第四話 『厨二病は胃に優しくないことをする』
「いや、、、ごめんなさい、かな?」
「申し訳ありませんだ馬鹿息子、俺と祈がこれだけ心配していたというのに、返ってきたら霜在幻塔全知神様を連れてきてるってどういうことなんだまったく、、、」
「はい、申し訳ありません、、、」
現世に帰ると、待っていたのは全身を冷や汗で一杯にした父さんによるガチ説教だった。まぁなんの説明もしないでいきなり戦いに行ったし、返ってきたら自分たちが信仰する神様が出てくるとは思わんだろうからな。
「でも、本当に無事で良かったわ。それで、神恋はどうにかなるのかしら?」
母さんがオレ無事を喜ぶと、すぐさま結果を確認する。そこには、まだ大量の不安が隠れていた。
『そこに関しては、儂が説明しよう。』
霜在幻塔全知神、今は俺の式神となった霜神はその巨体を何故か契約後に人間の体へと変怪させて現世に来ていた。しかも、その姿は和風な服を着ているメッチャカッコいいお姉さんだったのだから驚きだ。
「霜在幻塔全知神様、説明願えますか?」
『もちろんだ灯輝、儂はお主にとんでもない無礼をするところだったからな。あと、今は霜神とよんでくれ。』
「わかりました。説明を頼みます。」
父さんが口を開いた霜神に頭を下げながら、説明を要求する。その少しピリついたオーラは返答次第では敵対するという意志が込められていた。
『儂はお主の長兄、霜月神楽の式神になった。ただそれだけのことよ。』
「、、、霜神様、ボケました?」
『いきなりかなり無礼だな!?ボケてないし事実だよ!!!』
霜神の口から告げられた衝撃の事実に、思わず敬意を忘れて本気でボケを疑う父さんの疑問は、霜神の容赦無い言葉によって粉砕された。
「はぁ、、、もう胃が痛い、、、上層部になんと報告すればよいのやら、、、」
『はっはっはっ!!!!それでは儂と神楽は失礼するぞ!!なにせ死にかけなものでな!!』
父さんが異能力者社会の上層部、主に国への報告で胃を痛めているが、霜神はそれを完全無視して俺と自分の体の傷を誇張して歩き出す。
「とうさん、本当にごめんなさい。」
「よい、もういっそのこと神楽が霜神様とどこまで行くか俺が観測したいぐらいだ。」
「あ、あははは、、、、」
父さんのもうどうにでもなれみたいな雰囲気に、俺は思わず引き笑いをしてしまう。いや本当に、すんません。
(でも、これで神恋は助かるし霜神との契約でおれはさらに強くなれるし一石二鳥だな。)
俺は一件落着した安心感で、顔を綻ばせながら家の中へと帰還するのだった。
―――――――――――――――――――――
「なぁ霜神、そういえば俺に刻まれる術式ってお前の元素を使う異能なの?」
『ん?なんだ?もしや灯輝そんなことも説明してなかったのか。お主に刻まれる異能は儂の異能ではないぞ。』
「うぇ!!??」
霜神を式神にした翌日、家族での食事会を終えて訓練に勤しんでいた俺はふと疑問を覚えて霜神に尋ねる。すると、驚きの返答が返ってきた。
『霜月家相伝の異能にはいくつか種類があってね、長い歴史の中で枝分かれして4つほど相伝の術式があるんだ。』
「で、俺にはそれがいつ刻まれるんだ?」
『誕生から10の年月が経った日、いわゆる10歳の誕生日だな。』
「まだ結構あるな、、、それまでに霊力の総量と使い道は模索しておかなければ、、、」
『今のままでも並の異能力者程度ならば蹴散らせると思うがの。霊構築を2つ同時など異能力者の中でも有数の実力者しか出来ん芸当だからな。』
霜神にいつそれが刻まれるのかを聞くと、なんとこれから7年もお預けされるらしい。正直待ち切れないしもどかしいが、逆に考えれば修行期間が伸びたと考えればお得なのかもしれない。
「まぁいいや、霜神。契約して力を取り戻したお前と戦いたい。付き合ってくれるか?」
『もちろんだとも、弱体化してなければ容易く蹴散らしてくれようぞ。』
「それ仮にも主に向かって言うセリフじゃねえだろ、、、」
俺の嘆息混じりの言葉と共に、弱体化の縛りが解除された霜神は意気揚々と空に浮く。それは龍だったころの名残であり、毒や爆発、化学反応を使う遠距離戦闘を好む霜神にとって最も安全な場所が空だったからだ。
『さて、まずはお手並み拝見!』
「ブチ転がしてやんよぉ!!!!!」
霜神はその右手を地上にいる俺にかざして、いつぞやに見た小爆発の嵐を巻き起こす。俺はそれに対して霊盾を展開して防御を図りつつ、霊力の槍も飛ばす。
「はっ!!!????」
『この前と威力が同じだと思わんことだな!』
だが、違う点はその基本的な火力だった。この前ならば霊盾で容易く防ぐことのできていた小爆発がたった一発で霊盾を破壊して俺の体に大火傷をつける。
俺は即座に後ろへと飛んで回避を試みるも、回避した先に待っていたのは地雷であり、着地した瞬間俺の真下で大爆発が起きる。
(これが元素の支配者!!圧倒的な火力と物量とその何百年もの戦闘ノウハウを生かしたコンボ!!!)
「昨日とは、比べ物になんねぇなぁ、、、、」
『当たり前だろう、それに、この程度で止まるお主では無かろう?』
「もちろん!!!!!!」
俺の全身には夥しい火傷と流血が残されたが、それでもこの煮えたぎるような戦意は衰えること無く俺の躰を突き動かす。
火傷で皮ふが完全にやぶけた俺の両手を前に翳して、全力で霊力を放出する。そして今から放つのは今思い付いた新技だ。
「《霊鎖》!!!!!」
『うぐっ!!??鎖か!!』
今発動したのは霊鎖という技である。これはとてもシンプルで霊力で鎖を作って相手の四肢と首を拘束するというもの。だが、ある仕掛けを施しているのだ。
『ぬぅぅぅ、、、霊力が練れんだと!?』
「大正解、霊力に反発する性質を付与したからな。霊力を使えば使うほどその鎖は強固になるぜ!!!断撃!!!!」
俺は意気揚々と霜神に鎖の種を明かして断撃を放つ。それにより霜神の人形の肉体を斬撃が削り始める。そして、霊鎖の効果である霊力の反発で霊力による身体強化が出来ないため、己の身体能力で霊力の鎖を破るしか出る方法はない。霊盾、霊鎖、断撃の3つ同時展開は中々脳みそへの負担が激しいがハイになってきたから関係ねぇ!!
(人間の体なら小さいからな!!断撃を撃ち続けて10秒もすればすぐに肉塊になるだろう!それまで耐える!!)
俺はニヤニヤしながら断撃を撃つ霊力の出力を高める。それには俺の喜色が溢れており、それを霜神に感知される。
『随分楽しそうだが、一つ教えてやろう。』
霜神の渾身のドヤ顔を目にした瞬間、俺は嫌な予感がして全力で地面を蹴ってその場を離れる。だがその行動は果てしなく遅かった。
『私は元は蜥蜴の妖怪だったが、今は高位の龍だ。その身体能力は今も健在であり、こんなちっぽけな鎖程度少し力を入れるだけで破壊できるのだよ。』
「痛ってねえなクソッタレ、弱体化前とパワーが変わり過ぎなんだよ。」
霜神はその鎖を強引に引きちぎってそれをこちらへ投げつけてきた。俺はそれをとっさに避けたと思ったのだが、避けきれずに右腕が吹き飛ぶ。
「勝負アリだ、傷を治してもう一回戦といこうじゃねえかよクソッタレ。」
『それだけ傷を負っても衰えない殺意と戦意、やはり儂の主は戦闘狂じゃのう。』
「せめて厨二病って言ってくれよ。」
『ハッハッハッ!!!!!愉快愉快!!!』
霜神と先程まで死闘を繰り広げていたとは思えない会話をしながら、霊力による自己治癒を始める。正直、こんな生活を続けていたら戦闘技能と同時に治癒能力も鍛えられるからお得だなと思い始めてきている自分がいるのが怖い。
(まぁ、前線で戦えるヒーラーってメッチャ強そうだしいっか。治癒力は生死に関わるからな。)
俺は自分の今後の将来を考えながら、次の訓練(殺し合い)に備えるのだった。
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