警察からの協力依頼 六 〜手がかりは新聞記事?!〜

 ふたりは会計を済ませると、白花邸に戻った。


 流澄と別れた鷺本は、爽鳩の元に急いだ。


「探偵は何を言っていた」


「それが、昨日の屋敷の様子について尋ねてきただけでして、推理に関しては何も。我々を信用していないんでしょう」


「昼前に彼が指摘していたことについて、考えてみたんだが、あの密書が偽物だとすると、丘山は組織に捨てられたということになる。他の内通者から注意を逸らすための、いわば捨て駒だ」


 爽鳩の言葉に、鷺本はハッと目を見開いた。


「では、他にも内通者が……」


「今使用人らに、ひとりひとり取り調べを受けさせている。まあ、こういう事態も予想して、証拠は処分しているだろうがな」


「今日中に終わりますかね――」


「あちっ」


 応接室に、大きな悲鳴が響いた。流澄が飲み物を零したのだ。


「まあ、大変。火傷はしていませんか?」


 白花がすぐさま立ち上がり、右手にハンカチを持って流澄に駆け寄る。


 彼女は左手で流澄の腕を掴むと、茶色くなった袖口の辺りを熱心に拭いた。


「お嬢様、代わります」


「ありがとう」


 使用人のひとりが気を利かせ、白花からハンカチを受け取った。


「失礼いたしました。あなたの前では二回目ですね、桜にもよく言われるのですが、考え事をしていると、ついつい作法が疎かになってしまって」


「いえ、どうぞお気になさらないでください。それより、冷やすのが先ですわ」


「ひとりで大丈夫ですよ、お手洗いをお借りしますね」


 流澄がそう言うと、白花は少し不安そうな顔で頷いた。


「零したのが腕でよかった……。流石に高級な絨毯を汚したりしたら大変だ、作法にはもっと気を付けないと」


 流澄は腕を冷やしながら、困ったように呟いた。


 手洗いを出て廊下を歩いていると、窓の辺りで女中たちに出会った。


「山入端さん、掃除ですか?」


「あら、静星さん。そうよ、窓拭きしてるの。事件が起きても、私たちは変わらず仕事をしないといけないからね」


 そう言って、山入端は手に持った新聞をひらひらと振った。


「そうなんですね、お疲れ様で――」


 流澄は、山入端の手元を見て目を見開いた。新聞記事を凝視して、彼は微動だにしない。


「そういうことだったのか!」


 そう叫ぶと、流澄は「これ借りますね!」と言って、半ば強引に、山入端の手から新聞を取った。

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