第4話 二日酔い
「うっ……」
酷い頭痛で意識が浮上した。何故か身体が重い。
「頭が痛い。この世は地獄だった」
「飲みすぎだ」
背後から知らない声が聞こえてきた。いや? 知っている? 誰だっけ?
飲みすぎて、自分の部屋ではなく、部下の部屋に押し入ってしまったのか? ……全然思い出せない。昨日は何をしていた?
「あー死にそう。全然、思い出せない」
頭痛の所為で思考能力が全くなかった。すると、横向きになっていた身体が、仰向けになり、口の中に冷たい液体が……命の水!
思わずパチリと目を開けると金色が視界を占めた。デジャヴュ。
「あれ? 将軍?」
「ラディと呼べと言っただろう?」
……全然覚えていない。っていうか、この状況は世に云う朝チュン。
ちょっと待とうか。全くこの状況が理解できない。いや、別に私は処女ではないので、隣に男がいようが構わない。問題は相手が帝国軍人だということだ。
「頭が痛いので、もう一眠りします」
私は現実逃避をすることにした。このあり得ない状況を考えるには、思考能力が足りなかった。
しかし、目覚めても状況が変わることがなく、私の隣には偉丈夫がいるのだった。
「一つ聞きたいのですが、ここには一人で来られたのですか?」
遅めの朝食と言いたいけれど、もう太陽は中天にあるので、昼食と言って良い朝食を食べている。それも同じホテルを取っていたらしく、仲良くカウンター席に並んで食べている。
「部下と来ている。ほら、あいつらだ」
そう言って隣の偉丈夫は親指で背後を差す。その先には黒い軍服をまとった人物が五人おり、こちらをチラチラ見ている。
「では、部下の方と食事をされた方がよろしいのでは?」
「アンリ。さっきから他人行儀だな。俺とアンリの仲じゃないか」
「赤の他人ですが?」
私は横目でジロリと隣の偉丈夫を睨みつける。
「違いない」
そう言いながらクツクツと笑い出す。……あれ? 私、彼に名乗ったのだろうか?
「私、貴方に名乗りました?」
二度目に起きたときに、昨日の出来ことを色々……色々思い出してたけれど、私から名乗った記憶はない。
「いいや。有名だろう? 戦場を地獄に変えるアンリ・ラシュール」
「それはお互い様ですよね。グラディウス・ヴァンアスガルド将軍閣下」
お互い剣を向け合うことはなくても、その名は耳にすることがある人物。
「さて、一週間だったか?」
「ん?」
「バカンス。楽しむのだろう? 付き合ってやろう」
……隣の偉丈夫の言っている意味が、理解できない。
私は胸ポケットからタバコを取り出し、火を付け、紫煙を吐き出す。
これは私の休暇に帝国軍人である偉丈夫が付き合うと言っている?
「なぜ、貴方が私に付き合う必要が?」
「気に入ったからな。赤き悪魔と言われていても、普通の人だ。それにここでは敵は存在しない。そうだろう?」
部下の中でも私のことを恐れて近づかない奴がいるというのに、そんな私が普通の人か。
それにこの国にいる間は、帝国軍人であろうと敵ではないと。まぁ、この国を一歩でも出れば敵だということだ。
「将軍。私、新しい武器が欲しいです」
「敵に塩を送ることはせん」
「ケチですね」
「ケチで結構。それから、俺のことはラディと呼べと言っただろ。あとタメ口でいい」
私は紫煙を吐いて、隣の偉丈夫を見る。敵では無かったら、いい飲み友達になれそうだ。
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