陰謀 八 〜ミシェルの小さな秘密〜

 流澄と桜は、そのままミシェルの家を後にしようと考えた。

 他の秘密は、何も話さずに。


「さすがに無理そうね。保安局員は口が固いもの」


「あなたに危険が及ばないようにするためにも、何が起きたかは話せません」


「分かったわ、そんなに言うなら、ね。仕方ないもの。傷の具合から凶器を当てることも、迷惑になるわよね」


 含みがあるような口調だった。桜がミシェルの顔を覗き込んだ。


「今、傷の具合から凶器を当てる……と言いましたか?」


「ええそうよ。あたしの特異魔法なの。周りには、特異魔法は治療だって言いふらしてるから、誰も知らないけどね」


 ミシェルは、顔にかかった髪を払って言う。


「それがあれば……、市長の傷口から凶器を割り出せるかもしれません」


 桜はあごに手を当てた。流澄と似た動作になっている。


「市長暗殺未遂の話は、あたしも知ってるわよ。朝から、街はこの話題でもちきりだもの。たしか、怪盗東雲が犯人で、矢が刺さったまま逃亡したって……。まさか」


 ミシェルは流澄を凝視した。


「あんたが怪盗東雲だったのね!?」


 流澄は片方の眉を上げて、ミシェルを見返した。


「知られちゃったか。もう隠し立てできないね」


「そうですね。特異魔法のこともありますし、この際すべて話して、協力してもらうということで」


 流澄と桜は、同時にため息をもらす。


「あたしの力が必要なら、喜んで手を貸してあげるわ。だからもう隠し事はなしよ、分かったかしら?」


 得意げなミシェルに、流澄と桜は、してやられた、と思った。

 ミシェルは事件に関わるために、特異魔法の話を持ち出したのだ。


 ふたりは、ミシェルに事の経緯を話した。


「それで、あんたは冤罪で、警察に世話になりそうってことね。それでハルトちゃんは、今まで見つけられなかった怪盗東雲のアジトを、どうやって見つけたのかしら?」


「オークションの日に流澄さんの後をつけてみたら、何やら壁を押してその裏に入るのが見えたので」


「あんた、それでよく今までアジトを知られなかったわね……」


 ミシェルが呆れた顔をする。


「仕方ないだろう。魔力のない時間帯だったんだから、隠れ身の魔術も使えないし」


 むむ、と頬を膨らませて、流澄はふたりをきっと睨んだ。そしてふと、目を丸くして桜の顔を見る。


「場所は分かったとして、どうやって入り方を突き止めたんだい?」


「それは、勘ですね。見様見真似みようみまねでやったら入れました」


「それは才能よ」


 流澄とミシェルは、これは入られるのも仕方がない、と肩をすくめる。


「それで、これからどうするの?あたしの特異魔法で、市長を刺した凶器を割り出す。それが『亡者憑き』の形状と違う、という私の証言で、ルースの無実を証明する。だいたいこんな感じよね。問題は、どうやって市長に近づくかよ」


「そうですね。それは、僕が保安局にかけ合ってなんとかします」


「あたしを凄腕の魔法医だって宣伝するのね」


「はい」


 桜が頷く。


「私はとにかく、正体を知られないようにしておけばいいわけだね」


「そうですね」


「あたしが治療してあげたんだから、もう庇いながら歩くこともないでしょう。傷口を見られなければ、大丈夫じゃないかしら。警察の信頼も得ているんでしょ」


「まあね」


 ふふん、と鼻を高くする流澄。ミシェルはげぇっと嫌な顔をした。


「ミシェルが市長の傷口の形状を証言するわけだが……。ひとりの証言で、私の無罪の証明に十分なのかい?」


「それは、特異魔法を具現化できる魔術師に、協力を仰ぎます」


「特異魔法って、本当に多種多様なんだねぇ」


 今度の流澄は、純粋に感心しているようだった。



「それじゃあ、これで作戦会議はお開きね」


「はい。よろしくお願いします」


「頼んだよ」


 三人は、作戦の手順を確認して解散した。

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