第三話 初めての戦闘はそこら辺にいるクモの魔物

 「え、えっと気を取り直してマナ、会いたかったですよ。」


 聖女様は俺と村長の手伝いがあって無事立ち上がった。

 その顔はメチャクチャ赤くなってた。

 だが、傷らしきものは全て治したはずなので恥ずかしくて頬を赤らめているのは丸見えである。

 俺の髪より赤いのでよっぽどだな。


 「僕もお目にかかれて光栄です聖女様。聞きたい事は…色々ありますがよろしくお願いします。」


 「はい!よろしくお願いしますね!」


 溢れんばかりの笑顔が飛んでくる。

 これは致命傷間違いなしだ…。


 それはそうと聖女様のイメージというか印象が変わった。

 美しく神々しいのは変わらないがそれより俺の中でグングンと増えていったのは''かわいい''である。


 前世の知識がある俺にとって、いや、ましてイラストレーターとしても活動していたので''青髪ドジっ娘ロリ聖女''なんて属性盛り盛りの魅力のカタマリなんてたまらないに決まってるだろ?


 さてさて、下世話な話はこれくらいにしよう。



 「では本題に入りましょう。マナ、あなたがなぜずっと眠り続けていたのか、そしてなぜ私に出会う事になったのかを今から話します。」


 聖女様の表情がとても真面目になったので話をしっかりと聞くことにした。


 「お願いします…!」


 聖女様はコクっと頷くと話を始めた。



 「まず、あなたがなぜ今までの間眠っていたのかについてです。」


 「……!」


 「それは私の仕える賢者様のおぼし目だからです。賢者様は、『この少年が目覚める時こそ世界が変わる』と仰り、人知れず生まれたばかりのあなたを眠りにつかせました。」


 …俺が生まれたら世界が変わる…?

 話のスケールがデカすぎてついていけないぞ…。

 だが、やはり第三者の加入があったんだ。

 普通の少年が生まれてから一度も目が覚めないなんて事ありえないもんな…。

 

 「二つ目はそのお言葉に従ったもの。私はあなたが目覚める時まで結界を張り、この村を守っていました。しかし次第に結界は力を失いはじめたのであなたが私の元へくるまでになんとかもってくれて良かったです…。この結界はあなたが目覚める時になると解けるように私が設定しましたからね。」


 「す、すまんステラー。」


 村長がバツの悪そうな顔で聖女様を覗いている。


 「どうしました?」


 「最近は特に魔物が何度も村に入ってきておる。それこそ先日そこのマナが魔法で撃退してくれたばかりなのじゃよ。」


 きっと村長もこんな事言いたくないだろう。

 だが彼にも村長としての責任がある。

 言わねばならぬ時もあるのだ。


 「そ、そうなんですかぁ!?それはっ…も、申し訳ございません!決してだらけていた訳ではないのですよ…?こう見えて頑張って…。」


 「分かっておるよ。現に被害者が一人もおらぬのは君のおかげじゃ。感謝してもしきれないよ。」


 「そうですよ聖女様。僕たちはみんなあなたに感謝しています。」


 驚きでまん丸に見開かれた目だったが村長の優しいフォローにより段々と落ち着いてきたようだ。


 しっかし村長、聖女様の扱い上手いな。

 さっきの言葉で聖女様もまんざらじゃなそうだ。


 だが、俺も便乗したのできっとプラスになっただろう。

 村長が目線でナイスと伝えてきたので間違いない。


 「お役に立てていてよかったです…。ですが良いことも聞けました。マナは魔物を倒したのですか?」


 「は、はい。でもその時はただ死にたくない一心で…。」


 「生とはとても大切なものですよ?それを守るのは良い事です。」


 そう言うと聖女様は目を閉じた。


 「村の近くに魔物の残党が残っていますね。

それじゃ行ってみましょうか」


 「え?」


 聖女様の言葉を最後に俺の視界は光に包まれた。


—————


 「さあ、着きましたよ。目を開けてみて下さい。」


 言われた通りに目を開けてみる。

 ここはさっきまでの洞窟じゃなく、村外れの森だった。

 森の中でも比較的に開けた場所でその分視界も広い。

そんな中、目に入ったのは…。


「せ、聖女様…!魔物がいますよ!?」


 いたのはスライム1匹、蜘蛛の魔物スパイダーが1匹、カゲみたいな黒いミストという魔物たち、三体である。

 どれらも十歳の体の腰の辺りまでの大きさといったところだ。


 「マナ、その魔物を倒してみて下さい。もし倒せれば話の続きをします。」


 「なっ…!?」


 突然の事を言われ、俺ですら止まってしまう。



 「私はあなたを強くするようにと命じられています…。ですか…えーっと…その…」


 「お、おい大丈夫か?」


 聖女様があまりにも辛そうにしているので村長が心配そうに尋ねた。


 「だ、だって!本当はこんな事言いたくないですもん…!マナは目覚めたばかりなのにこれじゃ、かわいそうですよ…!」


 「聖女様…。」


 「嫌でしたらやめても良いんですよ…?」


 聖女様が俺に視線を向けてくる。

 顔がとても不安そうで暗い。

 聖女様がそこまで考えていてくれたなんて、いやこの人は限りなく優しいのだ。


 「い、いえ…。俺、やりますよ。」


 あなたのそんな顔見たらやめれるワケないだろ?

 それに聖女様にも都合がある。

 俺は本を構え、三匹の魔物に向かい合った。


 「で、ですが無理をしてはいけませんよ…。つらかったり危なかったらすぐ逃げて良いですからねっ!」


 軽く頷くと、どうやら前方の魔物共も俺に気づいたらしい。


 こうして俺の異世界でのまともな初戦闘が開幕した。


—————


 ブシュ!!


 クモの魔物がこっちに糸を撃ってくる。

 かろうじて攻撃をかわしたが、元異世界人で引きこもりの動体視力ではギリギリがやっとだ。今も髪に掠ったから次は危ないかもしれない。

 一度、体勢を立て直し、戦略を練るため本に書いてあった内容を思い返す。


 ''魔蜘蛛スパイダー''の糸は土系魔術と水系魔術を組み合わせたものらしい。土で形を作り、水でしなやかさ、滑らかさ、そして粘着力などを操作する。


 (ならばすることは…)


 俺のゲーマー脳が計算する。

 ここですべき事は火系魔術に魔力を多めに込め、水系魔術を蒸発させる。

 そして土系魔術同士で相殺。

 その二つを組み合わせて撃てば理論上、ヤツの糸は突破可能だろう。


 俺が戦うキーとなる『体内魔力循環』と『魔力生成』、『詠唱破棄』を起動させ、魔術を放つために本を閉じて能力で仕舞った。



 「今だ…!!」


 スパイダーが糸を放つのがチャンス。

 俺はスパイダーが糸を出したと同時に策を実行に移す。


 だが、魔術を撃つためにかざした手からは一向に魔法が出てこない。


 消される予定だった糸は勢いを止めずに、俺の体に巻きつき、がんじがらめとなった。


「な、なんで、なんでだ…!?」


 体の糸を振り解こうともがくが全く千切れる気配はない。

 まずい、スパイダーがじわじわと距離を詰めてくる。

 鋭く伸びた爪をカチカチといわせ、ギョロッとした八つの目で俺の姿を凝視している。


 体が密着し、突然、ヤツは俺の肩に噛みついてきた。


 「う、うわあああああ!!!!!」


 激しい痛みが俺を襲う。


 なんで…なんでだよ!?

 なんで魔法が出ない!!

 あの時は…出ただろうが!!!

 激しい苦痛が襲い続ける中、俺は思考を止めなかった。

 魔力はちゃんと供給しているし、混合魔術だって本には存在そのものが使えるものだと書いてあった。


 なにか、なにかがあるはずだ…。俺が魔法を撃つことの出来る理由、条件ってのが…!!

 思い出せ…!あの時と今の違い…!

 あの時あって今ないものを!


 「ぐわああああああ!!!」


 スパイダーがもう一度同じ箇所を噛みついてきた事で抉られるような激痛が体の中を駆け回った。


 視界がチカチカとし始めたその時、ピーンと俺の頭の中に答えが浮かび上がった。


—————



 ゴオオオオオ…。


 火系魔術により体に巻き付く糸とスパイダーもろとも燃え盛りチリとなっていく。

 糸も混合魔術のレジストにより相殺されボロボロに崩れ去る。


 スパイダーは完全に消滅し、俺の体から消えた。


 俺は……倒したんだ…。


 「そうか…本…。俺は本を持ってないと魔法が使えないんだ。」


 こうして、俺の初戦闘は終了した。

 だがあと二体…残っている。

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