第七話 『厨二病は合体する』


霊盾を展開して走り出す。目標は全身を血の鎧で硬めた男であり、その余裕の笑みを剥がさんと殺意を漲らせる。


(集中しろ、霊力を研ぎ澄まして最低限の一撃で最大限の威力を出せ。)


『くだらん。』


「お前にとってはなぁ!!!!!!」


俺は空中で留まっている奴に向けて両手を翳して術を発動する。使ったのは最大出力の断撃の嵐だ。


発動から僅か2秒、空中に留まっている奴に放たれた斬撃の数は39であり、その一発一発が必殺の威力を秘めていた。


「硬えなクソ!!!!!!」


だが、その全てを真正面から受けた奴は無傷であり、その事実を視認した次の瞬間には奴の鎧を纏った拳が俺の腹を貫いていた。


(硬さも、速さも、重さも、すべてがさっきとは別物だ!!これが本来の奴の力!!)


「おもしれぇ、次は物量勝負といこうじゃねえか。霜神、サポート頼む。」


『了解、押し負けたら許さんぞ。』


「そん時は一緒に地獄にスカイダイブだな。」


俺は戦闘中にも関わらず笑みを浮かべ、さっき喰らったパンチのダメージの治癒を開始する。その間にも霜神と作戦を決定して両手を再び前にかざす。


『なんであろうと、我が叩き潰してやろう。』


「じゃあそれを俺が呑み込んでやるよ。」


『「ほざけぇぇ!!!!!!!」』


お互いがお互いを罵りあった瞬間、始まったのは血の茨によって形成される嵐と、豪速で大量に打ち放たれる霊力の槍の鍔迫り合いである。


そして、俺の攻撃をサポートするように霜神は術を発動して、霜神自身と俺の周りに最大硬度の結界を張りめぐらせる。


『どうしたぁ!!!!随分勢いが弱いじゃねぇか!!!!!』


「そっちこそ!!!!こんなガキ相手に手こずってるんじゃないの!!!!!」


互いに殺意を漲らせ、一心不乱に術を発動する。普通の異能力者や妖怪ならばこの時点で霊力が切れているが、生憎と俺の霊力量は異能力者の名家の当主である父さんの霊力量をとうに超えている。この状態をあと1時間続けても問題ない。


『ならば、追加するとしよう。【刻血千】。』


そんな言葉と共に現れたのは、血の線だ。それは一つの茨から数十本と枝分かれして超広範囲に殺人的な被害を齎す。


幸いにも、俺は霜神が展開する結界のお陰で無傷だが結界に罅が入り、長くは持ちそうにない。


そして、そのせいで辺りの木々は全てなぎ倒され、平原になっている。


(手数が圧倒的に増えた!!ならばこちらも!!!)


奴の手数が数百倍にも増えたことの脅威を実感した俺は、今も大量に放ち続けている霊力槍に加えて霊爆、霊鎖、断撃、そして霊力を濃縮して解放せずに放つ霊塊を発動する。


それにより手数はほぼ互角を持ち込み、時間稼ぎを出来るようになった。体感だと残り10分、ここからそれだけの時間凌がなければならない。



『主、一か八かの大博打、乗るかい?』


「なんか、策でもあんのか?この絶望的な状況を打破できる策が。」


『成功したらできるさ。成功したらな。』


「なら教えてくれ。どうせあと10分も結界が持たないしそれに俺の命を賭けよう。」


俺と霜神は、自分たちのこのアホみたいな状況を鑑みて、大博打に出ることにした。俺は霜神にそれを耳打ちしてもらい詳細を聞いたが、確かにそれは博打と言って良いものだった。


「ハハハ!!!!良いぜやろうじゃねえかぁ!!!式神術の極地!!体現してみせよう!!!!」


『それでこそ主だな!!!20秒!!それだけ主が稼いでくれれば【アレ】の準備が出来る!』


「了解!!!そうじゃ早速遊ぼうぜ!!!!」



俺は大笑いしながら、今から行う所業に夢を馳せる。だがその直後に霜神から絶望的な条件が堕されるがそれすらも笑い飛ばして突っ込む。


(結界がない状態で、今の奴との接近戦ははっきり言って無謀に等しい行為だからな!!そりゃ愚行だろ!!!)


「俺は元からバチバチに殴り合うのは好きなんだよ、ほら、さっさとかかってこい。」


『グチャグチャの肉塊になっても知らんぞ小僧!!!!!!!!』


俺がニヤリとした嫌な笑みを浮かべて、手をヒョイッとして挑発する。それに対して鹿紫羅喪は少し半ギレの状態でその暴力的な拳を振りかぶった。


『【獄血覇】!!!!』


「おいしょぉ!!!!!!!」


奴のまるで消えたかのような速度での突進、それはもう3回ほど喰らったため対処可能。そしてそこから繰り出される異能を使ったパンチは初見だが、霊力の圧的にパンチを強化する類いだと踏んで受け流すことを選ぶ。


俺は極度の集中状態に居るからか、その馬鹿みたいなスピードのパンチを左掌で紙一重で受け流す。だが、その受け流しでさえ左掌が抉れる。


『どんどん行くぞぉォォォォォ!!!!!』


そこから始まったのは、暴力的なまでに速い拳や脚による連撃、その全てに必殺の威力が秘められており、一撃でもまともに食らったらもう近接戦は不可能になるだろう。


だが、俺はその全てを受け流し、避け、時にカウンターの一撃でさえ入れていく。それを繰り返すこと10秒。鹿紫羅喪は脳内で少し焦りを感じていた。


(なんだこいつは!!??さっきまで俺のスピードに反応するどころか観ることすら出来てなかったのに、今は完全に対応してきやがる!)


俺の長所は霊力の扱いに長けているのとでもなく、霊力の総量が高いということでもなかった。俺ですら知り得ていなかった俺の長所、それは圧倒的な成長速度であり、一回見た技を二度目は絶対に喰らわないという対応能力にある。


「見えたぜ?」


俺は奴の右脚による一撃を、髪の毛を削られるほどのギリギリで避け、そんな言葉をつぶやく。その理由とは、俺の眼の前に広がる足を振り上げて隙だらけの奴の胴体である。


『ぐはっ!!!???』


俺は右拳が自壊するほどの霊力を込めて振り切る。その拳は奴の腹部へと突き刺さる。そして、それは始めて奴にまともなダメージを与えることに成功する。


そしてさらにもう一発拳を繰り出そうとするも、それは奴のカウンターの左拳によって防がれ、俺もまた大量の吐血をする。


「『オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!』」


男同士の派手な殴り合いが幕を開けた。それはお互いに防御という選択肢を捨てた捨て身の特攻であり、1秒1秒が経過するたびにお互いを彩る怪我は増えていく。そして、7秒が経過するとその攻防に進展が訪れる。


『底が見えてきたなァ!!!小僧!!!!』


「黙っとけオッサン!!!!!!!!」


悔しいが奴の言葉通り、先に限界が来たのは俺だった。違いはその純粋な生命力の差。何百年と生きた大妖怪である鹿紫羅喪とたかが生まれて10年の俺では基本的な生命力に違いがありすぎたのだ。


(クッソ!!!!!ここまで来て俺は死ぬのか!!!???)


自分の限界が来ていることに腹が立ち、心の中で悪態をついても現状は変わらない。奴の拳が俺の体を貫くたびに血は流れ落ち、命は零れていく。もうすぐそこに、死神が来ていることを俺は悟ってしまった。


『終わりだなァ!!!!愉しかったぞ!!!』


「クソッタレがァァ!!!!!!!」


奴が意気揚々とその右拳を振り抜き、俺の顔面へとその拳を振り落とす。それにたいして俺ははもうやけくそで額を振り抜き、顔ではなくせめて頭蓋骨で受けようとする。


「いってぇ、、、くない???!!!!!!!」


『馬鹿なッッッ!!!!????』


俺は死ぬ覚悟で額を差し出したが、それは無意味に終わった。


眼の前に展開されるのは霜神の結界。だがそれはすぐに崩壊してパリパリと散る。だが、代わりに俺の目の前に立っていたのは赤白いオーラ

を立ち昇らせた霜神だった。


『間に合ったぞ、主。』


「まったく、遅いんだよ本当に。」


『貴様、、、まさか、、、』


式神術の極地、それは式神との【融合】である。そして、霜神はその詠唱を終えて、主による許可待ちという状態だ。


「初合体、頼むぜ霜神。」


『そっちこそ、上手く合わせてくれよ?』


『させんぞガキ共ォォォォォ!!!!!』


俺と霜神はお互いを見合って術の発動を確認する。だがそれを阻止しようと鹿紫羅喪は飛び込んでくるが、それは一寸ばかり遅かった。


式神極操術最奥!【心核同魂】!!』


『うぐっっ!!!???』


巻き起こる突風。あたり一面に満ちる強大すぎる霊力。それは鹿紫羅喪の意識すら刈り取りそうになるほどの圧を秘めていた。


『「【霜神楽雪(ファヌエル)】。発進!!」』


俺と霜神の声が二重に重なりつつも、そのオーラと共に放たれる。それは、生還への希望が詰まった声だった。





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