第17話 ドラゴンゾンビ(後編)
「ガァガアアアア――――ッ!」
咆哮するドラゴン。
「使えるじゃないのこれ」
わたしが手にしている杖は、狂乱の杖とかいう名前のありがたくもない呪われた武器。
プロスペールにもらったものである。
一応魔法使いスタイルだけど、物理的な武器も欲しい。だから何か頑丈な杖を貸せとねだったら、これをくれたのだ。
『持っているとバーサク状態になるようです。過去何人も狂乱しておかしくなり、魔法を暴走させて被害を出したとか。あまりにはた迷惑な杖なので、何とか破壊しようと歴代の魔王も苦心したようですが、残念ながら。陛下も気味悪がって私に押し付ける始末です』
結局破壊されずに残っているということは、それだけ頑丈だったということなのだろう。
確かに頑丈な杖というわたしの要望を満たしているけど、決して他人に奨めていいものじゃない。
だからプロスペールは頭がおかしいというのだ。
それを指摘したら、
『まあ貴女は最初からすでに少しおかしいので、狂乱の効果も薄いかと思いまして』
そんなたわけたことを言いやがったので、さすがに殴り飛ばしてしまった。
いけないいけない。
これも杖の悪影響。
自制しないとね。
などと、プロスペールをぐりぐりと踏みつけながら、その時は自重したものである。
まあ結論からいえば、呪いによる悪影響は全くなかったといっていい。
いくら死霊魔法や降霊魔法といった邪法の類、いわゆる背徳魔法が得意だからといって、呪いまで効果無しだなんて。
それとも聖女候補としての潜在能力が、呪いを受け付けないのか。
ちょっと分からないけど、使えるものは使っておけ、よね。
「でもキリがないわね」
少しずつダメージは蓄積できている一方、そう簡単に倒れるような敵でもない。
さっき一網打尽にしたアンデッドどもも、いつの間にかまた増えて集まっているし。
そいつらをもう一度焼き払いつつ、延々にドラゴンゾンビを殴り続ける。
その繰り返し。
気づけば丸一日、そんなことを続けていた。
ドラゴンゾンビは倒せないけど、他のアンデッドを倒していくうちに、どんどんレベルも上昇していく。
しかも殴っては魔法、殴っては魔法の繰り返しのせいか、そういった方面のステータスが上がっている印象だ。
だって最初よりも軽い力で、ドラゴンゾンビをボコれるようになってきたのが分かるから。
あと魔法の威力も上がっているし。
この調子ならいつか倒せるのかもしれないけど、さすがにお腹が減ってきた。
そこは魔力を生命力に変換して対応できる。
となると、あとは魔力の貯蔵次第。
ここは前の迷宮と違って、生きているものがいない。
だからそこから魔力を補充する、なんて荒業もできない。
つまりじり貧。
もし魔力が尽きてしまうのが早ければ、わたしの負けは確定だ。
他のアンデッドを魔法無しで対応するには、ちょっと数が多すぎる。
やはり撤退の頃合いかもしれない。
残念だけど。
「なら」
最後にひとつ試してみよう。
実はずっと試してみたことがあったのだ。
ここならたぶん、大丈夫。
「えいっ!」
わたしは杖でフルスイングしてドラゴンゾンビを吹き飛ばすと、ついでに火炎の魔法をお見舞いし、丸焼きにした。大して効かないけど、嫌がらせ程度にはなる。
ドラゴンが悶えているうちに、思い切り距離を取る。
その距離ざっと数百メートルだ。
よし。
やってみよう。
すでにあの魔法っぽい何かは契約済み。
あとはわたしのレベルや魔力次第。
「ん……」
この世の魔法は全て契約しないと使えない。
まあ契約というか、世界のシステムへの登録といった方が正しいかな。
これに成功して始めて魔法が使えるようになるのだ。
でも契約に成功したからとって、必ずしも行使できるとは限らない。
本人の技能が伴っていないとまず無理である。
何か色々と発動条件があるっぽいけど、未だ全貌は明らかにされていない。
だからこの魔法をわたしが使えるとは限らない。
でも分からないのだから、試してみないとね?
実験は大切である。
「ああ、これね」
脳裏に浮かぶ何かの言葉。
契約に成功すると、勝手に頭に刷り込まれる誰かの言葉。
いわゆる魔法の術式である。
うん、何とかなりそう。
そうしている間にも、荒ぶるドラゴンゾンビが炎を払い、動きを止めたわたし目掛けて突進してきた。
いや――空を飛んだ。
それだけで凄まじい衝撃波が襲ってくる。
でも空中に飛び上がったドラゴンの巨体は、ただの的だ。
それを狙い撃つ。
「――〝
瞬間、わたしの身体は総毛だった。
ただの黒雲が雷雲と化し、荒れ狂う。
ぐん、と魔力が一気に無くなったのが分かった。
鳴り響く雷鳴。
全天から降り注ぐのは、真っ黒ないかづちだ。
「……あは」
思わず笑ってしまった。
これはちょっと
乱舞する雷電はドラゴンゾンビを空中から撃ち落とし、追い打ちをかけるが如く絡みついていく。
それはいい。
問題なのは、それ以外にも広範囲に黒い稲妻が降り注いていること。
ざっとわたしの視界全部。
おかげで氷麗城ゼクスティカとその城下全てが打ち砕かれているのだ。
「……やっちゃったわね」
真っ黒に焦げ切って、消滅していくドラゴンゾンビなんて、もうどうでも良くなってしまっている。
崩壊していく城下と城。
わたしはやってしまったのだ。
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