第七話 ホシ

 館を襲う魔物を倒し、敵のボスと戦う村長の元へ向かった俺だが目の前で繰り広げられる光景に唖然とした。


 —————


 ホシとロックス。


 両者の間には剣戟のみが鳴り響く。

 常人の目には追うことの出来ないスピードで

 応酬される戦いは、剣と剣が交錯するたび、

 チリチリと火花を生んだ。

 彼らの剣がぶつかるたび空気が震えていた。


 しかし互角と思われていた剣のやり取りに一つの乱れが生じる。



 「ハア…ハア…。」


 ホシの攻撃の手が遅くなりつつあった。


 「どうしたホシ!やはりお前といえど老いには勝てぬか!」


 ロックスが剣を一振りすると凄まじい剣圧が発生し、ホシを吹き飛ばす。


 「ぐ…おのれ…!!」


 「どうやらお前はもう私にとって取るに足らん相手になってしまったようだな。終わりだ、

 ホシ!」


 ゆっくりとホシに近づくロックス。


 「村長!!」


 しかしそこに一人の少年が現れた。


 —————


 俺は村長を庇うようにして立つ。

 彼の体はもう血まみれ…。見るのも辛い有様だ…。



 「村長!大丈夫ですか!?」


 「マ、マナ!?いかん、此奴はお主の敵う相手ではない!私の後ろにいるのじゃ!!」


 「いえ…俺も戦いますよ…!」


 そう言い本を構える。


 「ほう。勇気のある少年じゃないか。良いだろう。私は勇敢な者は嫌いじゃない。その心意気に敬意を評し相手をしてやろう。」


 ヤツが剣を構えた。


 その瞬間、体に耐えきれぬ程の恐怖を感じ取った。


 なんだこいつ…。

 本当に俺なんかが戦えるのか…?

 クソ…。体が…。


 体中が震えている。

 これは武者震いなんかじゃない。

 純粋な恐怖だ…。


 落ち着け…落ち着け…。

 ここでやらなきゃ俺も、村長も…全員死ぬぞ!


 自分に言い聞かせ腕を掴み震えを止める。


 策は練った。

 あとは実行に移すのみだ…。


 —————


 (スパイダーウェブ…!)


 無詠唱で土魔術と水魔術を組み合わせた混合魔術を発動させる。


 しかし作る糸は透明のもの。


 前世での知識…といってもラノベやゲームからだが剣士は接近戦を得意とする。

 そしてそれは多分、こっちの世界でも通用するハズだ。


 ならば近づいてきたところに魔術で作った罠を張り巡らせておけば相手が近づいてきたところを捕えられるという算段だ。


 「俺が相手してやるよ…!かかってこい!」


 「ふむ。なるほどな。ではこちらからいかせて貰うとしよう。」


 瞬間、頭に鈍い衝撃が走った。


 「ガ、ガハッ…!?な、骨!?」


 攻撃してきたのは骨の手。

 そう、既にロックスは俺よりも先に動いていた。


 目眩がし、フラフラと地面にぶっ倒れた。


 「少年よ。教えてやろう。人とは何か一つに集中していると、存外周りが見えなくなる。

 だからこんな簡単な手に嵌ってしまうのだ。」


 骸骨スケルトンの剣士ロックスが俺の元までやってるくると先程の手を自分につけた。


 俺の作戦は失敗した。

 つまり相手の方が一枚上手だったのだ。


 「だが悪くはない策だ。お前は頭がキレるようだな。その歳でこの力ならば成長すれば強大な魔術師に大成するだろう。殺すのが惜しい。」


 ロックスが俺めがけて剣を振り下ろそうと

 する。


 「クソッ!!」


 咄嗟に放った光と火の混合魔術が辺り一面を包むと共に爆風で俺は遠くへと吹き飛び、一時的に場を離れることに成功し………


 「なるほど、魔術同士を掛け合わせ相乗効果を生むとは。素晴らしい才能だ。そのような芸当が出来る人間はお前で確か二人めか。だか、しかし。」


 ロックスが吹っ飛ぶ俺の前に突如現れる。


 「なっ…!?」


 「微かに残る魔力の残穢、周辺の空気の流れ、爆風によって生じた煙…などなど。痕跡が残り過ぎている。一言で言えば、詰めが甘い。」


 目にも止まらぬ早さで地面に再び叩きつけられる。


 「ゲホッ…!!」


 斬られたワケじゃない。ただ剣の柄で殴られただけなのになんてダメージだよ…!!


 こんなヤツ、序盤で戦う相手じゃない…。

 はっきり言って絶望だ。


 だが、だがな俺は立ち上がらないといけない。


 「はあ…はあ…。まだだ…!村には行かせないぞ!…!」


 「ほう。ここまで根性のある少年だったとはな。どうやら君を侮っていたようだ。良いだろう。正々堂々と戦いホシ諸共殺してくれる!」


 —————


 ここから俺の攻撃が開始する…と言いたいがそれは無理な話だった。


 出来る手は全て使った。


 だが魔術は剣で真っ二つ、俺の最大技である混合魔術も罠も奴の前では全てが無力。

 奴の動きを捉えるのも無理。

 せいぜい、黒いマントがかろうじて見えるぐらい。


 「ぐっ…!!!」


 吹っ飛ばされて木に叩きつけられる。


 「終わりだな。君はよくやった方だ。誇れ。」


 ロックスが俺の前で剣を構える。


 どうしようもない。絶望しかない。

 どうせ俺なんかじゃ何も出来ない。

 一方的なまでの蹂躙。


 打開する策などもう何も思いつかない。

 俺じゃどうしようも出来ない相手だったんだ。


 ああ、多分俺、死ぬな…。


 体中は怪我でボロボロ。

 無我夢中だったから気付かなかったかもしれないが多分、骨も何本か折れてる。


 剣が俺の死への道を確実に開こうとしていた。


 もう避ける気力もなければ避けようとも思わない。

 ここまでやって駄目だったんだ。

 これ以上どうこうして変わる未来が見えない。

 村のみんなには悪いけど…俺は先に死ぬ。


 死を受け入れた。


 —————


 ガキィィン!!


 「ホシ…!死に損ないめ…!」


 俺は死ななかった。

 肉が断たれる音の代わりに響いたのは剣と剣がぶつかる音。


 「キサマ…!俺の村の子に手を出すとは…!許さんぞ!!」


 村長が俺の前に立ち、守ってくれていたのである。


 「そ、村長…!!」


 「マナや。強くなったな。だが後は俺がやる。お主は下がっとれ。」


 村長の体から水色に輝くまばゆいオーラが溢れてきた。


 その光はとても優しくて、力強い…。

 希望を感じされるもの。


 「その力…!''勇者''のオーラか!まだそんなものが使えたとはな!ホシ!!」


 「言った筈だ!村のためなら俺は命を賭すと!!」


 両者激しい鍔迫り合いが繰り広げられていたが押し返したのは村長だ。


 剣を弾きロックスを遠くへと吹き飛ばす。


 「くたばれ!ロッックス!!!」


 村長は剣にオーラを集中させ構える。


 大地を震わせながらロックスの元へと駆け抜け必殺の一撃を叩き込んだ。


 「ぐわああああああ!!!!」


 —————


 凄まじい音が鳴り響いた後、煙の中から現れたのは…。


 「流石は私が認めた男。今のはこの生涯で最高の一撃であったぞホシ。」


 片腕を砕かれたロックスの剣が村長の胸を貫いていた。

 ボタボタと溢れる血が全てを物語っている。


 …村長は死んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天転星生〜異世界本の虫(ブックワーム)〜 キノ @kino52816

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ