第四話 戦う理由
「こりゃすごいな、魔術同士を組み合わせてしまうとは。あのような事が可能など知らなかったぞ…。」
「はい…。ですが私は心配で心配でなりません…。今だってかなりの傷を負ってしまっています…。大丈夫でしょうか…大丈夫でしょうか…。あわわわ…。」
ホシと聖女は後ろから戦いを見ていた。
「なにをあわあわしとるのじゃ。君が一番見なきゃならんじゃろう?」
「そう、ですね…!応援しましょう!ホシ!」
ホシは頷くと再び二人は戦いに目を向けた。
—————
「はあ…はあ…。」
スパイダーとの戦闘のダメージがデカい…。
噛まれた肩から血がドクドクと流れている。
「いってえ…。回復魔術、かけないと…。」
本のページを開き回復しようとする。
「ヒーリン………。」
ドン!
突然体に何かがぶつかったような衝撃がくる。
その正体は、スライムだった。
スライムは高速で跳ね始め、幾度となく体をぶつけてくる。
「ッ痛…!!」
一撃一撃は重くない。
しかしそれが何度も重なる事にじわじわとダメージが広がっていく。
しかも先ほどの傷にあたるとメチャクチャ痛い。このヤロォ……ぶっ殺す…と言いたいところだが、
「クソッ…。早すぎて目で追えねえ…!」
俺ではヤツの姿を捉える事ができなかった。
スライムが元いた俺の世界と同じで''最弱''として認識されているのは変わりはない。
だが、いくら最下級のザコであっても、一般人だった俺の視力で見えるスピードじゃなかった。
微かに見る事ができたのはヤツが動く朧げな軌跡ぐらいだけ…。
俺、というかマナの身体能力は現代人に準拠するから、魔法を使う暇が与えなければ俺はザコすら倒せない非力なクソガキであった。
(俺、なんで異世界に来て戦ってんだろ…。)
よく考えれば俺がここで戦う理由ってなんだ?
突然異世界に転生して、驚く暇もなく魔物に襲われた。
この前は命を落とすとこだったんだぞ。
聖女様だって嫌ならやめて良いって言ってたよな。
ならやめても良いだろ?
俺が戦う必要ない…。
(だけど…!)
絶え間なく浴びせられる攻撃の数々を耐えながら、ヤツが地面や木の枝などにぶつかる痕跡を観察していた。
「次にくるのは…ここだろ!!」
地面に手を置き初級の土魔術をセット。
高速で俺の張ったトラップに突っ込んできたスライムは地面に触れた瞬間、土魔術が作動し、串刺しとなった。
「これでっ…二体目だ!」
—————
俺は前世で配信業をしていた。
毎日見に来てくれるのはほんの数人ぐらいだったがみんなで楽しくワイワイしながらやるゲームは格別でとても楽しかったんだ。
そう、何事も楽しむ事は大切な事だと思う。
しかしこの世界は違った。
いつ襲ってくるか分からない魔物たちに怯える村の人々。
子供までもが暗い顔してる。
最初こそ戸惑ったがどうせなら俺は異世界を楽しみたい。
そのためには自分がいる場所を守る。
ひいては自分と同い年ぐらいの父と母、怯え、震える村人や子供たちを守る事に繋がる。
自分のためで良い。それがみんなのために繋がるのならな。
…それにこの村、魔物がメチャクチャ来るんだからどうせ戦わなきゃいけねえし…。
—————
「うおおおおおお!!!」
最後に残すは黒い影のような魔物''
コイツは本によれば体が魔力で構成されているため、物理攻撃が効かないらしい。
だがそんなもの関係ない。
なぜなら俺に物理攻撃などと言う発想は一ミリもないんだからな。
「''炎''!!」
火系魔術を食らったミストはザアアアと散り散りになっていった。
目には目を、魔力には魔力を。がコイツの倒し方である。
俺にとっちゃスライムより楽勝な相手。
要するにクソザコってコトだけど本がないと倒すことすらできないのであんまりデカい口開かないようにしておこう…。
「すごいです!すごいですマナ!ほら行きますよ、ホシ!」
「ステラー。そんなに飛び跳ねてるとまた…。」
聖女様がぴょんぴょん飛び跳ねながら俺の元へ走ってくる。
かわいいけど先が読めるぞ…。
「わぶっ!!」
「だ、大丈夫ですか聖女様!?」
「やれやれ…だから言ったのにのお…。」
聖女様が目の前でコケた。
やっぱり予想してた通りだな…。
しかし聖女様はすぐに起き上がった。
「私など心配ご無用ですっ!さあ、あなたの傷の手当てをしましょう!」
「ありがとうございます。」
俺たちは向かい合わせに座る。
『神なる力は我が力。かの者に癒しと恵みを与えん。』
聖女様が詠唱するとみるみるうちに体の傷が治っていく。
それにしてもこの詠唱、一体なんの魔法のなんだ?
本にこんなの書いてあったかな?
まあいいや…。後で''
「気分は良くなりましたか?」
「聖女様のおかげでとても良くなりました。聖女様の回復魔術はすごいですね。」
「良かったです。大きな怪我がなくて…。とても安心しました。」
ホッとして息を漏らす姿を見ると相当俺を心配していてくれたのが分かる。
本当に良い人だよ…。
「これで分かったじゃろう?マナ。魔物と戦う事の恐ろしさを。ワシらはお主を強くする為、これ以上辛い事をするかもしれん。それでも戦う覚悟はあるか?」
村長が厳かに言い放った。
「そうですよ。決めるのはあなたなのですから。」
「いえ。」
語気強めに言ったので二人は俺をじっと見た。
「俺は戦います。聖女様のため、村の人のため、親のため…。そしてなにより自分のためにです。死にたくありませんから。」
その回答に二人はポカンとした後少しだけ微笑んだ。
「はっはっは!自分のためにか!ならば私たちが止める理由もないのお。」
「ええ。マナ、私たちも最大限サポートを尽くしますので共に頑張りましょうね!」
「……はい!」
思えば自分の力で認めてもらったのはこっちにきて初めての経験である。
しかもこのすげえ二人にこうして褒めてもらえるなんて嬉しいな…。
こうして俺の初めての戦いは終わった。
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