第十一話 『厨二病は戦闘狂』


始まる第弐回戦、状況は圧倒的不利である。その原因は奴の展開した神域結界だ。


「背中がらあき。」


「うぐっ!?」


こちらは視界が完全に封鎖され、霊力探知でやつの姿を捉えることも出来ない。だが奴の攻撃は神域の効果で強化され、こちらの肉体を悉く貫いてくる。


(この影自身が神無月麗華!だから霊力探知で奴本体の姿を捉えることが出来ない!)


「だが!!まだ甘い!!」


「どっちがかな?」


俺はやつの容赦のない拳を背中にくらいよろけるが、すんで踏ん張って耐えきる。そして俺はニヤリとした顔を浮かべて術を発動する。


発動するのは【断撃(円)】と【獄血爆操 曹操血鬼】。合わせて【断曹血鬼】とでも言おうか。


その効果は単純な組み合わせ、自身の周りに円を発生させて斬撃を永遠に落とし続ける断撃(円)と、10本の血の短剣を自由自在に操ることのできる曹操血鬼を組み合わせることで、自由自在に動く短剣の周りにも斬撃を発生させる術に改良した。


(足りないか。)


俺は心の中で冷静に分析する。現在の状況は目まぐるしく10本の短剣が動き回り、辺りに斬撃を撒き散らして俺への攻撃を中断させている状態だが、奴にダメージは入っていないという状況だ。


(やはり【アレ】しかないか、、、大勢が見ている中で使うのは避けたかったけど、ここまで来て負けるのは癪に触るし。)


「【影月食】」


脳内で思考を巡らしていると、このお互いにダメージが与えられない不毛な状況を打破する術が飛び込んできた。


刹那。


術の発動を認識した瞬間発生したのはとてつもない【重力】。俺の全身の骨が悲鳴を上げ、地面に叩きつけられるほどの重量感が体を襲いかかる。


一体何事だと上を見上げると、先程まで何も見ることの出来なかった視界に一つの【黒い月】が映った。


「背に腹は代えられない、か、、、良いぜ、やってやるよ。」


俺はこの重力の術を受けて覚悟を決めた。その瞬間俺は無理矢理にその重力を無視して立ち上がり、じっくりと腰を据えて、ある体制に入る。


「ほら、どうした?かかってこいよ。」


足を広く広げ、両腕も開く。そして研ぎ澄まされる全神経からわかることは、俺が攻撃を放棄して完全なるシールドカウンターに切り替えたことだった。


「後悔しても知らないよ。」


そんな言葉が響いたのとほぼ同時、俺の正面、いや懐に忍び込んでいた神無月麗華はその拳を振りかぶる。そしてそれを認識した瞬間にはその拳は放たれていた。


「それを待ってたんだよ。」


対する俺は、確信の笑み。想像通りに事が運んで嬉しくてしょうがない顔は立派な戦闘狂の顔面だった。


「【心核同魂】!!」


約束された言葉を放ち、その圧倒的すぎる霊力を解放する。その霊力は、【赤白く】光っていた。


「【霜神楽雪(ファヌエル)!!】」


変化する容姿、先程までの少年の肉体から少し女性の肉体が混ざったかのような体と雪のように白い肌、そして右目は青白く、左目は赤白くなったオッドアイが特徴的な姿へと変身する。


「捕まえたァ!!!!!!!」


「ぐはっっ!!!????」


あまりにも違う霊力と身体能力を暴力的なまでに行使して、自信満々に放たれた拳を軽く掴んで地面に叩きつける。


その一撃だけで奴の意識は彼方へと飛んで行ったが、そんな事お構い無しに連撃を続ける。いわゆるハメコンボというやつだ。


「舐めるな!!!!!!」

 

「じゃあ反撃してみろよ!!!!」


怒りに駆られたのか、その壮絶すぎる痛みといつ死んでもおかしくないであろう傷など無視して術を発動する。


すると、俺を覆っていた影すべてから殺意を感じ、気付いたころにはその影から目視だけで500は超える刃が大量に射出される。


だが、どれだけ多くても今の俺には敵わない。特級妖怪鹿紫羅喪すら対応できなかった圧倒的な身体能力と暴力的な霊力、そして元素支配の火力に加えて獄血爆操の利便性も手に入れた俺に10歳の子供が勝てるわけ無いのだ。


500の刃全てをたった一回のパンチで打ち砕き、そのまま神無月麗華の横っ腹に蹴りを加える。


蹴りと同時に血の短剣が神無月麗華を貫き、断撃(円)の範囲に入った神無月麗華はその両腕を切り落とされる。


「グッバイ!!!!!!」


そして最後に元素支配を発動。化学を利用した超新星爆発を3連続で引き起こして奴の体を完全に消滅させる。


(やっべやりすぎた。再生頼んだぞ如月ライラさん。)


俺は心の中で少し焦りつつ、深呼吸して息を整える。その視線の先には灰すら残さず消えてしまった神無月麗華が居た場所を見つめていた。


「お、戻った。」


術者が死んだことで、神域結界が解除されて元の豪華なパーティー会場へと戻る。だが、その周りはやはり如月ライラが貼ったと思われる結界で覆われていた。


「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」」


「え!?あの【麒麟児】に勝ったのか!?」


「おいおい灯輝なんだよ!!今年はずいぶんとやってくれるじゃねえか!!」


「俺は最初から言っていただろう、神楽が勝つと。」


「なんなのですわ、、、あのガキンチョ、、、」


「うちの麗華が負けた、、、だと、、、」


結界が解除されると、外界への遮断も無くなり周りのガヤガヤとした声がよく聞こえてくる。その中には、父さんや葉月さん、弥生のクソババアも居たようだ。


『まずは蘇生しよう。話はそれからだな。』


周りの歓声が一通り止むと、如月ライラの声が響いた。そしてそれと同時に行われるのは異次元の所業だった。


「うぇぇ、、、??」


本当に、本当に僅か0.00001センチほどしか無いであろう神無月麗華の残りカスである灰一つから、肉が造られ、血が生成され、元の神無月麗華が修復されていく。


まさに神業、この世界において今行なわれている所業がノータイムで出来るのは限られた極一部の猛者(変態)だけだろう。


「生き、てる、、、??」


『性格には蘇らせたのだがな。まぁ良い。聞け。』


全員が今行われた頭のおかしい所業に開いた口が塞がらないという様子の中、如月ライラは言葉を紡いだ。


『まずはご苦労、両者共。数十年先の明るい日本が想像できる素晴らしい試合だった。』


「「感謝いたします。」」


(は?今、俺何した?)


自分でもよくわからないが、彼女の言葉を聞いた瞬間、頭が勝手に下がっていた。


(純粋な恐怖で、反射的に動いた?)


俺は脳内で戦慄する。この女は、一体どれだけ強いのかと。そして、それと同時に興奮する自分がいた。


『是非、今後も鍛錬に励むがよい。次回の交流会もたのしみしているぞ。』


「「はっ!!!!!」」


『ハハハ!!!!今日の我は機嫌が良い!霜月に神無月!貴殿ら2家には【霊獣卵】を授けよう!!』


高らかに笑い、霊獣卵とやらをくれると言う如月ライラ。それを聞いた大人たちは一気にざわついた。


「霊獣卵だと!?」


「【国家指定重要異能文化財】を2つもプレゼントするとは、、、」


(え?それやばくね?)


(やばいんだよ主、この女さらっと言ったが他の連中にとっては今日一番の衝撃ニュースだぞ。)


一人状況にとりのこされる俺に、冷静に脳内で説明してくれる霜神。まだポカンとしているが、やべぇってことだけは分かった。


『試合は終わったが宴はまだ続くぞ!!思う存分楽しむが良い!!』


「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」



如月ライラの号令が下ると、楽しい楽しい宴が再開される。そして、今日は騒がしい一日になると確信した瞬間でもあったけどな。


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