第六話 ロックス

 —ホシ視点—


 「この気配……。並の魔物ではないな。」


 村に迫ってくる気配を察知し俺は行動に出た。


 「皆の者よ!今より現れる魔物はこれまでの比ではない強さじゃ!戦える者のみ残り他は私の館に避難せよ!」


 村の戦士たちは声を上げて武器を取り、館の周りに陣形を組み守りを固める。


 「村長さま…。村長さまは大丈夫なの?」


  一人の女の子、アイが涙目で見上げてきた。


 「安心しなさい。私はこう見えてチョー強いんじゃぞ?それにたまにはかっこいいところを見せたいんじゃ。これが終わったらまた遊ぼうな、アイや。」


 俺は微笑んで彼女の頭を優しく撫でた。


 「では行け!しっかり隠れとるんじゃぞ!」


 「ありがとうございます村長様…!ご武運をお祈りしております…!」


 言葉に答えたのはアイの母親だ。

 二人が館の方へ駆けて行くのを見送り、再び向かってくる敵へと視線を向けた。


 俺は…この子たちや村のために何があっても勝たねばならん。


 ————


 「来たか…!」


 奴らが村に放った炎の中からついに魔物の軍勢が姿を現す。


 ざっと100は超えるな…。

 ゴブリンやオーク、たちが悪い魔物が多い。

 面倒じゃな…。


 魔物の集団の中心に座するは骸骨スケルトンの姿に漆黒のマントを羽織った魔物。

 背には二本の剣を携えている。


 「ふむ…。貴様だったかロックス。…俺も歳を取ったようだ。気配で何者か分からぬぐらいにな…。」


 俺はこの魔物を知っている。

 かつて何度も剣を交えた相手、最強の剣士ロックスだ。


 「久しいなホシ。百年ぶり…といったところか?しかし老いとは恐ろしいものだなホシよ。

 お前からはかつて聖女と共に戦場を駆け巡り、人間最強と謳われた''勇者''としての覇気を全く感じない。」


 その言葉にフンと鼻をならす。

 しかし的を得た言葉でもあった。


 そうだな、俺にはもうかつての力はほぼ残ってはいない。

 だが以前変わらないのは守るべきものがあるということ。

 なら俺はこの命など惜しくない。


 「骨のくせに言いよるわ。だが貴様も老いたのではないか?俺の村に攻めてくるとは血迷ったか。」


 「仕方がないだろう。いくらお前が私の認めた好敵手ライバルといえど、魔王様の命令とあらば従わなければならんのだ。それに…今のお前には私の好敵手ライバルと言える力があるとも思えないがな。」


 ロックスは表情の変わらない骨の顔で淡々と語る。


 俺は手に持っていた杖の柄を抜き抜刀する。

 それに続き村の戦士たちも剣を抜き構えた。


 「まあ良い。俺はこの村を守るのみ。我が命を賭してもだ。」


 ロックスが剣を振り上げ合図すると魔物たちが雄叫びを上げて攻撃姿勢に入る。


 「…さらばだホシ。」


 一斉に魔物が飛びかかる。

 狼の魔物にオークやゴブリン、空を飛ぶ怪鳥の魔物が村に襲いかかってきた。


 「皆よ!!全力で村を守るのだ!!」


 俺の声を筆頭に村の戦士たちも負けじと声を張る。

 彼らにも家族はいる…。できるだけ俺が倒さねばな…。

 杖を強く握りしめる。


 こうして今、村の存続を懸けた壮絶な戦いが幕を開けた。


 ——————————————


「な、なんだこれ…!!」


 村に到着し、目に飛び込んできたのは平穏とは一変した村の姿。

 建物は炎が燃え盛り、戦地と化している。


 「見てください!マナ!」


 聖女様が指差した方を見ると村人たちが館を守りながら魔物と戦っている姿が見える。


 お、おい…。つかなんだよこの気配…。

 かつての強敵サイクロプスなど比にならないぐらい恐ろしい程の力を感じる。

 多分、これが魔王です。と言われればマジで信じるレベルには強いぞこれ…。


 こんなやつどうやって戦えば良いんだよ…。

 その魔物は骸骨スケルトン。

 この距離でもあいつが放つ圧だけで気圧されてしまいそうだ…。


 しかし、そいつと剣を交えていたのは村長ホシである。

 いくら遠くから見ているとしても、二人の剣は肉眼で捉えられるスピードをあまりにも超えていた。


 村長も強いだろうなって思ってたけどまさかこんなにだったなんてな…。


 だがやはり劣勢を強いられているようで、徐々に押され始めている。


 「聖女様!!村長様が!」


 「…ホシならしばらくはきっと大丈夫です…!なのであなたは村のみなさんを優先してあげてください!」


 聖女様も心配そうにホシの方を見ているが同時に館の方にも視線を送っていた。


「で、ですが聖女様…!?」


 「安心してください。ホシはああ見えてかなり強いのですよ。それにあの館の中にはきっとあなたのお母様もいらっしゃると思います…。」


 「!!」


 館を守る戦士の中には父もいたのだ。

 十中八九、母は館の中にいるだろう…。

 こちらも同じく苦戦をしていたのでこのままでは危ないかもしれない。


 そうだ、俺はここを守るって決めたじゃないか。

 一度決めたら男に二言はないだろ。


 「…僕は館の援護に向かいます。聖女様は怪我人の治療をお願いします!」


 「了解しました!マナ、あなたに神のご加護がありますように。」


 神はあなただよ…。


 軽く頷き走り出す。

 向かうは館。

 足を一歩踏み出すのすら苦痛となってくるがそれでも俺は館へと向かった。


 ——————


 村の戦士たちはかなり苦戦していた。

 最大の要因は圧倒的数の差である。

 やはり数の暴力とは恐ろしいな…。

 四方八方から現れる敵に対応しきれないのだ。


 「父さん!!大丈夫ですか!?」


 「マ、マナ!?お前どうしてここに!早く逃げ………ぐっ…!!」


 俺の問いかけに答える最中にも現れる魔物に父の言葉は止まった。


 まずはこの数をなんとかしないとだな…。


 ふー…。冷静になれ…。

 今までの修行を思い出すんだ…。


 深呼吸して落ち着かせようとしたが、恥ずかしながら体はガクガクしっぱなしだった。

 まあ良い…。

 やることはいつもと変わらないだろ…。


 『''神の書物アンドロメダ''』


 唱えると俺の手に本が握られる。

 そして戦うのに欠かせない魔術三つも起動だ。


 『''体内魔力循環''+''魔力生成''+''詠唱破棄''』


 すると体に魔力が流れ出し全身を循環する。

 これで準備は整った…。


 あとは上手くやるだけ…ああできるかな…。

 逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…。

 今一度俺はあの少年少女のパイロット達に敬意を評しつつ、覚悟を決める。


 「みなさん、離れていて下さい!!」


 合図すると全員が魔物から一歩退いた。

 地面に手をつき、何かしようとする俺を見て察したのだろう。


 本のページを開き、腕から地面へと魔力を放出する。


 『蜘蛛糸スパイダーウェブ!』


 土と水を組み合わせた混合魔術。


 魔力を流れるように地面へと流し込み、土と水を混ぜ合わせスパイダーの糸を造り出す。


 ブシュ!!


 放たれた魔術は魔物の足元で飛び出すとその体を縛りつけた。

 突然の事に魔物たちは対処できずに、糸をちぎろうと必死にもがいていた。


 「今です!!」


 チャンスを作り出し、声をかける。


 父を筆頭として全員が意図を理解したようだ。


 「うおおお!!」


 身動きのとれなくなった魔物に一撃を食らわし、辺り一帯全ての殲滅に成功した。


 はああ…。良かった出来たあ…。

 ひとまず安心した。

 対象、完全に沈黙…なんてな。


 「お、おいマナ…。お前、今のどうやって…」


 「父さん、安心するのはまだ早いですよ。」


 おい、冗談言ってたやつがどの口で言ってやがる。

 まあでもそれも本当だ。

 村長の方を見るとまだ激しい戦いは続いている。

 どうやら父も村長を見て納得したらしい。


 「ああ…。そうだな。で、お前はどうするんだ?」


 「僕も、村長様の元へ行きます。」


 「…そうか。お前はもう俺より強いから何も言うまい…。だが、母さんの事は任せろ…。」


 父は俺の力を認めてくれたらしい。

 そのことにほんの少し心が温かくなった。

 努力を認めてもらえることほど嬉しい事ってないよな…。


 「ありがとうございます…!」


 父の言葉に頷き、俺は村長の元へと走り出した。

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