金に物を言わせている探偵 使われているつもりはない教師
「実に二十日ぶりだな、静星の旦那」
「きっかり二十日と決めると楽だからね」
流澄は、床屋の店主往生を見上げた。
彼は流澄より頭ひとつほど背が高く、明朗で快活な理容師だ。
流澄は、勧められないうちに、窓際の席に座った。
そこは散髪の際の、彼の定位置なのだ。
「最近仕事の方はどうなんだ?子供が攫われる事件が起きているが、警察の方は犯人の尻尾を掴めていないじゃないか。俺はあんたの出番かと思うが」
往生は慣れた手つきで髪をすくい取り、ハサミを入れた。
チョキチョキと軽快な音が響いた。
「君は中々鋭いことを言う。私の出番はもうすぐだよ。もう少しすれば、警察はきっと私に泣きついてくる。最近は暇をしているけど、それまでの辛抱だね」
「浮気調査とか、片手間の依頼は」
「四日前に終わらせた。今は全くなくて暇してる」
「あんたんとこ、週一で浮気調査の依頼が来るよな」
「安心と信頼の解決速度。依頼主を絶対に不安にさせません」
「いや結果を待つ方はいつも不安だろう。それにしても、誘拐事件なんて、世の中物騒だよな。俺も小さい子供がいるから、他人事のようには思えないんだ。早く解決してくれよ、名探偵」
「急かすなら警察にしてよ。早く私に依頼しなって」
最後にバリカンを当てて、流澄の散髪は終わった。
「ルームメイトの坊ちゃんは元気か?」
「坊ちゃん、坊ちゃんねえ」
あはははは、と笑い転げて、流澄は立ち上がった。
「今日はシャンプーはいいよ。桜なら元気いっぱいさ。今は貴重な休みを消化中だよ」
「毎度ありー。貴重な休みって、彼にばっかり家事を任せてたりしないよな」
「そうだけど」
「絶対にあんたの方が暇だろ、平日。いくら非常勤って言ったって、授業の準備もあるだろうし」
「浮気調査は君が思うより大変なんだよ。それに、私が家事をしたところで、家が回ると思うかい?」
「察するに難くないな」
「それにゴミ出しや洗濯は、まとめておけば叶麗夫人がしてくれるし。食事も平日は彼女が作ってくれてるんだよ。あと、ちゃんと対価として私の方が家賃多く払ってるし!」
「んー、それなら平等か……?」
往生は首を傾げたが、流澄は大きくうなずくばかりだ。
散髪の代金を払うと、流澄は下宿に帰った。
「あ、流澄さん流澄さん!」
「どうしたんだい」
流澄がドアの前に立った瞬間、チリンチリンと呼び鈴が鳴り、桜が飛び出してきた。
慌てた様子で、彼は流澄を部屋に引き入れる。
「依頼人です」
「ああ、すまない。床屋の主人と話し込んでいてね」
玄関から真っ直ぐ進んでドアを開けると、そこは応接室だ。
流澄は早足で上がった。
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