第一章 〜探偵と教師は相棒なのか〜
依頼人はご令嬢 一 〜ご令嬢の悩み〜
「お待たせして申し訳ない。私がここの店主、静星流澄です」
「いいえ、こちらこそ。あらかじめ連絡差し上げていればよかったですわ。私、
赤毛の女性が、ソファから立ち上がって丁寧に頭を下げた。
その横には、黒いスーツの銀髪の男性が立っている。
女性は礼儀正しく、穏やかな雰囲気だった。
しかし、その表情は曇っている。
「白花というと、白花財閥の」
「ええ。私は、白花財閥会長、白花永盛の娘です。そしてこちらは用心棒の」
「
男が表情を変えずに言った。桜が目を見開いた。
白花財閥は、国内では名の知れた富豪だが、彼女は何かわけありげだ。
流澄は彼女の向かいに腰かけた。
「本日は、どのような依頼で」
「ストーカー被害ですわ」
座り直して、白花は不安げに言った。桜がまた大きく目を見張った。
流澄は「ふむ」とだけ言った。
「最近、跡をつけられている気がするんです。この前、夜遅くなって迎えの車に乗り込む時、傍の柱の影をふと見たら誰かと目が合って……。それがストーカーなのかは分かりませんけど、その後もずっと視線を感じていて。盗撮されているような気がしたことはないのですけど、自室にいる時にも見られている気がして、窓も開けられません」
白花はため息をついた。
「お父上には相談なさったのですか」
「はい。それで霞さんを雇ったのですけど、相変わらず視線を感じていて、怖くて。それであなたに依頼を……」
白花は肩を震わせた。
「分かりました。この依頼、お受けいたしましょう。そうですね、一週間、いや五日あれば解決できると思います」
流澄は、両手を組み合わせて得意げな顔をした。
霞が訝しげな視線を向けて来たが、彼は涼しい顔をしていた。
契約内容を確認し、名刺をもらうと、白花と霞は帰って行った。
「し、白花財閥のご令嬢からの依頼……。失敗は許されませんね」
はは、と桜が緊張した様子で呟く。
「まあ暇つぶしにはちょうどいいかな」
「暇つぶしって、そんなに
「別に大言じゃないさ。安心と信頼の解決速度、依頼主を絶対に不安にさせません」
「なんですかそのキャッチフレーズ」
桜は呆れたと同時に、少し安心した。
流澄が大言を撤回したことは、今まで一度もない。
いつもと変わらぬ落ち着いた態度を見ると、大丈夫だと思えてくる。
流澄は、自分と客のカップを持って立ち上がると、何を思ったか流しの上でそれらを洗い始めた。
「流澄さん、いいですよ。僕がやりますから」
「こういうのは、気が向いた時にやらせておかないと」
洗剤を大量にカップにかけて、それをスポンジでこする。
桜が慌てて止めに入った。
「多すぎます!!それに、洗剤は食器に直にかけるものじゃありません!スポンジにつけてから洗うんですよ!」
「そうなのかい?知らなかったよ」
そう言う間にも、流しは泡で溢れていく。
「ああ、もう!僕が代わります」
桜が流澄の手からスポンジを奪い、半ば彼を押しのけるように流しの前に立った。
「いやぁ、たまにはゆっくりしてもらおうかと思ったんだがねぇ……」
「お気持ちだけいただきます!」
うーん、と唸る流澄の手に、桜が水をかけ泡を落とす。
ぶつぶつ小言を言いつつも、桜の頬は緩んでいた。
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