第三話 『厨二病に恐怖という感情は少ししか無い』


「ここが、、、」


俺は極光から解放されて意識を覚醒させる。そして、次の瞬間に俺の視界に広がったのは一面雪景色の平原だった。


ありえないぐらいの寒さの中、雪は大量に降り注いでこちらへと容赦なく牙を剥く。そして、目の前にいる《巨龍》はそれ以上の威圧感を放っていた。


『貴様、、、どうやってここに入った?完全にパスは遮断していたはずだが。』


「俺が知ってると思ってんのかクソ巨龍?その無駄にデカい脳みそ使って少しは考えろよ。」


『あ?なんだ貴様?そんなに死にたいのか?』


「その沸点の低さから見て、さぞ怒りっぽいんだろうな。そんなテメェにうちの大事な妹を渡せるわけねぇだろ?」


(ヒィィィ!!???怖い怖い怖い!!!!なんだこのバカでかいドラゴン!?普通にビルぐらいあるんだけど!?)


俺は内心ビビりまくりながらも、霜在幻塔全知神という名を冠する巨龍に言葉の刃を突きつける。すると奴はその沸点の低さを露呈させて見事に半ギレだ。


「俺の目的はただ一つだ、神恋の肉体を返せ。」


『嫌だと言ったら?』


「実力行使に移る。」


『、、、ふふふ、ふふふ!!!ハハハハ!!!よもやお主は阿呆の類か!!生まれて数年の餓鬼に儂がやられるとでも!!!!!』


「そういう慢心の固まりみたいな奴のほうが阿呆だと思うけどな。」


俺のちっぽけな言葉と、ほんの少しの殺意を受けて大笑いする巨龍。どうやら、俺が子供だから完全に下に見ているっぽいな。


(こんなに油断してくれるとは思わなかったよ。本当にこいつが馬鹿で助かった。)


俺は心の中で精一杯の悪態をついてギラついた目と霊力で囲われた右手を奴に翳す。そして、次の瞬間放たれるのは《弾丸》の雨だった。


『なっっ!!??その歳で《霊構築》をマスターしているだと!?そんな馬鹿な!?』


「馬鹿はテメェだよ、俺は知ってるんだ。霜月家に代々伝わる書物でお前が霊力不足で弱体化してるってな。」


そう、少し前に見付けた厳重に管理されてる箱を興味本位で壊して見た時に、守り神が弱体化しているという記述が書いてある本を見てしまったのだ。


俺はその事実を知っているからこそこんな化け物に勝負を挑んだのだ。だがさすがに神というだけあって霊力の槍を40本近く撃ち込んだだけでは死なないし反撃もしてくる。


『弱体化が何だというのだ!!たかが生まれてから3年のガキに負けるわけにはいかんのだ!!』


「生まれて何百年とダラダラ生きてた爺に言われたくねぇよ!!!!」


俺が次々と槍を生成して弾幕を展開する。だが巨龍も黙ってやられるわけはなく、独自の攻撃をしてくる。


俺の槍の弾幕に対して展開されたのは、大量の《小爆発(コスモ)》。大気を揺らし、雪景色の、平原を破壊する爆発の連鎖が俺に襲いかかる。


(だがよぉ、テメェの手札は知ってんだよ!)


「元素を自在に操る異能!《栄煌元素(テスリエルエレメンタル)》!!それが霜月に伝わる異能でありお前の異能だ!!」


『知っているから何が出来る!!!!』


俺は意気揚々と奴の異能を当てて見せる。だが巨龍はそれを意にも介さずこちらに恐らくだが水素を利用した爆発の嵐を差し向ける。


「《霊盾》。俺が修めた霊力技術の中では初歩の技だが、故に完成度が高いんだ。だから弱りすぎたお前の技なんて余裕で止められる。」


『ぐぅぅ、、、、、』


俺の周りを囲うのは、半円状の霊力の結界である。ただ単純に霊力で周りを囲むだけの防御技だがシンプル故に完成度が高く、10秒ほど続いた爆発の嵐を防ぎきる。


「お返しだ、遠慮せずに受け取れ。」


『いらんわ!!!!!!』


俺は爆発の嵐を防ぎ切ったの同時に、霊力の槍に加えてある一つの霊力技術を発動する。それは、俺が開発に1年も掛けただけあってとてつもない威力を持ってい技だ。


「喰らえやァ!!!!!」


『そっちがなぁ!!!!!!』


俺が霊盾を解除して両手を勢いよく巨龍に向けて翳す。それと同時に奴もこちらに向けて異能を発動して何やら色が紫色で明らか毒がありそうなブレスを、大きな顎を開いて放ってきた。


(霊力の性質を《不可視》と《鋭利》に変化させることでまったく視認できない斬撃を発生させる技!その名を《断撃》と名付けよう!)


俺は断撃と名付けたジュッを発動して巨龍の馬鹿みたいなサイズの肉体に絶え間なくザンゲキヲ浴びせて、決して浅くない切り傷をあたえる。


だが、俺がその術を発動している間にも、奴の猛毒で構成されているブレスは俺の肉体を苛み続けている。3秒程度浴びただけで俺は苦痛を感じ、大量の吐血をしたことから相当強力な猛毒だ。


(このまま行けば俺が先に死ぬ!3歳の軟弱な体ではこの毒に耐えきれない!!!)


俺は自身の肉体に迫る限界を感じて静かに焦る。今も俺の肉体で暴れ狂う猛毒は、もう死神に進化しそうな勢いだ。


だが、俺にそこで天啓が舞い降りる。それは本来ならば実現不可能であり、シラフの俺ならば無理だと思って実行にすら移さない愚行であったが、死の間際という環境で俺はその一か八かを行った。


(霊盾と断撃の同時展開!!!斬撃をやつに浴びせながら俺は霊盾で奴のブレスを防ぐ!!)


イメージは二人プレイ専用のゲームを、一人で2つのゲーム機器を使ってプレイしていた黒歴史だ。アレは脳をフル稼働しなければ出来なかったしな。


―――――結果、成功。


俺が行った脳みそが2つ無ければ出来ないであろう賭けは成功して、やつに浴びせる斬撃の威力を保ったまま、俺を護る霊盾を展開することに成功する。


『馬鹿なっ!!??そんなの人間が出来るわけがっ!!!???』


「できてる人間が目の前にいんだろぉぉ!!」


奴は驚愕しながらも冷静に、意味がないと分かったブレスをやめて、霊盾を壊すために大量の爆発を発生させる。


対する俺は維持。絶対にこのシールドは破らせまいと霊力をふんだんに使って防御を続けながらも奴への斬撃をさらに強力にする。


「うォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」


『うがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!』


交差する爆発と斬撃、それは互いの霊力と命を削り合って霧散していく。だが、それは血を伴うものだった。


15秒、それがこの攻防が続いた時間であり、お互いの勝敗がついた時間でもあった。


「はぁ、、、はぁ、、、しぶとすぎんだよ、、、」


『それが、、、取り柄なのでな、、、』


お互いに息を切らし、大量の血液を流してにらみ合う。だが、違うのはその立ち位置であった。


俺は確かにボロボロで、霊力も完全に0になったが、その両足で確かに地面に立っていた。


だが、奴はその巨体を地面へ完全に放棄しており、全身から力が抜けている様子で、見るからに死にかけだった。


『ふっ、、、儂の負けだ、、、殺せ、、、』


奴は満足気な顔で目を瞑り、俺にその生死の権利を強引に押し付けてくる。だが、俺はそこで違和感を感じた。


(ここでこいつを殺すのが正解だ、、、でも、何か違うんだよな、、、ただ正しいことだけをやるのは性に合わねぇんだよな、、、)


俺は今一度自分の本当にやりたいことを確認する。そして、そこで出てきたのは機から見れば狂気とすら思える発想だった。


「霜在幻塔全知神、負けたお前の生死は俺に預けられたということでいいな?」


『もちろんだ、煮るなり焼くなり好きにしろ。』


少し不満気な様子で質問に答える奴に、俺は顔をニヤつかせて、奴にとって絶対に想定外の返答を返してみせた。


「なら俺の式神として現世で俺のために戦え。お前が弱体化しているのは契約先がいないからだろう?」


『なっっ!!???正気か貴様っ!!!??』


霜在幻塔全知神は元は小さな蜥蜴の妖怪であり、数百年前に霜月家を作り上げた俺の祖先と契約したことで今の龍の姿になっている。


だが、奴はその契約した祖先が死んだときからずっと力を失っており、新たな契約先を探さなければもう死んでしまう状態のため、俺と式神の契約をするのは悪くない条件と言える。


(偉い神を配下にする、、、なんかカッコいいな俺!!!!!)


まぁ色々言っても本心はそれなのだ。腐っても重度の厨二病を患っている身、神を配下にするなんて事実が俺にとって甘美じゃないわけがない。


『神と契約などお主の肉体が持つわけが、、、』


「大丈夫に決まってるだろう?お前は気づいてないのか?」


『何がだ?』


俺は自信満々に、最大限のドヤ顔をしながら答えて見せる。


「俺はお前に勝ったんだ。いくら弱体化していてもその事実を対価にすれば式神契約の代償など打ち消せるに決まってる。」


本来、神と契約するとその神の総霊力分の霊力を対価として要求させるため普通の人間や異能力者なら命迄搾り取られて死んでしまうのだが、契約の時に奴に勝ったという事実を使えば対価なしで契約できるというわけだ。


『だがっ、、、』


「だがもだっても言わせねぇよ。お前は今日から俺の式神で、温厚で善良な神、霜在幻塔全知神を略して《霜神(しもか)》だ。よろしくな。」


『なっ!?強引にも程が、、、』


俺は奴の意思を無視して強引に契約を行う。すると俺と奴の体を赤色の光が包み込む。だがそれには理由があるのだ。


「お前が神恋の体を乗っ取ろうとしているのに母さんと父さんは、お前を憎んじゃいなかった。そのときに父さんは呟いてたよ。」



―――――両方助かる未来はないのか、、、


『なっ!!???そんな訳が!?儂は灯輝と祈の実の子供を奪おうとしたのだぞ!?』


「それは契約先に使おうとしたからだろう?本来のお前を知っている父さんはお前の観を本気で案じていた。」


『そんな馬鹿な、、、』


俺は淡々と事実だけを伸べる。そして、俺が奴を式神にした本来の理由を明かす。


「俺はいつか世界最強になるんだ。その姿を1番の特等席で見させてやる。だから、俺と一緒に来い。霜神。」


『、、、』


俺は霜神に手を差し伸べてそんな言葉を告げる。それを見た霜神は何か悩むかのような仕草を見せて10秒ほど思考したあとに、その口を開く。


『お主に、いや、神楽についていこう。儂も、お前がどこまでいけるか見てみたくなった。』


「そうか、なら契約成立だな。現世に帰るぞ。」


『あぁ。』


霜神はどこか吹っ切れた様子で決断の言葉を告げる。俺は心の中でガッツポーズをしながら変事を返して現世に帰ることを告げる。


(これで世界最強に近づいた、、、!!!!)


俺は内心滅茶苦茶喜びながら、吉報を両親に伝えるべく現世へと極光に包まれながら帰還するのだった。






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