第八話 『厨二病は圧倒する』
『「さぁ、行こうか!!!!!」』
二重に重なった声で、最終ラウンドの開始を告げる。それと同時に俺、いや、霜神楽雪(ファヌエル)と鹿紫羅喪も飛び出す。
『「元気ないねぇぇ!!!さっきまでの威勢はどうしたの!!!!!」』
『クソガキがァァァァ!!!!!!!』
鹿紫羅喪の連撃が、俺達が本来いた場所の空を虚しく切る。だがもうそこに俺達はおらず、鹿紫羅喪の腹部を肘で貫いていた。
『「どんどん行こうかぁぁぁ!!!!!」』
そこから始まるのは蹂躙、さっきまでの身体能力の違いにまったく対応ができない奴の全身を殴り、叩き、粉砕する簡単なお仕事だ。
(エグい身体能力の向上と純粋に俺と霜神の霊力が合さっているせいでとんでもない霊力量になってる!!)
俺は自分の体におきた変化を冷静に整理する。俺の身に起きた変化は主に3つ、さっきまで翻弄されていた鹿紫羅喪を圧倒するほどの身体能力と爆上げ。そして霊力の大幅アップ。最後に霜神の元素支配を扱えるようになったことだ。
『うがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!』
大咆哮。
鹿紫羅喪がハメコンボから抜け出すために行った行動は、致命傷覚悟での相打ち作戦。俺の反発し合う電子と電子を組み合わせた超伝導パンチをその腹で受け止めて、そのパンチで出来た僅かな隙に獄血鎧を纏った全身全霊のパンチを叩きこんでくる。
『「遅いッッッ!!!!!!!!!」』
だが、こちらが取る行動は余裕の回避。顔面に迫りくる決死の拳を超越した動体視力によって捉えて、首を少し傾けるだけで避ける。
代わりにプレゼントするのは、水素を濃縮した空気。霊力に引火性の性質を付与して飛ばすことで鹿紫羅喪中心に無差別大爆発を引き起こす。
『まだァ、、、まだだァ!!!!!【獄血地牢殿】!!!!!!』
『「最期の悪足掻きってかぁぁ!!!!!!」』
奴がその残り少ない霊力を全て使用して放った術、獄血地牢殿は鹿紫羅喪の全身から大量の茨と線が飛び出して、恐らくだが数百メートルの範囲を血の牢獄と化す異能だ。
『「なるほど、この血に触れると駄目なのか。」』
牢獄に囚われた俺達に降り注ぐのは、ゲリラ豪雨と見間違えるほど勢いよく降ってくる血の雨。それは俺の皮膚に触れた瞬間じゅっ!という音と共に皮膚を溶かす。
(この血は毒も混じっているな、内臓がやられる感覚がある。)
『「【霊盾】。」』
俺達は極めて冷静に、その有り余る大量の霊力を惜しみなく使って結界を発動する。それは俺達の周りを囲って血の雨の脅威から身を守る。
『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!』
絶叫。
もはや祈ることしか出来ない哀れな妖怪は、怒りと憎しみ、様々な悪感情をふんだんに込めて言葉を送る。
『「すまんけど!!!こっちは最高の気分なんだよ!!!!腹が減ってるガキに眼の前のご馳走を食うかってのが酷な話だろ!!!!」』
『辞めろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!』
俺と霜神の気持ちは一緒だ。覚醒の記念に眼の前の特級を食い散らかしたい。ただそれだけの感情で俺達は動く。
『「覚醒イベントのために使われる中ボス役どうもありがとうございましたァ!!!!!!」』
転生者特有の無駄な現代知識の言葉と同時に、俺達は地を蹴り破るほどの力で飛び、雨すら置き去りにして眼の前の涙で顔をグシャグシャにした男に拳を振るう。
『嫌だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!』
俺達の拳が鹿紫羅喪の顔面を粉砕する。それと同時に首の骨も逝ったようでその体から力が完全に抜けたようだ。
地面へ情けなく倒れ、上から降り注いでいた雨と血の牢獄が解除される。すると奴の体は黒い灰となり、すべてが消えると一つの白く光る玉を残して消え去った。
(なぁ、この光る玉なに?)
(これは宝霊玉だな。一級以上の妖怪を討伐すると遺す玉で、これを保有しているだけでその元となった妖怪の霊力を手にすることが出来る優れ物。オークションに出すと数億で売れる高級品さ。)
(そんな高いものなのこれ!!??)
俺は脳内で同化している霜神と、この落ちている鵬玉会に対して聞いてみる。すると驚きの言葉が帰ってきて吃驚する。
(それと主、暴食で喰らわなくて良いのか?折角の大物じゃぞ?)
(あぁ忘れてた。どうやれば使えるの?)
(普通に使いたい!って念じればできるぞ。)
(マジか!!??)
なんとも不安な説明だったが霜神が言うのなら間違いないだろうと信じて、俺はこの光る玉に向けて暴食を使いたい!っと念じてみる。
『「うおっ!?何だこの感覚!!」』
すると、宝玉から光の粒子が俺に放出される。それと同時に流れ込んでくるのは奴の全霊力と異能。そして途方もない快感だった。
(気をつけろよ主、この快感のせいで三代目は狂ったのだからな。)
(分かってるよ、それにそんなに気持ちよくないぞ。強いて言うなら1ヶ月放置していた耳クソを美人なお姉さんに耳かきしてもらってごっそり取れたみたいな感覚だ。)
(随分具体的な例えだな、、、)
『「まぁ、ひとまず任務完了だな。それに、随分遅かったね。【父さん】。」』
「説明を、お願いします、、、、、」
父さんは胃を痛めるような仕草をしながら、死んだ目で説明を求めるのだった。
―――――――――――――――――――――
『霜月、それは誠か?』
「はい、我が息子である霜月神楽が10年前の【百鬼夜行】の取り逃がしである鹿紫羅喪を討伐いたしました。」
重々しい雰囲気の中、明かりはろうそくによって灯される広大な【広間】。その中で行われるのはただそこに座っているだけで畏怖を感じざる終えない女性と、と霜月灯輝の会話である。
『1週間後に迫る月煌十二家の交流会にて、その息子を連れてこい。私が直々に見定めるとしよう。』
「承知いたしました。来たる交流会。必ずや連れてまいりましょう。」
『用が終わったのなら去れ、私は忙しいのだ。』
「承知、失礼いたしました。」
女性から発せられる強烈か殺気と、見るだけで竦んでしまうほどの霊力圧を真正面から受け、即座にその広間を後にする灯輝。女性はそれを視認した瞬間、ニヤリと笑みを浮かべて呟いた。
『齢10にして特級を討伐、、、曲がりなりにも月煌十二家の当主である灯輝を上回る霊力量に操作技術、、、おもしろい。次回の【交流会】は楽しものになりそうだ。』
そして、開かれる口。そこから飛び出るのは潜んでいた蛇の言葉であり、企みを告げるものだった。
『彼ならば、【英霊回遊】にも対応できうる。さぁ、運命はどう変わるかな?』
静かに閉じる大きな門。吹きすさぶ強烈な霊力は勢いを緩めてその後を濁さずに飛び立つのだった。
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