第6話 だが、私は剣を奮うだろう

 私のバカンス休暇が終わるまで、本当にグラディウスは私と共に行動した。なんというか、彼の隣は居心地が良かった。

 軍人である私は一般人からすれば、恐ろしい存在らしく、遠巻きに見られていた。部下も私にはおいそれとは近づかない。近づいて来る奴らは、私に向かって祈りを捧げたり、殴ってくださいとか言ってくるやつだったり、私物の不用品をくださいと言ってくるやつだったり、私は彼らの人間性を疑うこともあった。


 しかしグラディウスの隣は息がしやすかった。何者にも囚われない私でいられたのだった。


 そんなグラディウスとの休暇はあっという間に終わりを告げる。次に出会うことがあれば、それは敵としてだ。

 この一週間で何かしらの情が湧いても、戦地に立てば私も彼も平気で互いに剣を向け合うことだろう。


「なぁ、帝国に来ないか?」

「それは捕虜として?」

「いや、嫁としてだ」

「それは無理ね」

「どうしてもか?」

「どうしても」

「戦争が終わればどうだ?」

「そうね。戦争が終われば考えてあげる」

「考えるか?」

「だって、戦争は終わっても戦後処理が長引きそうだからね」

「そうだな。まずは戦争を終わらさないとな」


 そんな会話をして別れた。さよならも、次に会おうとも言葉にしなかった。

 そんな言葉など意味がないことに私達は気づいていたからだ。


 だってそうじゃないか。戦争が終結するということは、どちらかが戦勝国で、どちらかが敗戦国となる。私も彼も名が売れすぎた。ということは、それだけの敵兵を殺しているということ、敗戦国となれば、多くの者達を殺した罪として裁かれる存在へと成り下がる。


 だから、彼はそうなる前に私に帝国に来ないかと言ったのだろう。将軍という地位を得たグラディウス・ヴァンアスガルドであれば、人一人ぐらい囲えると。

 しかし、私は頷かなかった。私には国を裏切れない理由がある。私が戦場で活躍している限り、私が育った孤児院から強制的に出兵させないことを私の契約書に盛り込んであるからだ。

 私が何かしらの理由で戦場に立てなくなれば、文句を言う親がいない孤児など、使い捨ての良い駒扱いされるのは目に見えている。


 だから、私はきっと死ぬまで戦場に立ち続けるのだろう。


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