第十六話 『厨二病は師匠になる』
「おいお前ら、ここはよく覚えておけ。我らが学院もある日本異能力者協会の本拠地【新宿】には、日本全土の妖怪の発生を抑制する大結界【アマノカサムロ結界】を、維持する特級霊具【天玉】が設置されている。これを異能犯罪者に盗まれたら日本は終わりだ。これは異能力者として覚えておいて欲しい。」
時刻は11時25分、昨日の騒ぎのせいで疲れた俺は学院によって用意された寮についたら飯も食わずに眠ってしまった。てか入学の次の日から授業ってスケジュールパンパンすぎない?
(それに、雷兎はまだ不完全燃焼っぽいし、楓に至ってはなんかずっと俯いてるから怖いんだけど、、、俺殺されん?)
「おっと、そろそろ午前の授業は終わりだな。この後は各自食堂でご飯を食べて、第一体育館に集合するように。」
「は〜い。」
「うっす。」
「はぁ、、、傘異に本条、喧嘩するのは若者だから仕方ないとしても、任務になったら切り替えろよ。下手したら、死ぬぞ?」
「分かってます、世羅先生。」
「チッッ!!」
「んじゃ、授業終わり〜。解散。」
世羅先生の言葉で、さらに不機嫌になる雷兎。そんな雷兎とは裏腹に楓は何故かスッキリした顔をしている、え?怖いんだけど?コロコロ情緒変わり過ぎじゃない?
とか考えていると、楓は俺の方へ向かって歩きだしてきた。え、怖い怖い。なにかした俺?
「ねぇ、アンタ。ちょっと着いてきて。」
「え?あ、え?」
「着いてきてって言ってんのよ。早くしなさい。」
「う、うん。」
ぶん殴られることも覚悟していたのに、なんか予想と違ってフリーズしてしまった。それに、彼女が向かう方向は食堂だった。
(この雰囲気で一緒にご飯食べるの嫌だぁぁ、、、)
漣へと助けを求める視線をおくるも、健闘虚しく無視された。うわあいつ、視線で煽ってきてやがる。
―――――――――――――――――――――
「、、、」
「、、、」
(気まずい!!!死ぬほど気まずい!!!)
食道に来て俺はカレーを、楓はチーズハンバーグを頼んで席に座ると、地獄みたいな空間が起きてしまった。
本当にしまった、ここに来てコミュ障の弊害な出てる。クソッ!家族と漣以外とまともに喋ったことがないんだよこちとら!!
「ねぇ」
「はいなんでございますでしょうか!?」
この地獄の均衡を破った楓の声に、意味わからない言葉で返答してしまう。しかも、なんか怒ってるんじゃなくて沈んだ声なのが余計怖いっす。
「アンタ、なんでその強さで準1級なの?私の炎を止めるなんて、準1級どころか1級でも無理なのに。」
「そんなの俺が知りたいくらいだよ、別に階級について気にしたことはないから良いんだけど。」
「じゃあ質問を変えるわ。私の師匠になってちょうだい。」
「うんいいよ、、、ってはい!!???」
とんでもない爆弾が投下され、思わずカレーを零しかけた。え?Watts!!??
「アンタと私、異能の強さで言ったら私のほうが圧倒的だけど、アンタは私より遥かに優れた【知能】があるわ。複数の異能を組み合せて同時発動なんて、それこそ人間の所業じゃないもの。」
「あ、ありがとう、、、??」
「だから、アンタのその知能と発想力を私に貸して。そのためなら私が弟子になっても構わないわ。」
「、、、マジか、、、」
そんな馬鹿げた事を告げる楓の手は、強く強く握られていて、血が出ていた。当然だ、本來の彼女ならば屈辱的すぎる行為だ。
(でも、自分より劣る相手の優れた部分を利用して更に強くなろうとするイカレた向上心、、、)
「良いね、凄く良い。」
俺も強さを追い求める者として、彼女のしていることは素晴らしいと思っている。ちなみに上から目線で言っているが俺のほうが格下だぜ?
「1つ、条件を付けさせてくれないか?」
「なによ?」
「本条楓、お前のその神をも焼き殺す炎を研究させてくれ。その力は、俺にとって凄く魅力的だ。」
「そんなことでいいの?」
「もちろんだとも。」
俺は最近掴んだのだ。暴食によって他人の異能を使う俺だからこそ掴んだ霊力の可能性。
(霊力の性質変化、、、これには無限の可能性がある、、、)
理論上、膨大な魔力とイメージ、そしてそれを制御する脳の力があれば霊力はどんな異能でさえコピーして扱うことができるのだ。
神を焼き殺す炎、本条楓の持つ異能【神焼炎】をコピーすることが出来れば俺の大幅な戦力アップが期待できる。だからこその条件だ。
「なら、アンタ。いや、神楽師匠。今日からお願いします。」
「なんか、、、こっちがこそばゆいな、、、」
「私のほうが恥ずかしいのですから、そう言わずに。」
いや、マジでその態度を先生に見られたら誤解されるからやめてね?フリじゃないよ?辞めてね?
―――――――――――――――――――――
「お前ら、、、そういう関係だったのか、、、」
「ほらやっぱりこうなるじゃん!!!!」
「すいません、神楽師匠。」
「申し訳ないと思ってるなら辞めてくれ!?」
「それはできません、私は決めたことは絶対に守る主義なのです。」
「変なとこで頑固なんだけどこの子!?」
午後の授業の場所である体育館に、事前に配布されていた体育着を着て行くと、早速世羅先生に誤解されてしまった。てか俺より楓のほうが恥ずかしいだろこれ!?
「まぁ本人たちの自由だからな、私からとやかく言うことでもないか。」
「助けてくれないのかよ!?」
「はいてことで授業初めてくぞ〜(棒)」
「無視かよっ!?」
俺に助けの船は来ないようで、漣から冷たい視線と雷兎からすんごいキレてる目線をぶつけられて肩身が狭い。
「選抜試験でお前らの力量は大体把握してるからな、今日から行うのは【基礎固め】と【必殺技】の習得だ。」
「必殺技?」
世羅先生の言葉に、漣は反応して聞き返す。おいおいちょっとまて、必殺技とかメッチャ興奮するじゃねえか!!!
「それを詳しく説明する、まずは一年生であるお前らには、基礎的な体術や筋トレ、体力づくりなどの基礎固めが最優先だ。そして次に来るのが必殺技の習得だな。」
「世羅先生、必殺技ってどの異能力者でも持っているものなんですか?」
「あぁ、必殺技とは文字通り必殺。戦闘力が重視される異能力者にとって相手を確実に仕留める技というのは必要不可欠だ。」
楓の質問に対し、詳しく答える世羅先生。俺はそれを聞きながらとても興奮していた。
(俺は色んな異能を持ってるし、たくさん必殺技が作れる!!手札が増えるし世界最強も夢じゃないな!!)
「てことで、これから一学期終わるまでの4ヶ月でお前らにはある課題を達成してもらう。」
「課題?」
そして、世羅先生はにやりと不敵な笑みを浮かべて自信満々に答えてみせた。
「己の階級を1つ上に上げろ、特級の楓は特級任務を5つクリア。以上だ。」
「「「「「、、、はぁぁ!!???」」」」」
巻き起こる疑問と怒りの嵐、そりゃ当然だ。自身の階級を上げるのはそう簡単ではない。それこそ命を賭けた任務に臨む以外に方法はないのだから。
「それを達成できなきゃ退学。さてさて?こっからはどれだけ自分を追い込めるかだぞ?」
世羅先生の笑みが、邪悪な笑いへと変わって見えるのは幻覚ではないはずだ。だって、他の連中も俺と同じ、ふざけやがってって顔してるからな。
「ほれ、今日のメニューは一周1キロの外周をそうだな、、、15周だ。その後に腹筋50回、腕立て50回、スクワッド50回を3セット。その後に各自ペアを組んで模擬戦。もちろん自身の霊力が尽きるまでやれよ?負けたほうは外周5周追加な。」
「「「「「鬼だ、、、」」」」」
本当に真面目にアホみたいなメニューが課されて、全員の空いた口が塞がらない。だが、俺はその均衡をぶち壊した。
「やってやんよぉぉぉ!!!!!!」
啖呵を切り、体育館から勢いよく飛び出して外周を始める。これでも幼少期から毎日トレーニングしてきたんだ。体力には自信がある。
「あ、待てや!!」
「俺も行くぞ。」
「置いてかないでよ、師匠。」
「わ、私もいきます、、、」
俺が飛び出したことで、全員が走り出すこととなり、この超絶キツイトレーニング生活は幕を上げるのであった。
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