第九話 『月煌十二家交流会』
「神楽、早く準備しろ。あと30分で出発するぞ。」
「はーい、もう少し待ってて〜」
「あんまり急ぎすぎなくていいわよ〜」
「兄様!頑張って!!」
「お前も行くんだぞ神恋、、、」
なんてことのない日常、傍から見ればそう見える会話だが俺等にとってはそうではない。今日、9月20日は我ら霜月家にとってかなり重要なイベントがあるのだ。
(月煌十二家交流会、、、俺等霜月家含めた名門異能力者の家系、総勢12家が主催の《如月家》に集まって交流を行う親睦会。)
なんと驚くことに、その開催が30年ぶりに決まったらしい。しかももっと驚愕の事実として、今までは当主だけを集めていたのに対し、今回の交流会では当主、正妻、長男、長女を原則で連れてこいと決められたらしい。
今急いでしているのはその準備である。主催の如月家の居場所は京都だが、我ら霜月家は埼玉住みのためかなりの長旅をしなければならない。だからちゃんとした準備をしていくのだ。
(それに、父さんから聞く限りだと主催の如月家は毎回レクリエーションとして奇抜なことをやるらしいし、万が一戦闘になったときのために気は抜かないでいこう。)
任務に赴くときと同じ陰陽師らしい服をキメて、気持ちを整える。準備と言っても俺は自分のバッグの中に《鹿紫羅喪の宝玉》を忍ばせておくぐらいだしな。
「兄様、凄い楽しそうですね!!」
「え、そ、そうかなぁ?」
「はい!!ニコニコしてます!!」
笑顔で顔を染めた我が愛する妹は、俺の笑みに気付いた。でも、その予想は大方正しいだろう。
(始めて父さん以外の異能力者と会えるんだ!そりゃ楽しみに決まってるじゃん!!)
俺は霜月家の長男以前に、一人の異能力者であり生粋の厨二病なんだ。異能力者の名家が集まる会合が楽しみじゃないわけ無い。
「よし!準備万端!!」
「準備できたな、なら早めに出よう。遅刻したら《あの方》に何されるかわかったものじゃない。」
「あの方?」
父さんの呟いた何気ない一言に、俺は何故かすごく興味を誘われた。だがそれに対して、父さんは凄く苦い顔をして答える。
「交流会の主催者、、、如月家現当主の《如月ライラ》様だ、、、」
告げられる真名、父さんの言い放ったその言葉にはどこか恐ろしささえ感じる何かがあった。
―――――――――――――――――――――
「起きろ、神楽。」
「んぁ、、、、」
目ざめると、そこに広がるのはThe・京都らしい歴史あふれる城?のようなものだった。それは父さんの目覚めの言葉と睨みつける視線と共に俺の意識へと叩き込まれる。
(寝ちゃってたのか、まぁ、昨日もずっと訓練してたししょうがないと信じよう。)
「おぉぉ、、、、階段、でっか!!!!!」
「《千霊階段》。如月家が誇る結界だ。階段時代に霊力をマーキングさせて登録している霊力を持つ生物以外は完全に通らせなくさせる《特級霊具》。」
車から降りて、顔を上げるとそこに広がっているのは横の長さが20メートルはあり、どこまで続いているかわからないほどの段数を持つ階段だった。
そのいきなり現れた洗礼に困惑すると、父さんはその余裕の表情を崩さずに解説してくれた。なんかドヤ顔だな父さん?
そんないつもどおりの会話をしながら、階段を登り続けて2分、さっそく厄介事が舞い込んできた。
「あらあら、霜月のような下賤な血筋がこの地を踏むのは失礼ではなくて?」
「お前も相変らずだな《弥生》、人の悪口言わないと死ぬ体質なのか?」
「農民の出のくせに調子に乗るんじゃないわよ、あんたのような薄汚い人間と話しているだけで反吐が出そうだわ。」
後ろから罵倒の言葉を投げかけてくるのは、全身をきらびやかな服装に包み、明らかに不自然なほど白い肌を持った女性だった。その容姿は言いたくないがかなりの美貌で、毒を吐くのが様になっているとも言えるだろう。
(だが、死ぬとほどムカつくのは事実だ。マジでなんなんだコイツ?いきなり話しかけてきたくせに罵倒してきやがって。)
「父さん、この方は?」
「こいつはy」
「私は《弥生綺羅》、霜月とかいう農民の出と違って高貴な出身の月煌十二家の一家ですわ。あなたたちのような人間に覚えられるのは癪なので、覚えなくて結構ですわよ。」
「俺も覚える気はないから安心しろクソババア。」
「やっぱりあんたムカつくわねぇ、、、」
俺が父さんに尋ねると、いつの間にか横に並んでいた女性、いや、弥生綺羅は父さんを遮るように高らかと自己紹介をする。それも罵倒付きで。
だがさすが父さん、その罵倒をさらに強い罵倒でアッパーカットしてくれた。その大人の悪口の言い合いを見ていた神恋は引き気味だが、そこは見なかったことにしよう。
「ほらほら、あんまり喧嘩ばかりしていても疲れるだけですよ霜月さんに弥生さん。」
「「あんたは黙ってろ葉月!!」」
「なんでぇ、、、??」
今度は誰だよと思いつつ後ろを振り返ると、そこにいたのは異能力者とは思えないナヨナヨとした男性だった。だが、その全身から感じる霊力の圧は、弥生綺羅とは比べ物にならない。
「よお霜月!!あと葉月!!」
「と、ってなんですかとって!!!めっちゃついでじゃないですか!!」
「私に関しては呼ばれてすら無いんですけど!!」
「すまんすまん、久し振りに旧友と会えたものでな!つい忘れちまった!!」
もう呆れつつ再度後ろを振り返ると、俺の予想を裏切って空中からダイナミックに登場する男性。その肉体はゴリラと言って遜色ないほどゴツく、こちらもまたとてつもない霊力の圧だ。
「久しぶりだな卯月、15年ぶりか?」
「そうだな!!あとそろそろ静かにしないと如月の奴に怒られるぞ!!」
「あんたの声が1番うるさいわよ!!」
「「「お前もな。」」」
「なんでよっ!!!!!!」
神恋はもう目をぐるぐる回して情報を処理しきれてないが、安心しろ。俺も何が起きてるか全然分からん。ただ卯月っていうゴツい男性が父さんと仲が良いってことしか分かんなかったからな。
「それにしても霜月さん、貴方の息子はなんて名前はなのですか?」
「神楽だ、霜月神楽。」
「ふんっ!農民にふさわしくない大層な名前だこと!!」
(主、この女殺してもよいか?)
(駄目に決まってるだろタコスケ!!!)
葉月さんが俺の名前を尋ね、父さんが答えると相変わらずいちゃもんをつけてくる弥生綺羅。さすがに霜神も痺れが切れたようで、脳内で殺意をみなぎらせていた。いや、本当に辞めて?
「もう良い、それに着いたぞバカども。」
父さんが葉月さんと弥生綺羅から視線を切って前を見つめる。その視線の先に在るのは、巨大な《門》だった。
「如月家本拠地【如煌殿】。相変わらずここは綺麗だな。」
門が開く。その先には溢れんばかりの季節外れの桜が舞い散り、吐きそうなほど濃密な魔力を放つ女性が待ち構えていた。
『ようこそ、我が宮殿へ。歓迎する。』
全身を紫色の陰陽師服に包み、妖しげなオーラを放つ女性が、歓迎の言葉を口にする。
彼女こそが、この日本で最も強く、権力を持つ異能力者である如月家当主【如月ライラ】である。そして、別名【日本最強】の称号を冠する異能力者の頂点だ。
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