第五話 『厨二病は食いしん坊な異能を継承する』


「ようやくやって来たな、この時が。」


『そうじゃのう主、主の待ちに待っていたアレがきたのう。』


「なんだその空気感、、、霜神様も神楽の悪ノリに乗らないでくださいよ、、、」


俺はまだ幼いが、遂に10歳になろうとしていた。今は9月2日23時58分。あと2分で俺の誕生日である9月3日になるので、あと2分後には俺の魂に異能が刻まれるのだ。


まぁそんな状況なのだが、俺と霜神はいつも通りな雰囲気で話を進めていた。だがずっと霜神を信仰していた我が父にとってそれは恐れ多いことらしく、未だに俺に引いている。


「ちなみにだけど父さん、俺に刻まれる術式はどんなのだと思う?」


「そうだなぁ、神楽は霊力の操作が上手だから扱いが難しい異能だと思うぞ。」


『儂的には、儂と同じ元素支配の異能だと嬉しいんじゃがのう。』


「まぁ、それもあと1分後にわかることでしょう?」


俺がずっと気になっていた自分の異能を尋ねてみると、父さんと霜神が返してくれた。どうやら父さんから見ても俺は霊力の扱いに長けているらしい。


(この7年、何回も死にかけて特訓してきたからなぁ、、、)


思い出すのは7年間の地獄の特訓の日々、午前中は学校には行かずいえで座学を行い、午後から夜寝る前までずっと霜神との実践訓練(殺し合い)を行っていた日々。


幸いにも俺には座学や才能は無いわけではなく、この子供のスポンジのように吸収する脳みそと前世は大学を卒業していた頭をフルに活かしていっぱんてきな中学校の勉強までは終わらせている。


まぁ本当にキツイのは午後の方だ。毎日平均20回ちょっと死にかけて、未だに霜神に勝てたことがない。だが、順調に霊力の総量は増え、遂に霜神の総量を越してしまった。


(おそらくだけど、俺は異能力の才能はめっちゃある。それも、天災って呼ばれるぐらいには。)


だが、それでは足りないのだ。俺が欲しいのは世界最強の玉座であり、天才という小さな椅子に座る気はないし座らせられる気もないのだ。


「目を瞑れ、神楽。」


「はい」


徒刑を確認して、残り5秒になったのを視認した父さんが俺に目を瞑るよう指示してくる。俺はそれに素直に従って、珍しく真面目に祈りの体制へと入る。


(神様仏様、霜神じゃない神様お願いします。俺にカッコいい異能を授けてください!!)


俺は真面目な祈りの体制に反して、死ぬほど不純な事を考えながら24時を迎える。すると、俺の体を青白い神々しい光が包む。


『さぁ、、、どうなる?』


霜神はその光に包まれる俺を見て、ニヤついた顔で疑問を零す。その状態で10秒ほどが経過すると俺は自分の根幹に、《何か》が剞まれた感覚がした。


「成功だ、、、よく、10の年になるまで耐え抜いだな。神楽。」


唐さんは何故か涙を流していた。ちょっと理由がわからなくて困惑してしまうがそこで霜神が耳打ちしてくれた。


『霜月家は遥か昔から《怨具毘沙(おぐびしゃ)》と呼ばれる一族に呪われていてな。それで子供は基本的に1歳になる前に死んでしまうのだ。実際に灯輝も2人の子供を失っているから10まで耐え抜いたらそりゃ感動もするさ。』


「な、なるほど。」


俺にとっては体ダルいなーぐらいの呪いだったのだが、本来ならばそんなにヤベェ呪いだったのか。本当に俺に前世の記憶があって良かったわ。



『で、主よ。肝心の異能を教えてくれ。』


「もちろんだとも、我が異能を特と聞くが良いぞ!!」


霜神のニヤついた疑問にたいして俺は、渾身のドヤ顔で答えて見せる。実際俺とこの異能はかなり当たりなんじゃないかと思っているから当然だな。


「【暴食】。殺した相手の魂を食らってその相手の霊力、異能、記憶を取り込んで使えるようにする異能。それが俺の異能だ。」


『、、、マジで?』


俺は自信満々に自分の異能を告げる。それを聞いた霜神はそれを疑うのではなく、若干引いた様子で問いかけてくる。


『それは相伝の異能の中でも、特に強力で、霜月家3代目当主が持っていた異能。そして、その危険性も儂は知っているのだ。』


「え?なんかヤバイ異能なのこれ?」


霜神は真剣な面持ちをして、俺に少し冷や汗を垂らさせる。


『霜月家三代目当主の名前は霜月凍弥、歴史上で最も最悪な犯罪者である男の名前だ。』


「、、、」


『凍弥も暴食の異能を引き継いでいた。だが暴食との親和性が高すぎたが故に、魂を取り込む際に生じる快感が高すぎて、いわゆる中毒のような症状に陥り、魂を取り込むために人を殺すようになったのだ。』


「被害数は?」


『1324000人、凍弥が34年間で殺した人間の数だ。だが凍弥は62歳のときに日本最強の異能力者、【廻華法曹】と対峙して死んだ。それほどまでに受け継いだ人間を狂わせる異能なのだ。』


霜神は俺の目を見て、冷や汗を垂らしながら説明を終える。だが俺はそれを切り捨てるようにニヤリとした笑みを浮かべて言い放つ。


「俺が自分の異能なんかに振り回されるわけないだろう?何のためにここまで強くなったと思ってる?」


『そう、だったな。主はそういう奴だった。』


「だろ?だから前の使い手なんて関係ない。俺は俺の道を進むって決めてるからな。」


『そんなにカッコつけるでないぞ、主。』


「そういうことは言わないのぉ!!!!」


俺は思わず厨二病が出ると、そこを完全に見透かしていた霜神に鋭いツッコミを受ける。いや、あの、本当にもう癖なんです。


「まぁ術式もハッキリしたことだし、これからさらに訓練にも力を入れようか。」


「そんな神楽に朗報だ。」


俺が自信満々につげると、父さんから朗報と言われて思わず振り返ってしまう。その顔は相変わらず無愛想なオジサンだが、少し喜んでいるかのような目だ。


「術式を得たことで正式な異能力者と国から認められ、この9月3日から霜月神楽は【4級異能力者】となった。それに伴い、神楽一人での妖怪討伐任務に赴くことを許可する。とのことが世界異能力者協会から伝達された。」


「つまり?」


「お前には、明日から妖怪討伐の実践任務が与えられる。ビシバシ行くからな、覚悟しておけよ。」


「いよっしやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


『相変わらず戦いのことになると騒がしいのう、、、』


父さんから告げられた真実に、俺は思わずガッツポーズしながら叫んでしまう。だが今だけは許してくれ。どれだけ強くなっても強さの指標が霜神だけの日々に飽きていた今の時期にこの通達、嬉しくないわけがないだろう。


(それに妖怪ぶっ殺して魂手に入れれば更に手っ取り早く強くなれるし一石二鳥だな!!)


「あぁ、、、明日から楽しみになってきた!!」


『儂もじゃ。あぁ待ち切れん。主よ今から戦おうぞ!!』


「もちろん!!父さん良いよね!!」


「だめに決まってるだろ馬鹿息子、さっさと布団に入って眠りやがれ。」


「「ぬぉ、、、、、」」


明日からの日々に心躍らせていた俺と霜神が、模擬戦の約束をすると横から容赦無いストップがかかる。だがもう日が回ってるため仕方ないだろう。楽しみは明日からに取っておくとしようじゃないか。


「あぁ、、、楽しみだ、、、」


俺は体を震わせながら家の中へと戻り、冷蔵庫のヨーグルトを飲んで明日に備えるのだった。

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