警察からの協力依頼 四 〜組織の魔の手〜
そしてある日、事件は起きた。
まだ日が昇りきらない頃、電話を取った桜が流澄を呼んだ。
「鷺本さんからです」
「何だろうね、今行くよ」
流澄はあくびをしながらソファから立ち上がった。
「もしもし鷺本くん、代わったよ――え?」
流澄は目を見開いた。
「内通者が見つかった?!分かったすぐ行く」
流澄は受話器を置くと、自室に戻り羽織を羽織って出て来た。
「内通者って、まさか誘拐組織の……」
「ああ、朝ご飯は外で適当に食べるよ。昼も外になりそうだから、叶麗夫人に伝えておいてくれ」
「分かりました。あの、これ」
桜が差し出したのは、袋入りの手作りクッキーだった。
「小腹が空いた時に食べてください」
「ありがとう。行ってくるよ」
「おはよう」
「やっと来たか探偵」
白花邸は、警察関係者で混雑していた。
鷺本は何やら決まり悪そうな顔をして、流澄を出迎えた。
「口封じかい?」
「なぜ分かる。前と同じ類いのものだ」
鷺本はため息をついた。
「君は顔に出やすいからね」
やれやれ、と首を振る流澄に、鷺本は顔をしかめた。
流澄と鷺本は、爽鳩と話をしてから、早速容疑者の部屋に行った。
容疑者は丘山という名の女中で、警備に確認を取らずに外出しており、怪しまれて取り調べを受けた。
例の誘拐組織特有の呪いで死亡したため、内通者に違いないと見て、警察は屋敷内を捜索している。
女中の部屋は屋根裏に集まっているが、丘山の部屋は最奥だった。
廊下には大きな家具が出されていて、通るのに苦労した。
「荷物は全部階下に下ろしたが、部屋に仕掛けがないか調べているところだ」
「仕掛けねぇ。そっちは警察に任せるよ」
警官数人で壁や床を調べている。流澄は部屋の中を一瞥して、下に戻った。
「ごきげんよう、白花嬢」
「あらごきげんよう、静星さん」
白花は応接室にいた。
容疑者は警備をすり抜けて外に出たのだ、屋敷内の安全性も疑われる。
捜索が終わるまでは、白花は人が多い場所で待つことになっていた。
「大変なことになりましたわね」
「差し当たり問題なのは、屋敷の警備ですね。欠陥があったとは思えないのですが、何しろ相手は魔術師もいる組織ですから」
「今になって怖くなってきました。心安らぐはずの家まで……」
「一刻も早くこの屋敷の安全を確認しないといけませんね」
流澄は集められた使用人たちに話を聞いた。
丘山は、半年ほど前に入った女中で、仕事は可もなく不可もなく、人柄は真面目。
ただ、屋敷の誰とも仕事以上の仲にはなろうとしなかったらしい。
白花も同様のことを言っていた。
「今日はご存知の通り、賢里の帰郷の日だったので、屋敷の者全員で見送ることになっていました。でも賢里が出て行く時、丘山さんはいませんでしたわ。早朝だったので、寝坊でもしたのかと思っていたのですが……」
よく光る宝石のネックレスを触りながら、彼女はそう答えたのだ。
丘山は一体どうやって屋敷から抜け出したのだろう?
流澄は警官たちに混じって、犯人の荷物を調べた。
一本のペンに、流澄は違和感を覚えた。使われた形跡がほとんどないのだ。
蓋を押さえながらペンを引き抜くと、紙切れが床に落ちた。
ペン本体とカバーの間に、紙を隠せる隙間があったのだ。
「精巧な作りだね。高そ〜」
部屋から出てきた手紙と、ペンに隠されていた紙切れの内容を照らし合わせると、学園祭の日に白花を誘拐する計画が判明した。
使用人たちに確認すると、丘山は新聞を受け取る係をしていたという。
丘山はこのペンを使い、外の仲間と連絡を取っていたのだろうか。
「新聞配達員に確認を取る」
「口封じの呪いに関しては、慎重に頼むよ」
爽鳩は連絡係に指示を出し、新聞社に確認を取った。
配達員の青年が取り調べを受けることになった。
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