学院入学編

第19話 帰還報告


       ◇


 実に半年ぶり。

 わたしは故郷に帰還を果たしていた。


 帰りはヘルがいたのであっという間で楽ちんだ。

 まずは実家に戻って両親と再会――したかったのだけど、で足止めを食うことになる。

 ちょっと予想外のことになったからだ。


 ひと月ほどどこぞでうんうん唸った挙句、解決方法をようやく見つけたことで、改めて実家へと帰ることができた。


 で、やはりわたしのことは死んだと思われていたらしく、二人は泣いて喜んだ。

 少し親不孝をしてしまっていたらしい。

 そこは反省。


 一晩村に泊まったあと、翌日にはイステリア子爵騎士団へと帰還の報告をする。

 みんなわたしの顔を見るなり呆気にとられ、どういうわけかシルヴェストルなんかは剣を向ける始末である。


「馬鹿な――生きているわけがない! アンデットがここまで……!?」


 どうやら死霊扱いされているらしい。


「あのね。死んでいるように見える?」

「見えないが、生きているはずもない!」


 どうしてもわたしに死んでいて欲しいのか。

 ちょっとイラっとなる。


 頭を冷めさせてあげようと軽く魔法を放とうとして、ぐっと我慢。

 危なく騎士団の本拠地を吹き飛ばすとこだった。


 代わりに杖で、城門をぶっ叩いてやる。

 あ、轟音と共に砕け散ってしまった。


 でもプロスペールにもらった狂乱の杖は、傷ひとつ無し。

 頑丈なものである。


「次は殴るけど――覚悟はいい?」

「ま、待て! 話せばわかる! というかもう殴っているだろ!」

「軽く撫でただけよ」


 事実である。


「というか――本当にネロヴィアなのか……!? 生きて……いたのか……!?」


 これだけ麗しい見た目なのに、それでもアンデッドに見えるようなら、その目玉はもういらないと思う。

 くり抜いてあげよう。


「だ、団長――――っ!!」


 どたどたと走っていくシルヴェストル。

 逃げられた。


「あ……。もう」


 そうして一人残される。


「――くく。だよなぁ。どー見てもバケモノになっちまってるし、そりゃびびるって」


 足元から聞こえた声に。


「うるさい」


 わたしはそれをブーツの爪先で蹴飛ばしたのだった。


       ◇


 デフォルジュ団長も健在で、わたしの顔を見て素直に喜んでくれた。

 やはり死んだと思われていたようだ。


 ま、仕方が無いといえば仕方が無い。

 そういう風に判断するのも当然だろうし、責められるようなことでもない。


 そもそもはわたしが独断で、成り行きにみせかけて騎士団から離れたようなものだしね。

 とはいえ状況確認は必要だったわけで、わたしは団長の部屋に通されて面談――というか、事情聴取を受けていた。


「では、デザ―エンド大迷宮を踏破したと……?」

「そういうこと」


 半年もどこで何をしていたかと問われたので、大迷宮で攻略に勤しんでいたと答えたのだ。

 そして実績は実績としてアピールしておく。


「にわかには信じられんが」


 そりゃそうでしょうね。


「今の大迷宮は以前にも増して難易度が増している」


 え、そうなの?


「我らが十層で遭遇したコボルト・ロードだが、あれからもう一度向かったのであるが、どういうわけかアンデッド化していてな。いや、あれだけではなく、大迷宮全体でアンデッドのモンスターが多く出没するようになったのだ。今や十層に近づくことも難しい」

「あー……」


 原因は、その、わたしだ。

 コボルト・ロードを始め、あちこちのモンスターをゾンビやら何やらに仕立てて手駒にしていったのだから、以前の大迷宮とはだいぶ変わってしまったことだろう。


 素直に理由を話したら心証が悪くなりそうだから、適当な言い訳を考えよう。


「四十九層にいたドラゴンが、死霊魔法を扱うダーク・ドラゴンだったみたいで」

「な、なに!?」

「の、子供だったんだけどね」


 団長はこっちの予想以上に驚いてみせたので、少しだけ訂正しておく。


 ダーク・ドラゴンは暗黒竜とも呼ばれ、ブラック・ドラゴンの上位種でもある。

 死霊魔法に長けた、極めて危険なドラゴンとされている。


 ……ちなみにニヴルヘル・ドラゴンは元は大陸外のドラゴンのため、その生態はよくわかっていないけれど、ダーク・ドラゴンよりも格上なのは間違いない。


「それを――まさか。し、しかし踏破した、ということは……」

「倒してはいないわ。仲良くなったから。でもわたしがあの子を起こしちゃったから、大迷宮が活性化してアンデッドが増えたのかも」


 適当にそれらしいことを言っておく。


「確かにダーク・ドラゴンは死霊魔法を使うというが……」

「一応証拠になるかどうかはわからないけど」


 わたしが団長に提出したのは、いくつものスクロール。


「これは?」

「見てみて」

「うむ……」


 ぱっと見は古臭い巻物であるけれど、実は上質な羊皮紙にも勝る魔法紙だ。


「こ、これは……!」

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