第五話 ''太古の魔術''
あれから俺は死んだように眠り体の疲労を癒した。
そしてしばらく経った後、ついに修行が始まった。
俺はこの世界で戦うにはあまりにも体力がカスすぎるので基本は走り込み。
走る事とは程遠い人生を送ってきたため、これがまあかなりキツイ。
あとはその日倒した魔物との戦闘をおさらいして魔術の練習というのが主なメニューだ。
混合魔術も一朝一夕で出来るものではなく、組み合わせによってはかなりのテクニックを要する。
そういや、村長は混合魔術を見てすげえ驚いてた。
なんでもこの世界ではあまり見かけないらしく、聖女様曰く使えるのは本当にごく一握りの魔術師だけらしい。
ならなぜ魔物が混合魔術を使えるのかと言うと、ヤツらにとってそれは種として体に刻まれたもの。
例えるなら…遺伝のようなものか。
代々、その力が受け継がれていき、種固有のものとなっているのだ。
ちなみに人間にはそういった力はないのでもちろん使えない。
人間って弱いのかもしれん。
混合魔術を使うには繊細で緻密な魔力操作を行わなければならないので普通の人にやれる訳 ではないそうだ。
俺は格ゲーをやり込んでたお陰で流れるようにやれる。ありがたいものだ。
使えない人に向けてのアイテムも一応は出てたらしいが莫大な魔力を消費するため流通はしなかったらしい。
一般人が使えないんじゃ本末転倒だしな。
—————
「おお!すごいですね。」
聖女様が声をかけてきた。
「これは火系魔術と光系魔術を組み合わせたものです。相手の目をくらませ、攻撃できるかなと思いまして。まあ僕は魔力が少ないんでどっちも初級ですから威力はあまりないですね。」
「…なるほど。」
聖女様はじーっとこっちを見てくる。
その目で覗かれるとドキッとするから心臓に悪いな…。
しかし、この人は結構単純なので表情に出やすい。
今もなにか俺に聞きたい事があるんだろう。
ただ、この純粋さが聖女様の良いところとも言えるだろうな。
守ってあげなきゃ!という感じだ。
「あの?聖女様?どうかしたのですか?」
「え、ええ!?ど、どうかしました?」
「顔に出てますよ。」
教えてあげるとあたふたとチラチラこっちを見てくる。
「えっと…マナ?少し聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか…?」
「?もちろんですよ。」
聖女様が話し始めた。
—————
「先日、私はあなたの体に回復魔術をかけましたね?」
「はい。おかげでとても良くなりましたよ。ありがとうございます。」
「それは良かったのですが、その時に私は気づいたんです。マナ、あなたの魔力は微量…それどころか赤子よりも量が少ないのですよ…。
ならばあなたは今までどうやって魔術を使っていたのですか…?」
聖女様は核心に触れてきた。
そう、俺のこの体には魔力が全く流れていない。
いや、全くという程ではないがそれこそ赤ちゃんとおんなじぐらいだろ。
それを''魔力生成''でカバーしてきた感じだな。
まあいつかはバレると思ってたし隠してても意味がない。
聖女様と村長辺りはすぐ気づきそうだったし。
この際、俺のこの能力、''
「聖女様、これを。」
「この本は…あなたがいつも持っていた…。」
本を手渡すと表紙で薄く光っていた青いラインが消え、黒表紙となった。
「これは…どこの国の文字でしょう?見た事ありませんね。」
やはり聖女様でも読めなかったか。
日本語はこっちでは存在しないようだ。
「まだ聖女様が目覚めてない時に魔物が来たという話をしたじゃないですか。その時、魔物に捕まってしまった際に僕の視界に文字が見えたんです。」
「文字?」
「はい。こう書いてありました。『能力獲得』
『能力名''
話し終えると聖女様は目を見開いて驚いていた。
「ま、まさか…!?いえ、ですがそれなら全て腑に落ちますね…。なるほど…。」
「何か分かりますか?聖女様。」
反応から察するに手応えはアリだ。
間違いない、何か知ってるな。
「マナ。あなたは知る必要があります。私の話を聞いてくれますか?」
神妙な顔をしている、となるとこれってかなりのおおごとなのか…?
ここまでくれば聞くしかないだろう。
「…お願いします。」
「ではよく聞いてくださいね。」
俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。
—————
「この世界にはある一つの力が存在します。」
「力?」
「はい。その力を持つ者は永劫の時を生き、全てを超越した能力を持っているとされています。力の名を''
「
この世界で言う特殊能力といったところだろうか?
だが俺の本となんの関係があるのだろう。
「私は現在の''
「ただ一つ、ですか。」
「全ての叡智、世界の真理、そしてこの世の理が記され、所有者にそれらを与えるとされる能力…。それこそが''
今まで当たり前のように握っていた一冊の本を見た。
水色の光が変わらず光っている。
「これが…?マジかよ……。」
今までただの攻略本か何かだと思ってた。
いや、それだけでも十分チートなんだがまさかここまですごい代物だったとは…。
あれ?でもそれにしてはそこまでの力はないように感じるが、まあそこは将来性に期待しておこう。
だがこの本はあくまで知識であり、基本肉体の強さに依存する。
知識だけでは勝てないということなのである。
確かにこの本は大きな力となっている。
もしかしたらまだその力の全てを引き出せていないのかもしれない。
「もし、もしあなたの持つ力が本物の''
「今よりももっと強く…ですか…。」
''大いなる力には大いなる責任が伴う''
俺が最初に戦ったスパイダーの力を宿した男の父の名言だが要はそう言う事だ。
この力を狙って俺、あるいは村の人々まで危険に晒してしまっているかもしれない。
だから俺が強くなって迫り来る刺客たちを撃退出来れば手っ取り早いと言う事だな。
「そうですね…。この事が知られればあなたを襲いに魔物たちが………。」
聖女様が言いかけていた言葉を飲み込んだ。
その瞬間、轟音が鳴り響いた。
「な、なんですかこの音!?」
「マナ!あれを見てください!!」
聖女様が指差した先……。村の方から炎が轟々と上がっていた。
「な、なんだあれ!?急ぎましょう!聖女様!!」
「はい!!」
突然の出来事に俺の心臓は鼓動を早める。
おいおいおい…頼むから間に合ってくれ…。
俺は誓ったんだよ…!村を守るって!
額に浮かぶ汗をこぼしながら俺たちは村の方へと駆けて行った。
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