第2話 機会
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ニホン・ニュートウキョウ。ホシ達の侵攻によって壊滅させられたトウキョウはかつてギフと呼ばれた場所にその名を受け継がせ、国の首都として再興させた巨大な街。
広大な山々を切り開き作り上げられた純白の街はまさしくSF映画で出てくるような未来都市そのもの。
その光景も未来的で、ふと見えた街の公園では埋め込み型デバイスで無人車を呼ぶ人や、自動調理で作られたシェフ顔負けの高級料理に舌鼓を打つ人など、この街の人々はこの最新技術の恩恵をこれでもかと享受している。
そして街の中心にある天を貫かんと言わんばかりのこの巨大なビルこそホシ達を屠り散らす槍であると同時に人類を守る最後の防波堤『天門台・ニホン支部』だ。
政府直属の組織でもあるこのビルには総勢千人を超える人間が所属し、ホシから人類を守るために日々尽力している。
その天門台の最上階、百四十九階にある支部長室の扉に入ると、目の前の人物に対して敬礼をして見せた。
「コードIイブキ、帰投しました!」
私の帰還報告を受け、デスクに座っていた純白のコートを羽織った女性は椅子から立ち上がると私に敬礼を返してくれた。
「イブキ隊員。急な要請だったにも関わらずよくぞ任務を全うしてくれた」
彼女はエレン。天門台ニホン支部の支部長であると同時に、ホシによるニホン襲撃の阻止を見事成功させ人類に希望を生み出した英雄の一人だ。
支部長は敬礼を解いて、私の肩に手を置くとまるで恩師のような厳しくも優し気な笑みを浮かべた。
「ご苦労だった。そしてもう一つ。君に願いしたい任務がある」
「お願いですか? 指令ではなく」
「そうだ。少なくとも君はこの任務を拒否する権利を有しているのだ」
そう言うと支部長はタブレット端末から一枚の写真を私に見せた。
「これは………………!」
「三日前調査ドローンが撮影した映像を切り抜いた物だ。対象が動いていた影響で画像が荒くなっているが直接見たことのある君にはわかるだろう」
写真に写っていたもの。
それは五年前に私の家族と日常を奪った忌まわしき存在━━━金色のホシの姿だ。
あの日から毎日のようにあの光景を夢で見るのだ。間違えるはずがない。
「追跡中にドローンは破壊されたが最終目標地点から今いる地点を算出したところ、このホシ…………『コード・ヴィーナス』は既に廃棄されたテーマパークに潜伏している可能性が高いという結果が出た」
「………………ということは」
「ああ、敵幹部の筆頭である十芒星の一体の討伐作戦を決行する」
十芒星。五年前世界に蹂躙の限りを尽くした尖兵であり、
今まで確認された十芒星は六体。どれもが強力な力を有している故に討伐できなかった存在。
だが雌伏の時はここまで、人類の反撃が始まるということだ。
「討伐作戦には三十四人の戦闘員を動員する。その中にはコードJも参加する」
「彼女が…………?」
「ああ、先程彼女にも作戦参加の意思を聴いた。二つ返事で参加すると言ったよ。君にも聴かせて欲しい━━━コード・ヴィーナスの討伐作戦に参加してくれるかね?」
支部長の真っ直ぐながらも躊躇いのある瞳が私を見つめた。
彼女は私を試しているのだ、『過去の因縁に囚われていながらも任務を全うできるか』を。
当然だ。私はあのホシに全てを奪われた人間。その恨みや憎しみは並大抵のものではない。現にあの写真を見ただけで持っているタブレット端末が悲鳴を上げているのだ。
しかし、これは支部長の温情━━━いや、慈悲と言うべきか。
本来なら任務に私情を挟みそうな隊員は問答無用で作戦から排除すれば良い。それが組織を円滑に進めるために必要なことなのだから。
しかし支部長は復讐という血に塗れた機会をわざわざ与えようとしているのだ。組織のトップとしてはあまりにも間違った判断なのに。
「…………わかりました」
だから私は真っ直ぐ返した瞳で答える。
おそらく支部長の予想したであろう解答をそのままに。
「命令には必ず従います。作戦に参加させてください」
この"機会"を逃してやるものか。
絶対に捕まえてやる、あの忌々しい星空を。そして…………
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