第14話 ゼクスティカのニヴルヘル・ドラゴン

「それにしてもダンジョンですか。そうですね。手頃なのがあるかもしれません」

「本当に?」

「はい。今も話題に出た、先代のニヴルヘル・ドラゴンのいた氷麗城ゼクスティカなどは如何です? 北の地にあるのでちょっと寒いですが」


 また訳の分からないことを言う。


「はあ? 氷麗城っていえば歴代の魔王の居城でしょ? どうしてそこにドラゴンなんているのよ」

「正確には初代魔王の居城だった場所です。二代目の魔王がどこぞからニヴルヘル・ドラゴンを召喚して氷麗城を攻め落としましたからね。二代目は王位の簒奪には成功したものの、氷麗城はひとの住めないところになってしまったのです」


 衝撃の真実である。

 確かに魔族の歴史なんて前世でも概要しか習わなかったし、そもそも人間側に伝わっている魔族の歴史自体がいい加減だった、ということかもしれないけど。


 しかしこんなところで図らずも、当代の魔王があっちにいない理由が分かってしまうとは。


「というか、ドラゴンってどこぞから呼び出せるものなのね。本当に冥界とかあるの?」

「いえいえ。東の大陸にいたらしいですね。厄介払いしたがっていたあちらの方々と、こちらの利害が一致したせいで、うまくいったとか何とか」

「はた迷惑な話ね。というかやっぱり世界って、この大陸だけじゃなかったんだ……」


 それも驚きだった。


「世界は我々が思っているより広いのです」


 したり顔のプロスペール。

 無知で悪かったわね。


「それでどうします?」

「どうしますって、遠すぎるでしょ? わたし、そこまで時間ないのよね」


 来年にはあちらに戻り、何としてでも騎士魔導学院に入らなきゃいけない。

 残されているのはあと五ヶ月ほど。

 でも実際にはあと三ヶ月くらいで戻らないと、根回しといった準備ができないのだ。


 デザーエンドからここまでひと月もかかっている。

 ここからゼクスティカにたどり着くまでどれだけ日数がかかるのか、土地鑑が無いせいもあってさっぱりだというのに。


「城と城下が死霊都市化していますので、迷宮的な要素はほぼありませんし、目指す城も分かり易いので、物理的な距離でいえば、デザーエンド大迷宮に比べれば遥かに小さいですよ。ただうじゃうじゃいますが」


 アンデッドが、だろう。


「ニヴルヘル・ドラゴンの影響で発生したアンデッドですので、強力な個体もいます。ただし主であるドラゴン自体がもう死んでいますので、これ以上増えることはないはずです。私がかの地に行ったのも、将来的な復興が可能かどうか確認するためでしたから」

「……なるほどね」


 普通のモンスターに比べて、アンデッドは強いものが少なくない。

 レベル上げには確かにもってこいではあるけれど、普通はみんな嫌がるものだ。


 何といってもごく単純に、生理的に受け付けない場合が大半だから。

 これは人間や魔族だけでなく、その他のモンスターだって同じように感じているらしく、大抵忌避している。


「でも移動にどれくらいかかるの?」

「正味三日くらいでしょうか」

「は?」


 氷麗城ゼクスティカは大陸の北の端にあるはずなのに。


「ワイバーンを使えばそんなものです」


 ひとは飛べないけど、モンスターの中には空を飛べるものもいる。

 ワイバーンはドラゴンの一種で、空を飛ぶことに特化した個体だ。

 飛竜などとも呼ばれている。


 ドラゴン自体、どんな種でも翼があるからだいたい空を飛べる。

 でも長時間飛べて、なおかつ速度も出るドラゴンといえば、やはりワイバーンを置いて他にはいない。


 とはいえだ。


「ワイバーンを飼いならしているの?」


 相手は腐ってもドラゴンである。

 個体差はあるにせよ、基本的に獰猛でひとの言うことをきいたりなどしない。


 背に誰かを乗せるなんてもっての他。

 それを従わせようと思ったら、方法は二つしかない。


 調教魔法による強制。

 これができる魔法使いはテイマーとか呼ばれている。


 もう一つは契約することだ。

 ドラゴンは頭がいい。

 そして強欲な場合が多い。

 利害が一致すれば、一時的な協力関係も結べるとか。


 あの連中、金とが銀とか宝石とかが大好きで、つまり金目のもので動くのだ。

 でもプロスペールの答えは予想の斜め上をいっていた。


「養殖していますので」


 さらっとなかなかのことを言ってくれる。


「刷り込んでしまえば、けっこう共存してくれるものですよ」

「あなたって凄いんだか、イカれているんだか分からないわね」


 まったく鳥じゃあるまいし……。


「それって卵から孵しているのを育てているってことでしょ?」

「そうですね」

「具体的には?」

「国家機密です」


 さすがに簡単には教えてくれないか。


「で、どうします?」


 氷麗城に行くかどうか。


「行く」


 移動手段があるのなら、さほど迷う必要もない。


「でもちょっと待って。試してみたいことができたから」

「承知しました」


 プロスペールは頷く。


 よし。

 じゃあ早速実験だ。


「ところでプロスペール。あなたって召喚魔法、使えるでしょ? 教えて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る