ルーチェ王国の亡霊 四 〜新たな犯行を阻止せよ〜

「犯人にとって、誘拐しやすい場所の条件というのはあるはずなんだ。公園、家の庭、学校……。いずれも子供たちだけで遊ぶ場面がある」


「大人が見ていない間に、まるで神隠しにあったように子供が消えてるってことですね」


「そういうこと。この特徴は警察も掴んでたから、結界を張ったりして対処してる。それで被害者が減ればよかったんだけど」


 流澄は顎に手を当てた。


「結界も難なくすり抜けて、犯人は誘拐を実行するんだ」


「その結界って、魔力を持つ者が通ると、結界を張った術師に通知が行くものですよね。この公園の結界は、そういう仕様みたいですし。監視されてる感じがするんですよね」


 桜はゴミ箱に紙皿を捨てた。


「やっぱりそうか。公共の場だからね、魔力持ちが入れないと、差別だって騒がれる。となると、犯人は何らかの方法で通知が行かないようにしたか、魔力を持たない一般人か」


「前者が有力じゃないですか?一般人にそんな神隠しみたいなわざ、できる訳ないですよ」


「どうかな。目撃者となりうるのは子供たちだけだ」


「子供たちが何か隠してるってことですか?」


「たぶんね」


 ふたりは公園を抜け、大きな通りに出た。


「まあとりあえず、事件が起きそうな場所に行ってみよう!」


「お、おー!」


 流澄の張り切りように、桜は付いて行けなかった。


「子供たちが遊ぶ場所と言えば、だよね」


「公園ですか?」


「いや、犯人はもう公園を使い古しちゃったからね」


「じゃあ一体・・・・・・」


「蔵だよ。旦那、六番通りまで」


 流澄は目を細めると、路肩の辻馬車を覗き込んだ。

 ふたりはその馬車に乗った。


「ここは商人の街だから、蔵が沢山あるよね。その陰は日が当たらないから夏でも涼しく遊べる。おまけに蔵は背が高いから、かくれんぼや鬼ごっこに持ってこいだ」


「なるほど。蔵が並んでいる辺りとなると、かくれんぼをしてる内に子供がひとり減っている、ということもありそうですね。公園より人目がない」


「でも蔵の周りの結界は、魔術師が入れない仕様だと思うよ。数人の警備員と結界だけで、防犯が成り立つようになっているはずだ」


「じゃあ子供がさらわれることもありませんよね、結界から出ない限りは」


「ああ。蔵の周りの結界は広いだろうから、たしかに彼らに近付くことはできない。魔術師はね」


「一般人の誘拐とは到底思えませんよ」


「うーん、確かに、そこが問題なんだよね」


 流澄はうなると窓の外を見た。真昼の太陽は白く眩しかった。

 彼はしばらく、ぼうっとして空を眺めていた。


「着きましたよ、流澄さん」


「ん、ああ」


 ふたりは辻馬車を降りて、路地に入った。


「ここを抜けたら、ほら」


「待ってください、結界があります」


 桜がふいに立ち止まり、流澄だけが歩いて行く。


「君はそこで見張ってて」


 流澄は桜を置いて、倉庫街を進んだ。


「桜はああ見えて戦闘に慣れてるし、大丈夫でしょ。それより」


 犯人の誘拐手口を探り、新たな誘拐を阻止する。

 それが流澄の目的だった。


 前回の誘拐からちょうど二週間経った今日、また犯行が行われる可能性が高かった。


 警備員とはち合わせないように気をつけながら、流澄は蔵の陰に入った。


「あれ、おにいさん。見たことない人だね〜」


 角から八つほどの少女がおどり出て、流澄に笑いかけた。


「初めまして。旅行で来たんだけれど、道に迷ってしまったみたいでね」


「迷子?じゃあリリが案内してあげる!」


 少女は流澄の手を引いて駆け出した。

 流澄は「頼んだよ」と手を引かれるままに付いて行った。


 何度か角を曲がると、ふたりは広場に出た。


「ね、皆!おにいさん、迷子なんだって」


「迷子のおにいさん?」


「誰々〜?」


 子供たちが一斉に駆け寄って来て、流澄はあっという間に囲まれた。


「ねー、かくれんぼしよーよ」


「おにいさんが鬼ね〜」


「待って!おにいさんは迷子だから案内してほしいんだって」


 リリが流澄の手をぎゅっと握って言う。子供たちは不満そうに頬を膨らませた。


「分かった分かった。でも終わったらちゃんと案内しておくれよ?」


 流澄がふっと微笑むと、子供たちは「うん!」と笑った。


 それから彼らはかくれんぼと鬼ごっこをして遊んだ。

 いずれも初めは流澄が鬼で、子供たちはその後から交代で鬼をした。


「ふふふ、私は体力を使わなくても追い付かれないからね」


 流澄が蔵の陰を歩いていた時だった。

 ふいに、足先にピリリと痺れた感覚がして、彼はあっと叫ぶと気を失った。

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