第二話 『厨二病の理想はエベレストより高い』
「かあさま、にわいっていい?」
「あら神楽、遊びたいの?」
「うん!!」
「なら行っておいで、暗くなったら中に戻るのよ?」
「は〜い!」
俺が転生してからもう3年が経っていた。赤子の成長速度は驚くべきことにもう言語を喋れるようになり、俺の霊力への探究心と知識欲をスポンジのように吸収してくれた。
俺は母さんの挙家を取った後、すぐさま結構広い訓練場換わりの庭へと赴き、毎日行っている霊力のトレーニングを行う。
(霊力は筋肉と同じような感じで、浸かって使って壊して尚して鍛え上げる物。故に霊力を全力で放出して、体内の霊力を全部無くすことでまたインフルにかかったようなしんどい怠さを味わってぶっ倒れる。それを繰り返して霊力を強くする。)
下手したら死んでしまうぐらいキツイトレーニングだが、これを2年間毎日やっていたお陰で俺の霊力量は可視化できる範囲だと母さんを超えてしまった。
(いやいやまだまだでしょ。折角こんな夢みたいな世界に転生できたんだからもっと強くならないと。)
――――――欲を言うなら、最強に。
それが、今の俺の行動理念であり、どうせならめっちゃ強くなって世界を護る最強のヒーロームーブもしてみたい。それがこの馬鹿みたいな特訓をしている理由だ。
「そろそろ、れいりょくのおうようもはじめようかな。」
俺は2年間も霊力を放っていたお陰で、体内外問わずに霊力を動かせるようになってきた。だから霊力を形作ってなんか武器にも出来るかなと思っているのだ。
「まずは、、、やりかな。」
俺は結構広い芝生が広がる庭で、右手を翳す。そして霊力を徐々に放出していく。
(放出したそばから形成していけ、、、イメージは霊力で形作る投擲槍。)
俺は慎重に霊力を放出する。それは体外に出た霊力の制御を手放さないようにするためである。
「出来た!!」
俺の目の前にあるのは、大体1メートルぐらいのサイズの紫色の槍。それは霊力で形作ったものだからか非常に禍々しい雰囲気だ。
「いっけえええ!!!!!!」
俺は右手を頭の上へと持ち上げて勢いよく振り下ろす。それと同時に霊力の槍は訓練場代わりになっているせいで置いてある鋼鉄のカカシに飛んでいく。
着弾。そして貫通。鋼鉄のカカシに衝突した霊力の槍は勢いよくカカシを貫通して奥の地面に着弾して霧散する。
「すっごいいりょく、、、これはつかえる、、、」
俺は満面の笑みを浮かべて、そのゴミくずと成り果てた鋼鉄のカカシを見詰める。その瞬間俺の脳内に溢れ出るのは様々な技のインスピレーションだ。
「このせかいには、ようかいとやらもいるらしいしためしうちがしたいなぁ。」
大人たちの会話を盗み聞きしていた俺は、この世に異能力の他にも妖怪という化け物がいることを知っていた。それによると妖怪は人食いの化け物らしく、まぁ強いのだという。
「もっとけんしょうしなきゃ、、、」
俺の厨二病の血と検証厨の血が混ざり合った血が騒ぎ立てる。その瞬間から俺の霊力は意気揚々と漲りだしてきた。
―――――――――――――――――――――
「神楽、お前に重大な報告がある。」
「なんですか、とうさま?」
家族での夕食の途中で、父が珍しく厳格さを取り戻したように俺にしゃべりかける。父さんの重大はあんま重大じゃないことが多いからちょっと信用ならんけど。
「お前に妹が出来ることになった。」
「へぇ、そうなんだ、ってうぇぇ!!??」
俺はいつものようにあしらおうとした瞬間、電撃が走ったように体が硬直する。それは告げられた事実があまりにも重大すぎたからだ。
(いやまぁ確かに、父さんと母さん毎晩のようにヤルことヤッてるからな。俺が生まれてから2年も経てばイモウトや弟が出来るか。)
俺は驚きすぎたことに少し恥ずかしさを感じつつ、自分を納得させる理由を脳内でループさせる。
「そっか、、、妹か、、、」
前世では一人っ子で、兄弟などいたこともなかったしほしいと思ったことも無かったが、いざ出来るとなるとなんだかワクワクしてきたな。
「そういうことだから神楽、今後生まれてくる妹にも優しいお兄ちゃんだと思われるように努力してね?」
「はい、かあさま!」
楽しい楽しい食事の時間に、とんでもない爆弾がぶっこまれたときはどうしようかと思ったが、まぁ楽しみだしいっか。
そんな事を考えながら、俺はかあさまが作ってくれた暖かくて美味しいご飯をたべるのだった。
(妹といっしょに訓練、、、楽しそう!!)
俺は自分脳内で仮想妹と霊力訓練をする様子を想像してなんだか楽しい気分になった。さて、今後の楽しみが増えたことだしより一層霊力訓練には力を入れないとな。
―――――――――――――――――――――
結果から言うと、妹の出産はめっちゃ呆気なく終わった。逆子でもない特に異常なしの健康的な子供。だが、それは一般常識内での話だ。
「呪い、か、、、」
「くっ、、、神楽は賢かったから良かったものの、《神恋》は普通の赤子。呪いに耐えきれん、、、」
俺の妹、出産直後に霜月神恋と名付けられた赤子は俺と同様、いや、それ以上に強力な霜月の呪いを患っていた。その正体は、、、
(我が家の守り神、霜在幻塔全知神様は神恋をいたく気に入ったようで、神恋の肉体を神様の神域へと連れ去ろうとしている、、やばくね?)
連れ去られるのを拒否すれば、霜月家は霜在幻塔全知神の加護を失い、未来永劫霊力を感知することすら不可能になるという。かと言って黙って連れ去られるのもしたくない。
それが板挟みとなって俺含めて霜月家を苦しめていた。それも母さんが情緒不安定になって自殺しそうになったくらいには。
「とおさま、どうにかできないんですか?」
「霜在幻塔全知神様の神域へ侵入して、直接交渉を行えば、行けるかもしれん。だが、それは不可能だ。」
「なんで?」
「神域へ入れるのは、霜在幻塔全知神様き認められた者のみ。今の関係性の我ら霜月家を入れるわけがない。」
「、、、」
本当に解決策はないのか、そんな事を口走った俺を少しイラツイた表情と声音でねじ伏せる父さん。その声には、後悔と絶望、その他負の感情がごちゃまぜになっていた。
だが、俺にはある一つのパスのようなものが見えていた。それは、神恋の体から流れ出ている神々しく、まさに神の霊力と言って相応しい膨大で濃密な魔力が。
(もしかして、これ父さんたちには見えてないのか?)
ならば、やりようはある。そんな事を言わんばかりに俺は顔に笑みを貼り付けて神恋へと手を伸ばす。
「とうさま、まかせてください。」
「神楽!?何を!?」
父さんのフアンと驚きが多分に含まれた叫びを完全無視して、俺はうまれたばかりの神恋の体に触れて、その霊力内に侵入する。
(待ってろよ守り神。俺の可愛い妹を連れ去ろうとしたんだから落とし前はつけてもらう。)
俺はそんな感情を抱きながら、自身の意識を奪う極光に身を任せるのだった。
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