序章 私達は星々の夢を見る

第1話 ホシ

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 砂煙が漂う真昼のビル街。過去には繁栄の光を夜空に照らし聳えそび立ったビル群も今では崩れ去り肌色の風を吹かせることしかできなくなっていた。

 そんな既にその存在意義を失った街は異形によって破壊の限りを尽くされていた。


 星の形をした影は身体を白く輝かせると同時に身体から数本の光線を発した。その威力は強大で熱光線が寂れた廃ビルを貫くと、大きな音を立てながら崩れ去るほどだ。

 そんな危険な光の雨が降る街の中で私はビルの隙間を縫うように走っていた。



『目標までの距離まで残り十 到達次第目標を狙撃せよ』


「無茶を言う…………!」



 空へ浮かぶ七芒の敵に向かって懸命に走り続ける。

 接近を許したくない敵は熱光線を所構わずと言った様子で乱射していた。

 熱光線の一発一発が文明の象徴を思いのままに破壊しているが、焦りとも取れる思考性のない攻撃が私に当たることはない。敵としてはあまりにも幼稚すぎる。



『三、二、一 目標射程に到達!』



 オペレーターの合図と共に手にしている銃の撃鉄を起こした。

 

 ━━━バンッ


 発砲音が響き渡ると同時にオレンジ色のビームが空へ浮かぶ敵に向けて放たれた。

 ビームは一瞬で敵の元まで迫り大きな爆発音と共に直撃。星の真ん中に大きな風穴を作り上げる。



「当たった…………!!」



 まるで手向けるようなその声を静かなビル群へ木霊させる。この場所でヤツに殺された死んだ名もなき人達に向け、敵は討ったという思いを込めながら。


 ビームが直撃し、身体に大穴を空けられた星はふらふらと揺らぎながら地面へ落下すると己が破壊したビルの中へと埋もれるのだった。



「目標討伐」


『討伐を確認 コードI 帰投せよ』


「了解」



 オペレーターからの命令を受け、私はこの場から立ち去った。

 残ったのは栄光の過ぎ去ったビル群とどす黒く変色し穴の空いたの死体だけだ。





    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 私たちの世界から『夜』が奪われた。


 今から五年前の八月三十一日。世界中から夜が消えたと同時に青空からヤツらは現れた。

 宇宙から突如として飛来した星型の異形は世界の様々な都市を襲撃した。

 アメリカのネバダ州にワシントン、フランスのパリ、中国の北京など、まるで理解しているかのように各国の主要都市を攻撃した。そして日本もその攻撃対象となった。


 現行の兵器はヤツらには通用せず成す術も無く人類は完敗。多数の犠牲者と文明が滅ぼされた。

 そして驚くべきことにヤツらは人類へと宣戦布告をした。

 空に浮かぶ巨大な十二芒星が崩れ去ったホワイトハウスの前で演説を始めたのだ。



『我々はソラからの使者、ヨルは我々がいただいた』



 十二芒星が私達の脳内に語りかけたこの言葉は世界中を戦慄させた。

 何百年と当たり前のように共にあった『夜』が異形の存在によって奪われたと言われたからだ。


 そして十二芒星はその身体を七色に輝かせながら人類へとこう告げた。



『我々はソラへと昇るホシ、そしてこのホシは我々そのもの。人類は我々を蝕み続けた、よって我々は人類を滅亡させる。人類にヨルはもう必要ない』



 その瞬間、人類は理解した。

 もはや私達は生態系の頂点では無くなったことに。異形の存在によってされる哀れな生き物に成り果てたということに。


 この十二芒星の宣戦布告は私達を絶望のどん底へと叩き落とした。

 精神が壊れ廃人となった者達や恐怖の末に暴徒と化した者達、そして自ら命を断つ者達で溢れていた。


 しかしそれでも人類は諦めなかった。

 手始めにホシと呼ばれる異形に対抗するため世界各国の『星物抗戦条約』を締結。皮肉なことにこの条約の締結以降、人類が戦争する事は無くなった。


 そして世界中でホシへの対抗するための兵器開発が進められた。異形の存在であるホシには既存の兵器は通用しない、故にそれを超える画期的な技術が求められたのだ。


 最初こそ開発は困難を極めた。しかしホシのサンプルを入手したのをキッカケに研究は大幅な進歩を見せた。

 そしてニホンの研究機関により『芒炎鏡ぼうえんきょう』と呼ばれるホシに対して有効な兵器の開発に成功したのだ。


 人類は歓喜した。ついに我々にも力を持つことができたと。

 しかしこの芒炎鏡という兵器は『特定の条件を満たした女性』にしか扱えないというとんでもない代物だったのだ。


 だが世界が危機に瀕したこの状況の中で、ニホン政府の行動は早かった。

 政府は各方面の反対を無視して政府直属の星物対抗部隊、通称『天門台』を設立。世界中から集めた芒炎鏡使用の条件に合格した女性達を半ば強制的に部隊へと入隊させたのだ。


 当然ながら大半が戦闘経験が無い者だ。ホシに対抗できるとは誰も思っていなかった。が、その疑念は一瞬にして吹き飛ぶことになった。


 天門台がホシ達によるニホン襲撃を見事に阻止したのだ。反対していた者達は手の平を返したかのように政府の対応を絶賛、『天門台』という存在を確固たるものにした。

 それと同時に人類はホシへの対抗するための力を手に入れたのだ。


 そして私達は人類の救い手となった。

 …………己の内にある様々な感情をふつふつと湧き上がらせながら。

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