第十話 『厨二病は普通にピンチになる』


『中へ入れ、歓迎するぞ?』


「「「「「「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」」」」」」


俺達より先に来ていたのか、門の前で佇む十二人の当主たちが如月ライラの言葉に揃って答える。それと同時に如月ライラは背を向け、全員について来いという司令を出す。


「神楽、行くぞ。」


「はい、父さん。」


キリッとした顔でついてこいと伝える父さん、だが、そこには確かな恐怖らしきものが入り混じっていた。


「おぉぉ、、、」


門の中へと入り、歓迎するかのように桜が一層激しく舞い散る。


刹那。


瞬きをした瞬間、見える景色全てが変化する。先程までの桜一色の光景から、今俺の視界に移るのは貴族たちのパーティーのような明るく豪華な料理が並ぶ会場への変化する。


『改めて、久しぶりだな諸君。今日ここにつれてきたのには理由がある。』


全員がその景色の変化に困惑と恐れを抱き、数秒フリーズするが、それは会場の一番前の玉座らしきものに座って頬杖をついている如月での声でねじ伏せられる。


『近年、妖怪の動きが活発化しているのは知っていると思うが、最近より一層凶暴化していると情報が入ったのだ。それも、特級相当の妖怪が複数体発見されるほどにはな。』


その言葉を聞いてドキッとする。間違いなく特級の発見って俺じゃん。絶対父さんがチクったじゃん。


『そこで、今日はお互いの絆を深め、やがて来るであろう【百鬼夜行】に備えてほしい。各家の子供を連れてきてもらったのも、子ども同士の仲が深まれば次世代も安心だと思ったからだ。そこは理解しろ。』


「「「「「「「「「「「「はっ!!!!」」」」」」」」」」」」


『長々しい説明すまない、とにかく今日は宴だ。好きなだけ飲んで食って殺り合え!!』

 

「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」」」


如月ライラによる号令、それと同時に鳴るのは宴好きの当主たちによる大合唱である。うるせぇよぉ!!!!!!


(まぁ俺もパーティーがきらいな訳じゃないし、思う存分楽しませてもらおうかな。)


そんな事を考えながら、目の前にあるマカロンを食べてみる。するとそれは絶品で、思わず舌鼓をうってしまった。


次々と料理を手にとって、それを口に運ぶ。そのどれもが絶品で如月家が金持ちなのがよく分かる美味しさだ。


傍から見ればその食いっぷりはだらし無く、おぼっちゃまお嬢様揃いのこの会合で俺が浮くのは当然の帰結だった。


だが、そんな俺を見てもなんの偏見も持たずに不思議そうな顔で話しかけてくる女がいた。それは、後ろからずっと睨みつけてくるあいつのことだ。


「さっきから、何なんですか?」


「あなた、霜月神楽?」


「そうですけど、何か御用で?」


俺が痺れを切らして話しかけると、いきなり名前を訪ねてきた。俺はご飯を食べながら振り返りもせずにいたから普通なら激度すると思うのだが、やっぱり普通に話しかけてくる。


「あなたが特級を倒した異能力者?」


「、、、違いますよ。」


「嘘。一瞬霊力が揺らいだ。」


「だったら、なんです?」


適当にいなしながら最初に食べたマカロンをもう一度たべる。あ、これめっちゃ美味いぞ。


そんな馬鹿な事を考えて呑気に過ごしていた俺を引っ叩きたくなってきた。だって、奴の口から出てきたのは想定外の言葉だったのだから。



「私は【神無月麗華】。貴方に決闘を申し込みます。」


「はいはい、、、って、え?」


「手袋、拾って?」


「、、、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!??????」


自分の正体を明かすのと同時になげつけられた手袋と言葉。それは、マジで意味がわからない決闘の申し込みだった。いや、マジでなんでなんだよ。



―――――――――――――――――――――



「はぁ、、、どうしてこうなった、、、」


さっきの決闘宣言、間違いなく如月ライラ様とやらに禁止されると思ったのにまさかの快諾。最高権力公認の試合となってしまった。


(いやでも、ある意味チャンスじゃね?俺と同年代の月煌十二家の子供と戦えることなんてそうそうないし。)


てか苛ついてたのも飯食うのを邪魔されたからだからな、別に死合うことは嫌じゃないんだよな。むしろ楽しみになってきた。


(主、気をつけたほうがいいぞ。)


(どうしたんだ、霜神。あの子そんなにヤバいのか?)


(眼で見れる情報だけで少なくとも1級相当だ。異能次第では鹿紫羅喪と同等もあり得る。)


(マジか、なら警戒していこう。)


脳内で霜神が喋りかけてきて、何事かと思ったらまさかの警告だった。俺の眼で見た感じだとそこまで強い感じではなかったのだが、霜神の眼だと違うらしい。


「鹿紫羅喪から喰らった異能【獄血爆操】のお披露目と行こうか。」


俺は陰陽師服のポケットに鹿紫羅喪の宝玉をセットして、奴の霊力分を上乗せする。この状態ならば霜神と融合したときと同じぐらいの霊力量が得られる。


「改めて、私は神無月麗華。神無月家の長女です。」


「霜月神楽、霜月家の長男だ。よろしく頼む。」


お互いに準備万端、挨拶を交わしてバチバチに殺意をみなぎらせて睨み合うその姿は如月ライラにとって面白く映ったのだろう。


『ハハハ!!子どものうちから血気盛んでいいのう!どれ、私が結界を用意する。殺しても復活するから遠慮なく殺るがよいぞ。』


さりげなく超絶高性能な結界を展開する如月ライラ。その結界は俺と神無月麗華を取り囲むドーム状に広がり、外界と完全に遮断する。


「その余裕そうな顔、引っペ返してやるよ。」


「やってみて。」


俺の煽りにも動揺せず、むしろ俺が恥ずかしくなってきた。慣れないことは辞めよう。いつも通り戦ったほうがいいでしょ。


『それじゃあ、試合開始!!!!』


如月ライラの興が乗っている宣言が行われる。


「先手必勝!!!!」


(霊力解放!!仕掛けるなら先手必勝の接近戦!!)


俺の膨大な霊力を活かした超スピード速攻高火力の接近戦に持ち込むのが、現状一番有効な作戦だ。


故に、試合開始のゴングと同時に俺はたった一回の加速で奴の懐へと侵入して拳を繰り出す。


それは本来ならば奴の顔面を貫き、その意識を一撃で刈り取るパンチだったが、それは繰り出した瞬間動きを停止することになった。


「【影縛】」


「ぐぅぅ、、、??」


俺の背中と肩、そして両足を抑え込もうとするのは地面から伸びているであろう無数の【手】だった。それは霊力を6割ほど解放している居間の力でも振りほどけ無いほどに強固だ。


「影、、、だと、、、」


「正解、【影刃】。」


俺がその首を後ろに回して手の出どころを確認する。だが、それは驚きの結果だった。


俺を拘束する無数の黒い手は俺自身の【影】から出てきていた。それを認識した瞬間、奴自身の影からも刃が伸びてきて、俺の腹部を豪速で貫く。


「【影波】」


「うぐっ!?」


そしてもう一撃放たれるのは、影の爆發。俺の影が一瞬はじけて、その瞬間全身に激痛が走る。


(主、だからあれほど気をつけろと言ったのに、、、)


脳内で霜神が呆れながらも、すぐさまカバーするように結界を発動する。これで外界からのダメージは6秒ほどなら完全に無効にできる。


「こっちの番だぜお嬢様!【断撃(円)】!」


結界を展開して数秒の猶予を得た瞬間、奴が俺から距離を取る前に術を発動する。それは本来ならば指定した場所に斬撃を一度落とす術である断撃を改良したものだ。


断撃(円)、俺を中心とした半径2メートルほどの円を展開して、その範囲内に無数に斬撃を落とし続ける空間を創り出す術だ。


それを発動した瞬間、俺を拘束する無数の手と腹部を貫く影の刃は粉々に斬り刻まれる。


だが、神無月麗華自身にはたった2発しか当たらず、その肩と右腕に浅くもないが深くもない切り傷を与えたくらいだ。


(俺の術発動速度は詠唱終了から僅か0.001秒、その間にあいつは一瞬で避けたのか。いや、俺が霊力を動かした瞬間もう回避行動をしていたな、ということはずば抜けた霊力視認能力と反射神経を持っているということか。)


脳内で長々と考察を続けると、奴の長所も見えてきたな。だが、やつも俺の術を見て警戒しているらしい。先程までの威勢はどこへやら、ずっと睨み合うだけだ。



「そっちが来ないなら、俺から行こうか。」


俺はそんな事を口走りながら、右手を奴に向けて翳す。そして、渾身のドヤ顔で術の名を告げた。


「【獄血爆操 蜒蜒血鎌】。」


「【影鞭乱刃】。」


意気揚々と術を発動する。すると同時に生成されるのは5本の血鎌であり、それは豪速で奴に向かって飛んでいった。


対する神無月麗華も術を発動する。それは奴自身の影から軽く20は超えるであろう【鞭】を出現させる術であり、その影の鞭で奴に向かって飛んでいく血鎌を弾く。


「ハハハッ!!引っかかったなぁ!!!」


「っ!?追尾式か、、、」


奴が5本の血鎌を地面に弾き返して俺に視線を向き直した瞬間、血鎌は地面に衝突する前に物理法則を無視して奴に再び襲いかかる。


それは他の4本の血鎌も同様である。20は超えるであろう影の鞭に払われながらも奴に向かって一生懸命襲いかかり、今も奴の顔面から鮮血を流させたほどだ。


「オジャマしまぁす!!!!!!!」


「いっつ、、、」


血鎌の処理に追われる神無月麗華に、俺は容赦なく襲いかかり、血鎌を避けた先に全身全霊のパンチを叩き込む。


それは奴の顔面を深く抉り、地面に3回ほどバウンドさせて弾き飛ばす。


「おいおい!!楽しませてくれるじゃねえか!!!」


かなりの深手を負わせたと感じた瞬間、奴は何言もなかったかのように立ち上がり、その傷を見せびらかしながら両手をこちらへと翳してくる。


刹那。


奴の影がはちきれんばかりに伸びて円を作る。それはすぐさま俺の視界を黒へと染める。すぐさま霊力探知を発動するが、そこから得られる結果は一つしか無かった。


「【神域結界】、、、異能力の2大奥義のひとつを俺と同じ10歳のお前がやるのか、、、」


神域結界、月煌十二家の中でも有数の実力者にしか扱うことの出来ない神業を俺と同年代の神無月麗華が行った事実に驚愕する。


「絶対に逃さない、、、確実に勝つ、、、」


「ハハッ!!良いねぇその目!!勝ちにこだわる戦闘狂の目だ!!!」


暗闇に染まる視界の中、目の前に微かに映る一筋の光が奴の眼光というのに気付いた俺は、その力強さに興奮する。


「行くぞォォォォォ!!!!!!!」


時針の気合いを入れ直すために咆哮し、その霊力を10割、全開放して突撃するのだった。


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