第10話 奈落の封印魔法
◇
「うわ」
ずばっときて、どかーん。
そんな感じ何かがわたしを貫いて、ちょっと驚いてしまった。
「な……なにをやっているかぁ――!」
どたどたどたっ! とけたたましい足音と共に駆け込んできたのはデュラフォアだ。
「なにって」
黒い祭壇の前で、わたしは振り返る。
肩で息をするデュラフォアは、バチバチと黒い稲妻をまとわりつかせて平然と立っているわたしを見て、わなわなと手を震わせた。
「わたしにもわからないんだけど?」
「儀式を成功させた、だと……!?」
天を仰ぐデュラフォア。
何やらいろいろ衝撃的なことがあったらしい。
「儀式っていうか、これ魔法よね? 黒い雷……? あ、これってエルキュールが使っていた〝
いつだったか初見でエルキュールが、どこぞの貴族の騎士団を、一発で城ごと全滅させた危ない魔法だったような気がする。
「え? わたしも使えるの?」
「なんでだぁああ――――!?」
あ、なんかデュラフォアが壊れているし。
「ちょっと落ち着いたら?」
「誰のせいだと思っている!? それは四つの契約の一つであるのだぞ! 奈落の封印魔法! 魔王の座でも狙っているのか!?」
あ、なるほど。
この前言っていた大魔境の魔法を習得するに必要な四つの儀式。
これを成功させていくと、最終的に魔王候補になるんだったかな。
「別にそういうつもりじゃなくて。少し覗いてみたら、勝手にこうなっただけよ?」
「ぐぬぬぬぬ……!」
怒りで身体が震えるというのは、今のデュラフォアのことをいうのだろう。
実に分かり易い。
「我はここの守護を任されていると同時に、儀式の祭司でもあるのだぞ! それを差し置いて何をやっているかぁ!」
「そうだったの?」
知ったことじゃないし、故意でもないし。
「というか何故成功する!? 貴君は聖女候補ではなかったのか!?」
「予定だって言ったでしょ」
「いったいどのような出鱈目な適正を持っているというのだ!」
地団太踏むデュラフォア。
もはや道化でも紳士でもなくなっちゃってるわね。
それはともかく適正、か。
今回のは本当に偶然だったけれど、案外いけるのかもしれない。
魔王と聖女に同時になる、ということも。
魔王の方がともかくとして、わたしは聖女になるつもりでいる。
その理由は世のため人の為、なんかじゃない。
ただただあの女を聖女にさせないためだ。
その上で徹底的に破滅させてやるつもりでいる。
今度はわたしがあの顔を踏み潰してやるのだ。
「……ということは、この手の魔法があと三つはあって、それらが大魔境の魔法の因子を担っている、というわけね。となると大聖域も同じなのかも。でもあの女も神殿も何も教えてくれなかったところをみると、最初からあの女に取り込まれていた……? なら最初から敵と思っておいた方が良さそう。というかあいつ、最後に大聖域使ってたし。冷静に考えれば何で使えるのって話よね……」
冷静も思い返せば思い返すほど、自分が無知だったと思い知らされる。
と、気づく。
「……どうしたの?」
見ればデュラフォアがうずくまって震えていた。
泣いているのかもしれない。
デュラフォアって他人の闇に囁きかけて精神汚染するのが大好きな根暗キャラなイメージだったけど、存外自分自身は精神的に脆いようだ。
思わぬ弱点よね。
「貴君は……なにゆえ……そうも……破天荒なのだ……?」
「ま、一度死んだようなものだしね? 少しは吹っ切れちゃうわよ」
「ぬ……?」
わたしの言葉に疑問を覚えたのだろうけど、それには答えず苦笑だけを返しておいた。
そのままカツカツとヒールを鳴らして、祭壇のある儀式の場から出ていくことにする。
今のわたしの姿は、このデザーエンド大迷宮に入った時とは大きく異なっている。
身体自体には問題なくとも、当初身に着けていた騎士見習いの装備やらは、返り血などでけっこうひどい有様になっていた。
こういうダンジョンに籠っていれば、それも当然の結果。
心地よくなどは当然ないとはいえ、でも慣れていたので気にはしていなかった。
気にしてくれたのはデュラフォアで、見ていられないとばかりにわたしに合った衣服を用意してくれたのである。
それが今身に着けている簡素だけど高級と分かる、シックな黒いドレスだ。
加えて黒いストッキングに黒のハイヒールパンプス。
あと黒のシースルーの手袋。
肌はほとんど露出せず、わたしの髪も黒いので、全身真っ黒。
もはや魔女にしか見えない。
陛下にお会いするのであればそれに相応しい恰好というものがある、とか何とか言ってこんな姿にさせられたわけで。
今から謁見するわけでもあるまいに、ちょっとズレている紳士なのだ、デュラフォアは。
まあさすがにこの格好のまま、旅を続けるというわけではないだろうけど。
というかどうしてこんな衣服を持っているのやら。
不思議に思って突っ込んでみたら、昔はけっこうここにも人がいたようで、他にも色んなドレスやらメイド服やらもあった。
デュラフォアに仕えていた者たちのものっぽい。
確かにこのフロアは屋敷というには荘厳すぎるが、かなり広く、四天王の居城だと思えば当然なのかもしれない。
それはともかく、わたしはこの数日、このフロアにて休養をとることにしていた。
湯浴みをしたいと要求したのがきっかけで、食事もそれなりのものを出してくれたので、それならちょっとのんびりしようと思ったのである。
そんな最中、ちょっとあちこち散策していたら例の祭壇のある部屋に行きついて、成り行きでああなってしまった、という次第だ。
よくあることである。
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