は気絶する。そうなったら俺を守りながら戦ってくれ。」


「3分で気絶ぅ?」


「なにか、策があるのだな。」


「判りました、師匠。」


「絶対、、、勝ちます。」


「ならば始めるぞ、お前の言葉を借りるなら、哀れな太陽の下僕よ。」


『このクソガキガァァァァァァ!!!!!』


俺が挑発するともうすんごい乗ってきてくれた。キレやすくて扱いやすいってもんだ。


「【天秤操術】発動。」


「【代償 三分後に気絶】【対価 対象の隠蔽または逃走を禁じ、正面戦闘を強制】」


俺の全身から霊力が立ち昇る。そして発動される異能。その瞬間、星が落ちてきた。


「ようやく降りてきたなぁ!!!下僕!!」


『ふざけるんじゃないわよ!!!!!!』


そこに居たのは、全身を白いローブで包んだ人間らしき生物。ここまで精密な擬態となると、限りなく特級に近い1級だな。


「さぁ、出来るなら三分で殺してやる!!行くぞ!!霜神!!」


(おうよ!!主!!)


「【霜神楽雪(ファヌエル)】!発進!!!」


久方ぶりの奥義発動。全身から特級の楓すら凌駕するほどの霊力を立ち昇らせて三分の決戦を開始するのだった。




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