警察からの協力依頼 一 〜組織の実態〜

 白花姫には翌日に、ストーカーを捕らえたことを知らせた。


「ごきげんよう、寿々木さん」


「ごきげんよう、白花さん、霞さん。流澄さんは中で待ってますよ」


 桜が迎えに出ると、白花はぎこちなく微笑んだ。

 霞は相変わらずの仏頂面だ。


 白花が緊張した様子で頷いたのを見て、桜がドアを開けた。

 白花に続いて、霞が中に入る。


 廊下の奥の方に、警官たちに囲まれたドアが見えた。


「ごきげんよう、白花嬢」


 応接室に入ると、流澄がにこやかに立ち上がった。


「ごきげんよう、静星さん、市警の皆様」


 白花はぺこりと頭を下げた。

 スーツを着た鷺本、そしてその上司、爽鳩そうきゅう警部が返礼した。


「どうぞおかけください」


「失礼いたします」


 流澄に勧められて、白花はソファに腰を下ろした。


 流澄、白花、警察の話し合いが始まった。


 叶麗夫人が接待をし、桜は自室に下がっていた。

 まず、鷺本が前に出て、白花に頭を下げた。


「陰の護衛とはいえ、不安にさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


「いいのです。それよりも、誘拐組織とやらの話を今まで私に隠していたことの方が、不愉快ですわ。父のはからいですから、あなた方に非はありませんけど」


 白花はため息をついた。


「父から全て聞きましたわ。もう何ヶ月も前から、私が誘拐組織に狙われていると。鷺本さん、今までの陰なる護衛、感謝します。それと霞さん、これからもよろしくお願いしますね」


 白花は良家の令嬢らしい大人びた振る舞いで、それは警察から尊敬を集めた。


 それから白花は、使用人を監視するようになるであろうこと、ひとりでの行動は控えることなど、捜査における生活の制約に同意し、霞と帰って行った。


「護衛は霞さんひとりで充分ですわ」


「分かりました。くれぐれもひとりになるようなことがないように、お気を付けください」


「ええ」


 彼女は、私生活の制限や周囲の目を気にしたのだろう、護衛の件だけはかたくなに譲らなかった。


 昼食の後、流澄と警察は誘拐組織の逮捕に向けて話し合いを始めた。


 午前は晴れていた空に灰色の雲がかかり、にわかに雨が降り出した。


 流澄は、表向きは捜査の顧問として、警察に協力することになった。


「昨日届いた資料には、全て目を通したよ」


「そうか。で、何か気付いたことは?」


「そうだねぇ。資料を読む限りだと、確かに相当な魔術師がいるとは思うけど、それが今まで表に出たことがない、というのは怪しいね」


 ううむ、と流澄は唸った。


 前回の事件の後、捕まった構成員が情報を吐いたことで、組織は壊滅寸前になった。


 しかしある時から、口封じの呪いのために、情報を得られなくなった。


 それと知らずにむやみに口を割らせようとしたため、警察は組織を追うのが困難になってしまった。


 また警察は、組織内に内通者を送り込んでいたのだが、次の狙いが白花姫である、という密告の後、連絡が取れなくなった。


 資料にはそう書かれている。


 他にも資料には、過去の誘拐手口や被害者の話などが載っていたが、いずれも強力な魔術師の存在を前にしては役に立たない。


「過去の手口では、あまり魔法が見られないんだよね。だとしたら魔術師は、前回の事件の後に新しく加入したのかな。組織の立て直しに大きく貢献していると見る。だとしたらこの組織は、別組織の傘下に入り、保護してもらったのか」


「そうだろうな、上がいるとなると、かなり面倒だ」


「ううむ、そうだね。そういえば、霞くんは魔術師なんだろう?」


「ああ。なぜ隠していた、なんて言うんじゃないぞ。彼は一級魔術師だ」


 爽鳩は薄青い目を鋭くして言った。


「はいはい。機密情報かと思って、今まで聞かないでおいたんだ」


 流澄は頭の後ろに腕を回すと、天井を見上げた。


「今のところ、最も誘拐の危険性が高いのは、白花嬢の通われる中央女子大学の学園祭だ。その日は普段通り霞が護衛をする。また警察が会場を包囲するが、不特定多数の人が集まる場所だ、何が起きるか分からない」


「ううむ、お嬢さまも大変だねぇ。学園祭はいつなの?」


「一か月後だ。それまでは普段通り霞が単独で護衛する」


「まだ犯行が行われていないってことは、組織の魔術師は彼を恐れているってことだね。つまり、呪いが得意な魔術師でも、戦闘には向かないと見る」


「そうとは言い切れんぞ。こちらを油断させる罠かもしれん」


「まさか。そんなことするくらいなら、霞くんを倒してさっさと誘拐する方が手っ取り早いよ。それに高度な呪術を操るんだから、魔力量も相当だろうに」


 だらしなく体を伸ばす流澄を、鷺本がきっと睨みつける。

 流澄はむろん、知らん顔をしていた。


「まあ当面我々は、万全を期して警備に当たるだけだ」


「そうだね」


 こうして、あまり進展なく話し合いは終わった。


「もっといい資料を期待してたんだけどなぁ」


「期待外れで悪かったな」

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